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その孤児は魔術の真理を知っている  作者: とうもろこし@灰色のアッシュ書籍版&コミカライズ版配信中
4章

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第48話 勝者の力


「コ、コンキスタ・ドール……?」


「そう。私はずぅっと君を見ていたの。三人目のアレテイア・ホルダーがどんな子か見て来いって言われたからね」


 彼女は王都に来てからずっと僕を観察していたと明かす。


 朝から学園に行く姿も、帰って来る姿も、休日に市場で買い物する姿も。


 孤児院の庭でチビ達と遊ぶ姿も、全て。


「それでね? 隙があれば殺せとも言われていたの。未熟なうちに始末した方がいいって」


 でも、と彼女は言葉を続ける。


「でもさ、君の顔が私好みだったから。殺すの勿体ないな~って思っていたのね?」


 彼女は僕の顔を見てニンマリと笑うが、すぐに真顔へ戻る。


「精霊教と仲良さそうにしている姿を見ちゃったんだもん。そんなの許せない」


 ……彼女は本当に精霊教が憎いのだろう。


 何度もお祈りしても助けてくれなかった、手を差し伸べてくれなかった、と言っていたが、一体どれほどの経験をしたのだろうか。


 ここまで憎むほどの経験なんて想像もできない。


 ただ、同時に話を聞いている間に僕自身も冷静さを取り戻しつつある。


「……もしかして、平民街で起きた黒魔術事件と研究所の資料を盗んだのも、君が関わっているの?」


 彼女は黒魔術師と関係があるのだろうか?


 聖火隊の二人を知っている件を踏まえると、二人を殺害したのは彼女なのだろうか?


「え? ああ、あれ? あれは関係無いよ。黒魔術師達が別口の指示を受けてやったんじゃない?」


 関係がない……?


 でも、口振りからは仲間のように聞こえる。


 どういうことだろう? と考えが過った時、騒ぎを聞きつけたのか教会の中から数人の聖職者が飛び出してくる。


 そして、壁に突き刺さった仲間を見つけると修道女が悲鳴を上げた。


「ピーピーうるさいなぁッ!!」


 悲鳴が癪に障ったのか、彼女の怒りは一瞬にして頂点に。


 再び血を凝縮したようなツララを数本生み出し、聖職者達に向かって投擲を開始する。


「ぎゃああああ!?」


「ぎ、ああッ!」


 恐ろしい速度で迫るツララは聖職者達の胴体を簡単に射抜き、教会の壁には彼らの体が突き刺さる。


 一人だけ致命傷を免れた聖職者が魔術式を構築するが……。


「ばぁ~か」


 彼女は鼻で笑うと、先ほどよりも太いツララを生み出して投擲する。


 それを真正面から受けてしまった聖職者の上半身は破裂するようにして消え失せてしまう。


「う……」


 酷い。


 酷すぎる。


 凄惨な瞬間を目にしたせいか、胃の奥が燃えるように熱くなる。


 口の奥から胃液がせり上がってくるのを感じて、すぐに口を手で塞いだ。 


「あら? この程度で吐きそうになるなんて。君って初心なのね?」


 フフ、と笑う彼女はブーツの底を鳴らしながら近付いてきて、人差し指で僕の顎を持ち上げる。


「こ、これ以上はもう……」


「殺さないで~、って?」


 ニマニマと笑う彼女が僕の目を覗き込むように見てきた時、後方から複数の足音が聞こえてくる。


 足音には金属が擦れる音も混じっていて、振り返ると十名の騎士がこちらへ向かってくる姿があった。


 騎士団にも騒ぎが伝わって出動してきたのだろう。


 助かった、とも一瞬思ったのだが……。


「君に私を止められるかな?」


 再び彼女はツララを生み出し、先端を騎士達に向ける。


 ――このままじゃ聖職者達の二の舞だ。


 やらなきゃいけない。もはや、迷っている暇はない。


 意を決して手の中に火種を生み出し、それを大きくして火の玉に。


「もうやめて!」


「あら、顔の割に反抗的なのね」


 火の玉を押し付けるように腕を伸ばすが、彼女はヒョイと華麗なステップで避けてしまう。


 しかも、空中に浮かんでいたツララを同時に発射。


 結果は最悪。


 放たれたツララは騎士達が身に着ける防具も簡単に貫き、一度の攻撃で半数の騎士が致命傷を負ってしまった。


 これ以上はやらせないと彼女を追いかけつつ、火猫を生み出して攻撃命令を下す。


「あはは! 君ってなかなか器用じゃない!」


 向かって行く火猫のスピード以上に、彼女が生み出すツララの方が速い。


 一本、二本、三本と同時にツララを生み出して、火猫も騎士も同タイミングで貫かれてしまうのだ。


「そろそろ大人しくしてもらおうかな」


「え? ――あッ!?」


 瞬間、僕の肩を抉るようにツララが通過していく。


「いたッ!?」


 激痛が肩に走るも、片腕は……失っていない。


 ただ掠っただけ。


 しかし、彼女にとってはそれで十分だったらしい。


 次の瞬間には血のように赤いツタが僕の影から飛び出してきて、抵抗もできぬまま拘束されてしまう。


「う、ぐ……!」


 引っ張って抜け出そうとしても難しく、逆に絞まる力が増していく。


 次第に僕の体は地面に引き下げられ、両膝が地面に着いてしまった。


「ふふ……。ねぇ、魔法を使わないの?」


 僕の顔を覗き込む彼女はそう問うが、すぐにまたニマニマと挑発するような笑みを浮かべて。


「使えないよね? だって、精霊の力を自由に引き出せないんでしょう?」


「……どうして、それを」


「そりゃ知っているよ。だって――」


 彼女は僕の耳元に口を寄せて、そっと囁くのだ。


「私に力をくれた存在に精霊達は負けちゃったんだもん」


「は――」


 精霊が負けた? 


 どういう意味?


「そのままの意味だよ。精霊は負けちゃったの。私達が崇拝する、大いなる存在に負けて全滅寸前なの」


 大昔、世界を作った精霊は『大いなる存在』との戦争に負けてしまった。


 戦争に負けたことで精霊は数を減らし、今では大いなる存在に見つからないようビクビクと身を隠しながら存在しているという。


「負けてしまったから力が薄れ、こちら側に長く留まることができない。魔法を顕現させる助力も満足にできない」


 だからね、と彼女は言葉を続ける。


「私の力は大いなる存在由来の力。精霊側に立つアレテイア・ホルダーにとって天敵となる力なの」


 見せてあげるね、と言って彼女は立ち上がる。


 そして、彼女は小さなナイフで自身の腕を切り裂く。


「深淵より来たれ。黒き月より降りよ」


 傷口から滴る血を指先まで走らせ、血のついた人差し指で空中に何かを描きだすように動かす。


 指先の血が金色に光ると、彼女の描くものが露わになった。


 金色の文字と数字だ。


 それはクレセル王国で使われているものじゃない。この大陸にある全ての国で使用されるものとも合致しない。


 ――僕は強烈な気持ち悪さを感じた。


 見ているだけで気持ち悪い。その全てが気持ち悪い。


 嫌悪感なんて言葉じゃ見合わないほど、心も体も脳も魂も、僕の全てがそれを拒絶する。


 しかし、同時に脳裏には『記憶』がフラッシュバックする。


 僕は黒板の前に立っていて、黒板には今彼女が描いているもの――『コード』と呼ばれる術式が描かれている。


 憎たらしいそれを睨みつけながらも、心底憎いと思っていながらも、同時にその技術の完成度に感嘆もしてしまう自分。


 ――僕は、これを知っている。


「さぁ、見せてあげる」


 一瞬のフラッシュバックから我に返ると、彼女は金色の文字と数字だけを組み合わせて作った『コード』を発動させた。


「あ……」


 コード全体が光輝いた瞬間、彼女の背後にあった教会が分解される。


 教会全体がブロック状に分解され、ブロックと中にいたであろう人間が宙に浮かぶ。


 それらは竜巻のように回転し、ぐちゃぐちゃに入り混じって。ブロックが破裂する音と人の悲鳴も入り混じって。


「あはは! ほら、見て! 見ててよ!!」


 彼女が手を合わせて「パン」と音を鳴らすと、空中で回転していたブロックと人間が黒い点となって集束していく。


 その瞬間に世界から音が消え、光が消え、ほんの一瞬だけ全てが闇に支配された。


 次に光と音が戻った時には、この世から教会と聖職者が消え失せた後だった。


「どう? これが魔法を越えるもの。精霊と君達アレテイア・ホルダーを殺すワザだよ」


「…………」


 一部始終を見た僕の感想としては「気持ち悪い」に尽きる。


 それ以外に浮かばない。形容すべき言葉がこれしかない。


「殺すことになっちゃってごめんね」


 彼女は血のついた手で僕の頬を撫でた。


 そのままジッと僕を見つめてきて……。


「一瞬だから安心して。苦しまないから」


 ニマニマと笑う彼女との距離がどんどん近付いていって、僕らの鼻先が触れてしまう。


 黙っていたら唇まで触れてしまいそうになるが、僕は――


「コードってなに?」


 そう問うた瞬間、彼女の目が見開く。


「どうしてそれを知っているの!?」


 彼女が初めて動揺を見せる。


「アレテイア・ホルダーである君が、こちら側を知っているはずがない!」


 僕の両頬を掴むようにして顔を持ち上げ、何故知っているのかと何度も問うてくる。


「どうして!? ねぇ、どうして――」

 

「カイル、体を動かすでないぞッ!!」


 鬼気迫る顔で迫られた瞬間――背後から頼もしい声が聞こえてくる。


「―――ッ!!」


 何か察知した彼女は後ろに飛ぶと、彼女がいた場所に無数の風の矢が振り落ちた。


 直撃はしなかったものの、魔術が着弾した地面は激しく抉れている。


 ……本当に体を少しでも動かせば、僕に当たっていたじゃないか。


「チッ。避けよったか」


 舌を鳴らしたマリューさんは僕の横に立ち、見慣れない杖を握っていた。


「動けるか、カイル」


「え……。あ」


 いつの間にか拘束が解けている。


 彼女が動揺した時か、あるいはマリューさんの攻撃を避けた時にでも魔術が解除されたのかもしれない。


「カイル、大丈夫か!」


 傷を負った肩を手で押さえていると、背後からは遅れて殿下達が駆け寄ってきてくれた。


「みんな……」


 皆の姿を見て、僕は……。


 どうしよう、僕は泣きそうだよ。


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