第十一話
パーティ間での話し合いを終えた俺たちは、北の草原の奥地を探索していた。
なぜかと言えば、ボスを攻略していない段階で次の街には進めないというのがあるが、ならばどこまで行けるのかを試してみたくなったのである。
また、今回は湿地帯とこちらの北の草原の両方を探索することが出来るので両方にボスがいるのか、という疑問の解消に来たというのもある。
ちなみに湿地帯は嫌な雰囲気が漂っているので本当に嫌いだ。
以上の理由からここを探索しているのだがなかなかモンスターに出会わない。
来る途中ではオオカミやスライムなどのいつものモンスターに絡まれたりもしたのだが、ここではエンカウントが一切無い。
「おかしいな、一切モンスターがいないぞ」
「本当ですね。もともとそういう地帯・・・と言うわけでもなさそうですね。バグかな?」
しばらく進んでいくとさらに奥から戦闘音のようなものが聞こえる。
ざわりと背筋が少し凍ったが気のせいだろうか。
「行ってみよう!」
「はい!」
とりあえず音の方向に向かうことにした。
音の発生源と思われるところにつくと驚愕なものを目にする。
モンスター同士で争っているのだ。
いや、正確に言えばいじめに近いものかも知れない。
特徴的な大きな尻尾を持つ全長2メートルほどの白いオオカミが、ミ=ゴ6体に囲まれ襲われていた。
オオカミは反撃しようとするが疲れ切っていて、その攻撃に覇気は無い。
急いでカーソルを合わせ、オオカミの情報を見てみることにした。
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フェンリル Lv.??? 神獣種
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神獣種なるものは初めて見た。
もし魔獣種だったりしたらこのままモンスター同士が争った後に漁夫の利をしようと思ったのだが、神の使いとなると話は変わる。
俺たちはフェンリルに夢中になっているミ=ゴの後ろから、不意打ちを仕掛けた。
ミ=ゴは浮遊しているが、跳躍すれば届く位置にいる。
俺は大鎌、グランドサイズを構えつつ跳び、空中で回転し、遠心力をつけて1体のミ=ゴにたたき込んだ。
ジャキッという普段なら聞いたことのないような虫が真っ二つに切られる音をたて、1体はポリゴンとなった。
ミ=ゴがこちらに注目したとき、放たれた3本の矢はそれぞれのミ=ゴの脳、というか触手が生えている部分に突き刺さった。
後ろでは勢いづいたようにフェンリルが暴れ出す。
挟まれている状況を見てさすがに無理だと悟ったのか残りのミ=ゴ達が逃げ出す。
が、のこのこ逃げ出すのを見逃す俺たちではなかった。
カザキが次々と属性矢を放っていく中、俺はアイススピアを5つ生成し、5匹それぞれのどこかしらに突き刺す。
もちろん、ミ=ゴたちは串刺しになり次々に消えていく。
なぜアイススピアがたくさん生成できたかというと、《氷結魔法》にスキルが進化してから実は、最大で5本まで生成できるようになっていたのである。
しかし、俺が気づきもせず検証もしていなかったため出来ていなかった。
だが、ここ最近のイノシシ狩りでこのことが判明したのだ。
ミ=ゴを倒した俺たちだったが、未だに脅威は続いていた。
なんと、助けたはずのフェンリルが敵対した様子でこちらを睨んでくるのである。
その蒼い双眸は、一時も俺たちから視線をそらそうとはしない。
ゆっくり、ゆっくりと歩み寄ってくる。
少し瞬きをしてしまっただろうか、一瞬で俺の懐に詰めてきた。
光をまとう右前足の爪が、俺の腹をえぐろうとする。
対して俺は、パリィもすでに間に合わず、躱すことだけにすべての意識をかけていた。
俺は《軽業の心得》のスキルの後押しもあってか軟体動物のようにしなやかにしゃがみ、なんとかその一撃を免れた。
相手が神の使いっぽいが先に殴ってきたのはあっちなので、徹底的にやり返すこととする。
俺は踊るような連撃をフェンリルに浴びせ続けたが、どれも避けられるかパリィされるかでうまくいなされている。
だが、後ろからカザキが狙いを済まし矢を放ち、フェンリルのHPがジリジリと削れているので持久戦になる。
1時間経ったくらいか、ボス以外の敵にここまで時間がかかったことはなかったと思いつつ、終焉の時は近くなってきていた。
ゲージは赤ゲージに突入しているのであと少しだが焦ってはいけない。
敵の攻撃力は高く、1発のミスで死ぬ恐れがあるのだ。
だが、相手もさすがに疲れたのか、はたまた諦めたのか、俺の攻撃を避けなくなってきていた。
それでも俺は慎重に慎重に立ち回っていたのだが、しまいには動かなくなってしまった。
いつでもトドメを差すことは出来たのだが、したくなかった。
なぜなら、ここまでの強敵が仲間になったら、最高の戦力にもなると思ったからだ。
カザキは今のスキルオーブをもっている。これでフェンリルを仲間にすることが出来ると考えているわけだ。
カザキはゆっくりとしゃがみ込んでフェンリルの頭をなでる、そして自分の頭とフェンリルの頭をくっつけた。
白い神獣も俺たちのことを認めてくれていたのだろうか、あっさりと仲間になってくれた。
「名前、どうします?」
そんなことを聞かれるが、俺にはネーミングセンスが致命的にない。
「えーと、カザキのテイムモンスターだし俺に聞かれても・・・」
思いついたのは白という安直な名前であったが、さすがに却下されるだろうと思い押し黙る。
「じゃあ、私が決めちゃいますよ。フェンリルだから、フェルルなんか良くないですか?」
「俺が思い浮かんだ名前なんかよりよっぽど良いし、言いやすいから採用」
謎の上から目線で名前を決定し、夕暮れ迫る空をバックに街に帰ることにした。
街に帰ると俺たちは奇異の目で見られた。
当然だ。自分だって、街の中でこんなでかいモンスターを連れている人がいたら絶対にそんな目で見てしまう。
人混みの多いところを避け、宿屋への道に入ろうとしたところ、2人組に話しかけられる。
「それ、どこで入手したんだ?」
「少し情報教えてくれへ~ん?」
奇妙な2人だった。
1人はクールな感じの大太刀使い。
もう1人はおちゃらけているような印象のオーソドックスな片手剣使いだった。
「すいません。まず名乗っていただけないでしょうか」
俺はその風貌からもしや、と思い質問してみる。
俺の予想が正しければ、これは良いチャンスかも知れない。
大太刀使いの男はめんどくさそうな仕草を見せつつも名乗った。
「俺はオボロ、こっちがDizzyだ」
「ど~~も!」
やはりそうか。こいつらは。
掲示板の最強プレイヤーたちだ。
俺たちはレストランで食事をしつつ話すことにした。
「あんた達がデュオで最初のボスを倒したのか!すごいやん!」
俺たちが最初のボスを倒した本人だと言うことを伝えるとあっさり信用してくれた。
見かけ、というか第一印象とは違い、Dizzyはかなり話しやすい男であった。
逆にオボロはとても無口な男で、会話に全く入ってこなかった。
まぁそれは、こちらのカザキも同じであったが。
「っちゅうことは、もう《テイム》のスキルはこの街にはないってこっちゃな」
「多分、そういうことになると思う」
「なるほどなぁ~。次の街に行かんとわからんな~。僕も早くモンスター仲間にしたいんやけど」
「先になると思うな、何よりまだボスが倒せてないから先には進めないんだよな」
「あそこの湿地林ほんま気持ち悪いよな~。できれば行きたくないんやけど・・・」
そこまで俺とDizzyは話していたが、急に目が光り出すとオボロに言う。
「なぁ、あの話してみいひん?」
ウキウキな様子でオボロに聞くと、無口な男は短く「あぁ」とだけ言った。
「あのな、僕たちクラン作ろうと思って。良かったら入ってくれへんかな~て」
「あークランか。ごめん、俺たち自由にこのゲームをやりたいんだ。正直攻略とか強制してやらされるよりも、2人で自分たちのやりたいようにやってた方が楽しい。デスゲームの中で何言ってるんだって思う人もいるかも知れないけど、ごめん」
そこまで聞くとDizzyはなぜかにやりと笑い、こういった。
「大丈夫や」
と。
現在、レストランから宿への帰路についている。
結局、俺たちはクランに入ることにした。
その理由は、あいつらも他のメンバーも基本はソロやデュオでやることが多いからだった。
じゃあなぜクランを作ろうと思ったのかというと、ボス戦の時はみんなでやった方が楽で楽しいから、という理由であった。
基本のときは一緒にパーティを組むことは無いが、ボス戦や特定のイベントの時は協力する、という方針は俺にとって願ったり叶ったりだった。
だが、不安なことが無いわけでも無い。
まず、ボス戦のときに急に集まって連携がとれるのかという問題である。
だがそれは、Dizzyが言うにはトッププレイヤー達が集まるんだから連携なんてとる必要は無いらしい。
次はカザキのことについてだ。
一応、クランに入るかどうかはカザキにも聞いたのだが、「私はそういうのわからないのでクレンさんが決めてください」と言われてしまった。
そして、今回でカザキの人見知りについても知ってしまったのでそこも心配である。
なんてことを考えていると宿に着いてしまった。
今日は朝から話し合ったりしていたが、夜も話し合うことになりそうだ。
フェルルを外に待機させておき、宿に入る。
疲れ切っていた俺たちがお互いの部屋に入る直前、俺はカザキを呼び止めた。
「少し俺の部屋で話したいことがある」
「何ですか話したいことって」
あくびをしながら椅子にもたれこみ、カザキは言った。
「今日のクランのことについてだけど、カザキが嫌ならクランに入るのを辞めようと思うんだ」
「率直に言います。全然入るのは嫌ではありません。むしろ私もいい話だと思います」
カザキは眠たそうにしながらも、笑顔でそう言った。
「今日私があまりにもしゃべらなかったのは、コミュ障だからという理由ではありません。単純に疲れていたからというのと、私がグイグイくるような話し方をする人を苦手としているからです」
それを聞いた俺はほっとすると同時に心配になる。
クランメンバーに苦手なやつがいて楽しく生活できるだろうか、いくらボス戦や特定の時以外会わないと言っても、やはり気になるものは気になるのではないかな、と思う。
でも話してみた感じDizzyさんいい人そうだったしな・・・
「でも私、今日お話聞いててDizzyさんを悪い人だと思いませんでした。だから普通に次は話せると思いますよ」
俺の心の中を見透かしたかのようにカザキはこう言った。
どうやらカザキは眠気が限界らしく、ここら辺で自室へと戻っていった。
今日は色々あったので俺も早く寝ようと思い、ベッドに横たわった。
これからもこのデュオの形が変わらないでほしいな、そう考えた3秒後には、俺の意識は飛んでいた。




