第二章 消えた光 エピソード4
4人は、作業場に戻る。
エメリーは通路の途中で足を止めた。
そこは見た目には他と何も変わらない場所だった。床板の継ぎ目も同じ、壁の補修跡も同じ、光苔の配置も均一に見える。
ランドンが先に一歩踏み出す。
その瞬間、足元の床が一度だけ「遅れて沈んだ」。
踏んだ瞬間に沈まず、半拍ほど遅れてから沈む。そして戻る動きも、わずかに遅れる。
ランドンは眉をひそめて足を見た。
「今の、変じゃなかったか?」
もう一度踏む。
今度は普通に沈む。
⸻
アシャが横から同じ場所に足を置く。
反応は普通だった。
「え、どこ?」
アシャは何度か軽く踏み直すが、床は通常通り反応する。
レイブンもその場所に立つ。
変化は起きない。
⸻
エメリーはその一点だけを見ていた。
床の板を指先で軽く叩く。
音は他と同じだった。硬さも、反響も、違いはない。
もう一度、ランドンに同じ位置で立ってもらう。
今度は何も起きない。
「一回だけだな」
ランドンが言う。
アシャが肩をすくめる。
「偶然じゃない?」
レイブンは黙ったまま床を見ている。
エメリーはしゃがみ、床板の継ぎ目に指を当てた。
その場所だけ、わずかに“縁”が深い。触れて初めて分かる程度の段差だが、他の場所にはない。
周囲を数歩ずつ確認する。
同じ床板は続いているが、その一点だけ、継ぎ目の固定が違う。
「ここだけ、交換されている」
エメリーは短く言った。
ランドンがしゃがみ込む。
「全部じゃなくて?」
エメリーは首を振る。
「ここだけ」
アシャがその場所を見下ろす。
「それが何か関係あるの?」
エメリーはすぐには答えなかった。
もう一度そこに立つ。
今度は何も起きない。
ただ、さっきの一瞬だけが残っている。
レイブンが静かに言う。
「今の、消えたね」
エメリーは頷かない。
代わりに、その床板の境目を指でなぞる。
違いは小さい。だが確実にある。
「“一回だけ違う”は、たぶん一番重要」
エメリーはそう言った。
ランドンが顔を上げる。
「どういう意味だ?」
エメリーは立ち上がる。
視線はすでに通路の奥へ向いている。
「常に違うものは、ただの仕様」
一拍置く。
「でも一度だけ違うものは、“切り替えの痕跡”」
通路の奥は、同じ形のまま続いている。
だが今、その一点だけが明確に浮いて見えた。
何も変わっていないはずなのに、そこだけが“過去に触られた場所”として残っている。




