第14話 未知の杖を探ってみよう
「このメラメラと燃え滾る火の玉の消し方知らない?お前の言う通りの魔法出したつもりなんだけど」
俺は自分で出した魔法の消し方がわからず戸惑っていた。
めちゃくちゃ鬱陶し、何よりまぶしい。
「これがルミナ・オーブ? バカ言わないで! こんなのルミナ・オーブじゃないわよ! 初歩魔法の領域を完全に逸脱してるわ。第一、『ルミナ・オーブ』は月の光を宿す魔法よ! これのどこが月なのよ! ……太陽じゃない!」
「そんなこと言われても......俺はそのつもりで放ったよ?」
彼女の指摘はもっともだ。先ほど彼女が使っていた光とは、レベルが違いすぎる。
何がどうなってこうなったのかは、皆目見当もつかない。
だが、魔法の理論自体は同じはずだ。
現に、彼女の手元にあった光は自然と消え失せている。
「リーゼ。お前の魔法はどうやって消したんだ?」
「私のは、自然消滅よ……。あんたの奴ほど濃密な魔力がこもってないからね」
「それじゃあ、俺も気長に待つとするか」
ただ、なぜだろう。急に魔法が扱えるようになったのには、何か法則があるはずだ。この杖を介して魔法を行使したのは、これで二度目になる。
決定的な違いは『発動のプロセス』だ。
一度目のあのエネルギー波は、俺の意思とは無関係に、気づけば勝手に発動していた。まるでシステムの暴走に近い。
対して今回は、俺が明確にイメージし、トリガーを引いた。
……さあ、どういう理屈だ?
いい機会だ。ここでこの杖の『仕様』を、とことん探っておこう。
それにしても、なぜだろう。急に魔法が使えるようになった。
この『神の杖』で魔法を発動させたのは、これで二度目だ。
状況を整理しよう。まずは「魔力」だ。
あの強力な魔法を放てた時点で、杖自体に魔力が宿っているのは確実だ。なにせ俺の……あの悲惨な魔力値で出せるわけがないからな。悲しい現実だが、こればかりは否定しようがない。
では、その「魔力量」の仕様はどうなっているのか。
パターンは2つだ。
① 一定の魔力量が決まっている(定期的な充填が必要なバッテリー型)
② 底なしの魔力量(永久機関型)
一度目の魔法で魔力を全消費し、二度目の魔法までに再充填が完了したと考えると、パターン①に辻褄が合う。
だが、現状魔法を二度しか使っていないため、判断材料が少なすぎる。
ここで結論付けるのはやめておこう。もし後者の場合、俺は理論上「最強の魔導士」になり得るからな。……可能性の芽は、大きく残しておきたいのだ。
次は『魔法の発動』だ。仮説は三つ。
①完全気まぐれ発動
②「暴発」と「奇跡」
③意思によって発動
……まあ、①は捨てていいだろう。
二度の魔法がどちらもピンポイントで魔獣に向けられている時点で、確率論的にあり得ない。もしこれが完全気まぐれ発動なら、今頃俺は「この世界にはもう空きがないんじゃ」とか言われて、別の異世界にでも飛ばされているはずだ。
となると、検証すべきは②と③だ。
これは今後、杖を触りながら試行錯誤を繰り返すしかない。
この三つの仮説以外にもあり得るしな。
……なんて考えている間に、先ほど発動した『ルミナ・オーブ』が、急速に光量を落とし始めている。
どうやら、魔法の持続時間には限りがあるらしい。
「そろそろテントに戻らないと、寒さで凍え死ぬわよ」
リーゼの言葉に対し、俺はまだ辺りを煌々と照らしている小型太陽を指差した。
「その前にもう一回、試してもいいか?」
「別にいいけど……また魔獣が寄ってくるようなことになったら、その時はあんたを囮にして逃げるからね!」
「大丈夫だって……多分」
深呼吸をし、精神を杖へと集中させる。
「――ルミナ・オーブ」
するとまたもや杖の先端から光の粒が宿る。
俺は先ほどの経験を活かし、すぐさま杖を上空へと振り上げた。
光の粒は夜空へ向かって一直線に飛翔し、次の瞬間、パァァァン!と音を立てて弾けた。
それはまるで、夜空を彩る花火のようだった。。
「これで完璧、完全習得だぜ」
俺がニカっと笑うと、リーゼは少し悔しそうに口を尖らせた。
「ふん! 魔導士ならそれくらいできて当然よ! ……と言いたいところだけど。一度見ただけの魔法を、こうも簡単に扱ってしまうなんて……正直、驚いたわ」
「そうだろ? あんまりお兄さんを舐めたらいかんよ?」
異世界に来てから初めて、誰かに褒められた気がする。
……なんか、むず痒いけど、悪くない。
そんな感慨に浸りつつも、俺の頭は冷静に分析を続けていた。
やはり魔法の発動パターンは③――『意思による発動』で確定だ。最初の発動はただの暴発だったが、仕組みさえ理解すれば意図的に再現できる。
しかも、完璧に再現できるどころか、元の魔法の何倍、何十倍もの威力で放ててしまう。
……そうか、これは杖のせいじゃない。
杖の性能というより、これは間違いなく「俺の才能」だ。
これに関しては根拠なしだが、俺自身を信じてやりたい。
そう結論づけると、なんだか少しだけ、この理不尽に転生させられたこの世界も悪くないかなと思えるんだ。
◇◇◇◇◇
俺とリーゼは、どうやら想像以上に遠くまで走っていたらしい。
十分ほどかけてようやく辿り着いたキャンプ地は、先ほどの騒動が嘘のように静まり返っていた。燃え尽きた焚き火の跡と、ポツンと残されたテントが、そこが俺たちの休息場所だったことを伝えている。
俺は地面にどさりと腰を下ろし、パンパンに張ったふくらはぎをもみほぐしながら、隣に座るリーゼに声をかけた。
「……リーゼ。悪いが、もっと他の魔法を見せてくれないか?」
そう、俺にはもう一つ確かめたい仮説があった。
この『神の杖』の特性についてだ。
さっきの『ルミナ・オーブ』が俺の手で再現できたこと。
それが偶然ではないのなら、この杖には、一度見た魔法をコピーするなんて言う最強特性付きなんじゃないか?
無尽蔵な魔力とコピーを使えるなんて、もしかして俺は最強なのでは......
「そういうことは、もっと熟練の魔導士に頼むことね!私はもう魔力切れだし、そもそも魔法はあれ以外使えないわ!」
「自慢げに言うなよ...」
そう。完全に忘れていた。
彼女は魔導士としては、雑魚中の雑魚。
あれで魔力切れなんて、魔力量は俺以下なんじゃないか?
騎士としての才覚があってよかったよ。ほんとに。
「じゃあ私もう寝るわよ。明日は日の出と共に出発だからね!」
「了解。じゃあ俺も寝るとするかな...」
彼女がテントの入り口を開けたその直後、俺は図々しくその背中についてテント内へ滑り込もうとした。
「何やってんのよ馬鹿!ここは私のテントよ!」
「いいじゃないか...。別に2人くらい入れるじゃないか。外で寝たら風邪引いちゃいます」
「知らないわよ!何も持ってこなかったあんたが悪い!」
――ドンッ!
交渉決裂。
無情にも放たれた強烈な前蹴りが俺の腹部に突き刺さり、俺の体は再び寒空の砂地へと放り出された。
「ぐふっ……」
寒すぎる。せめて毛布の一枚でも貸してくれてもいいだろうが。
俺は砂地に寝転がり、凍える手で震えながら誓う。
今回の報酬が入ったら、まずは最高級のキャンプセットを買い揃えてやると。
そう心に刻み込み、俺は歯をガタガタと鳴らしながら、過酷な砂漠の夜へと眠りにつくのだった。
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