表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その孤児は魔術の真理を知っている  作者: とうもろこし@灰色のアッシュ書籍版&コミカライズ版配信中
4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/50

第47話 曇り空の下


 聖火隊の遺体が発見された翌日の朝、僕はいつも通りの時間に孤児院を出た。


 今日の天気は随分と機嫌が悪い。


 雨は降っていないけど分厚い灰色の雲が空を覆い、雲の中ではゴロゴロと雷の音が聞こえてくる。


「昼前くらいに降ってくるかな?」


 帰りの時間までにやんでくれればいいけど。


 そう思いながらメインストリートへ続く道を歩いていると――


「すいません。ちょっといいかしら?」


 横にあった脇道から声を掛けられる。


 女性の声だ。


 振り返ると、そこにいたのは全身黒の服を着た若い女性。


 長いピンク色の髪を下ろしていて、まるで人形かと問いたくなるくらい整った顔。


 リゼさんと良い勝負……というか、互角なんじゃないかってくらいの美人さんだ。


 とは言え、背丈や雰囲気から察するに僕と同年代くらいかな?


 しかし、顔以上に特徴的なのは身に着けている黒い服の方だ。


 どうにもデザインが修道服を改造したような雰囲気がある。


 前に会った聖火隊の女性も修道服を改造していたけど、あっちはセクシー系。


 今回の彼女はカワイイ系と言えばいいのか、下半身のスカートにはフリルやら小さいリボンなんかがあしらわれている。


 履いているブーツは厚底だし、聖火隊の女性と比べて改造度合いが強め。


 修道服を改造するのが最近の流行り――なわけないよね。


 そんなことしたら精霊教に怒られそうだし。


 ……となると、この人も聖火隊?


「は、はい」


 警戒しながらも頷くと、彼女は困ったような笑みを浮かべる。


「道に迷ってしまって」


「道に?」


 聖火隊の人じゃないのかな? そう思いながらも、どこに行きたいのか尋ねてみる。


「精霊教の教会に行きたいんですけど」


 ……やっぱり精霊教関係者? それともただの信者? どっちなの!?


「教会なら中央区ですよ」


 まだまだ警戒を解かずに告げると、女性は「ありがとう」と言って逆方向へ歩いて行ってしまう。


「ちょ、ちょっと待って下さい! そっちじゃないですよ!」


 どうして中央区に行きたいのに、平民街の奥へと歩いて行ってしまうんだ!


「え? え?」


 この人は極度の方向音痴なのか、それとも演技なのか……。


 正直、判断に困るところ。


 しかし、これが演技じゃなくて本当に困っていたとしたら。


 変に警戒して相手にしないのも可哀想だと思ってしまった。


「僕、途中まで行くので一緒に行きますか?」


「ありがとう。優しいのね」


 パッと笑顔を浮かべた彼女が厚底ブーツをコツコツと鳴らしながら僕の隣に並ぶ。


「観光に来たんですか?」


「ええ、そうなの」


 田舎から出て来て、と笑う彼女。


「精霊教にはお世話になったから、お礼をしないとと思って」


「へぇ~。なるほど」


 観光前にお祈りでも捧げようってことかな?


 となると、この人は信者の人だろうか?


「君が孤児院から出て来るところを見たのだけど、君は孤児なの?」


「ええ。そうなんですよ」


 頷くと、彼女も笑顔のまま「そうなのね」と頷いた。


「私も孤児だったの。弟妹が多くて大変だったわ。特に一番下の弟はヤンチャな子で」


「あ~、うちも同じですよ。毎日チビ達が大騒ぎで」


「ふふ。どこも同じようなのね。……懐かしい」


 見つけた共通点が話題の中心となり、歩きながら「孤児あるある」をお互いに語っていく。


 小さな子が食事の度に服を汚すとか、その度に洗濯しなきゃいけなくて大変だったとか。


 買い出しに行く際はみんなで手を繋いで、歌を歌いながら道を歩いた思い出など。


 まさしく、孤児あるある。


 孤児院暮らしならではのエピソードが次々に出てきては、お互いに「そうそう!」と頷き合った。


「うちは毎日の食事も大変で。随分と節約に頭を悩ませていたわ」


「あー……」


 僕も少し前まで同じだったな、と苦労が分かってしまう。


「本当に大変で。毎日、毎日、神様にお祈りを捧げていたわ」


 ……先ほど精霊教にお世話になったと言っていたけど、教会関連の孤児院にいたのだろうか?


 となると、聖王国出身の人なのかな?


 ――そんなことを考えていると、建物の隙間から教会の屋根が見えてきた。


 そろそろ中央区の入口だ。


「ねぇ、ちょっと聞きたいのだけど」


「はい? 何でしょう?」


 もうすぐ着きますよ、と言いかけた時に問われて顔を向けると――先ほどまで話していた時と雰囲気が少し変わっている気がした。 


「君、聖火隊の二人とお話していたでしょう?」


「え?」


 ……どういうこと?


 突然の質問に心臓が跳ねる。


 だが、僕らの足は止まらない。


「君は教会の関係者じゃないわよね? なら、どうしてお話していたの? 精霊教へ来るよう誘われた?」


 何で知っている?


 どうして僕が聖火隊に勧誘されたことを知っている?


 頭の中が混乱している中、ふと思う。


 ――彼女はどうして、僕が孤児院から出て来たと知っているんだ?


 彼女は脇道から出て来たじゃないか。


 道の奥からやって来たならば、僕が孤児院から出て来るところを見れるはずがない。


 背中に嫌な汗が流れだし、そっと彼女の顔を見てみると……。


「ねぇ、答えて?」


 笑っている。


 笑っているが、さっきまで笑顔じゃない。


 僕の答えを待っている彼女の目は鋭く、口元には邪悪な三日月が浮かんでいる。


 中央区に足を踏み入れると、彼女は教会を背景に足を止めた。


 教会の入口前にはホウキで地面を掃く聖職者の姿が見える。


「私ね。精霊教が大っ嫌いなの」


 笑顔のまま、彼女は言葉を続ける。


「さっき孤児院で暮らしていたと話したでしょう? あれは本当。でもね、何度お祈りしても神様は助けてくれなかったわ」


 彼女の表情に陰りが差す。


「精霊教もね。むしろ、手を差し伸べてくれなかった神様よりも酷かった」


 そう語る彼女の顔には怒りと怨嗟の感情が入り混じる。


「…………」


「だから、精霊教に協力する人は殺したくなっちゃうの」


 そう言った彼女の表情は邪悪な笑みに切り替わって。


 そのまま一歩、二歩と僕に近付いて来る。


「君はどう?」


 お互いの鼻先が触れるんじゃないかって距離まで近付かれ、再度問われた。


「……ぼ、僕は、勧誘されたけど」


「うん」


「こ、断った……」


「そう」


 僕の答えを聞いた彼女はまた距離を取って、俯いた僕の顔を覗き込む。


「君は懸命な判断をしたわね」


 だけど、と彼女は言葉を続ける。


「だけど残念。お願いされちゃったから」


 そう言った彼女は、片手を横に伸ばして。


 伸ばした手の先に血を凝縮したようなツララを作りだす。


「んふ」


 彼女はそれを聖職者に向かって発射。


 ツララで胴体を射抜かれた聖職者は悲鳴を上げる暇もなく、教会の壁に突き刺さった。


 だらんと四肢が垂れたまま串刺しになった聖職者から赤い血が大量に滴って壁と地面を染めていく。


「あ、あ……」


 目の前で人が殺されたということも衝撃的だったが、それ以上に衝撃的だったのは彼女が魔術式を構築せずに魔術を行使したこと。


 その意味とは――


「私は違うよ」


 彼女はまた僕に振り返り、邪悪な笑みを浮かべる。


 そして、僕の心を読むかのように告げるのだ。


「私はアレテイア・ホルダーじゃない。アレテイア・ホルダーを殺す存在だから」


「アレテイア・ホルダーを、殺す……?」


 突きつけられた言葉に対し、怖いくらいに喉が渇いて上手く声が出ない。


 唾を飲み込んでも変わらず、次第に目の奥がチカチカしてきてしまう。


「そう。君を殺すの。アレテイア・ホルダー君?」


 目の前にある現実を拒否したくてたまらない。


 目の前にいる彼女から放たれる、明確な殺意を嫌でも感じ取ってしまう。


「ど、どうして……?」


 足が固まって動けない僕がとった行動は素直に問うこと。


 理解できない相手の言葉を必死に理解しようと、理解できればどうにかなるんじゃないかと淡い期待に縋るしかなく。


「どうして? うーん、それが私の存在意義だからかな?」


 また彼女は邪悪な笑みを浮かべて、自身を示すように両腕を広げて。


「私はコンキスタ・ドールだから」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ