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その孤児は魔術の真理を知っている  作者: とうもろこし@灰色のアッシュ書籍版&コミカライズ版配信中
4章

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第45話 聖火隊 3


 カイルの勧誘に失敗した聖火隊の二人は、翌日も王都内を歩き回りながら黒魔術師の捜索を行っていた。


 この時、彼らが行っていたのは王都内に『聖印』を残していくというもの。


 聖印とは精霊教会が開発した対黒魔術探知用の受信機能と増幅機能を併せ持つ、併用魔術式と呼ばれるものだ。


 まずは王都内の壁や地面に聖印を描いておき、中心となる地点で探知魔術を発動。


 発動された探知魔術に連動し、聖印がその効果を受け取る。同時に聖印を起点とした範囲内の効力を増幅することで――


「見つけた」


 単一使用時よりも何十倍に優れた効果、そして細かな範囲の絞り出しが可能となる。


「前に行った風俗区画だわ」


「よし、向かおう」


 二人が検知された場所に向かうと、そこにあったのは何の変哲もない酒場だった。


 木造でボロっちい酒場の外観は風俗区画という場所によく馴染んでいる。


 立地はメインストリートから一本奥の道に入ったところ。人通りも少ないというわけじゃない。


 二人は建物全体を見て回り、木箱や空の瓶が乱雑に積まれている店の裏手で足を止める。


妨害魔術式(ジャミング)だ」


 裏手の壁、しかも地面に近い位置。木箱や空の酒瓶で隠すように、対探知魔術用のカウンター黒魔術式が描かれているのを発見。


 故に初手の探知魔術では引っ掛からなかったようだが、複数の聖印を用いた魔術には強度が足りなかった。


「ここで間違いないな」


「ええ」


 王都内で活動する黒魔術師、そのリーダーはこの酒場を拠点にしていると確信を得るには十分だろう。


 二人は『準備中』の札が掛かったドアから店内に侵入する。


 しかし、店内には人の気配が無い。


 黒魔術師の姿が見えない今、証拠を探すにはもってこいの状況だ。


 二人は店内を捜索し始め、見つけたのは地下室へ続く階段だった。


 地下室へ降りて行くと、徐々に独特の気配が漂ってくる。


 聖火隊であれば馴染みの、黒魔術が残す残滓から発せられる負の気配だ。


 地下室の扉を開けると、そこにいたのは――四人の男女。


「…………」


「…………」


 しかし、全員が壁の方を向いてフラフラと体を揺らしている。


 地下室に現れた二人を見ようともしない。


「ここが施術場だな」


 地下室の床は血に濡れている。


 しかも、奥には命魂結晶の入った小樽が置かれていた。


 大男が一人の男性に近付くと、首元には縫合の跡が残っているを発見する。


「元は客かしら?」


「だろうな。薬を盛られて傀儡対象にされたのだろう」


 四人とも年代はバラバラ。

 

 現役冒険者と思われる男性もいれば、汚れた服を着る老人も。女性の方は店に派遣された娼婦のようで、着ている服は揃って薄着だった。


「縫合箇所が新しい。埋め込まれたばかりか」


 彼らは次に使われる道具だったのかもしれない。


 ただ、埋め込まれたばかりであるのは幸いだ。


 今の状態なら体内から命魂結晶を取り出せば、精神にダメージを負う可能性はあるものの黒魔術の支配からは脱却できる。


「ここで取り出す?」


「ああ。黒魔術師が戻って来る前にやろう」


 大男が小さなナイフを取り出し、銀の刃を被害者男性の首元へ近付けた瞬間――男性の目がギョロッと彼の方へ向く。


「ウオオオオッ!!!」


 直後、男性は奇声を上げながら大男に組み付く。


 男性は大男を床に押し倒そうとするが、体格差がありすぎて上手くいかない。


 大男は難無く腕を伸ばし、男性の頭を掴んで……。


「フン!」


 壁に男性の頭部を叩きつける。


 壁にはトマトが破裂したような跡が残り、頭部を失った男性の体はズルズルと床に沈んでいく。


「キャアアアアッ!!」


「ウオオオオッ!!」


 続けて、残り三人も奇声を上げながら動き始める。


「上にいるぞ!」


「分かってるわよ!」


 地下室へ侵入したから動き出したのではない。


 施術した黒魔術師が上の階にいて、侵入者を排除しろと命じたからだ。


 それを看破した二人は聖火隊の力を存分に発揮する。


「セェェイッ!!」


 大男はメイスを振るって女性の腹を打ち抜く。


 上半身と下半身が別々になった女性が床に沈むと、大男は振り抜いたメイスの勢いを殺さぬようくるんと体を半回転。


 そのまま次の対象にメイスを振るい、下顎に食らった老人の顔面は削れるように吹き飛ぶ。


「動かないで!」


 大男に指示を出した女性の方は、銀色に輝く魔術式を手で叩く。


 銀の魔術式から放たれたのは光の矢だ。


 矢は大男の後頭部スレスレを通過していき、その奥にいた女性の眉間に直撃。


 光の矢を受けた女性の体は青白い炎で燃え始め、二秒後には体全体が真っ黒こげに。


「上へ行くぞ!」


「ええ!」


 邪魔者を排除した二人は大急ぎで階段を駆け上がる。


 入口の扉が閉まっていたが、大男の蹴り一発で粉砕されて。


「貴様が黒魔術師か!」


 酒場のホールにいたのはヒゲを生やした中年男性だ。


 この酒場を知る者が見たならば、中年男性のことを「オーナー」と呼ぶだろう。


「聖火隊め! またしても私達の邪魔をするか!」


 二人を睨みつけるオーナーがカウンターへ駆け寄ると、カウンターテーブルの端を強く叩く。


 叩いた瞬間、酒場の床板が破裂するように宙を舞う。


「オオオ……」


 床から現れたのは十人の黒魔術被害者。


「殺せぇッ!」


 オーナーが魔術式を構築して発動させると、黒い魔術式からは漆黒のオーラが放たれる。


 漆黒のオーラは黒魔術被害者にへばりついて透明化。


 直後、被害者達は聖火隊の二人へ襲い掛かる。


「この程度の数で、我々を制圧できると思ったかッ!!」


 大男の言う通りだ。


 彼らは何度も修羅場を乗り越えてきた猛者であり、いかに狡猾な黒魔術を以てしても止められない。


 黒魔術師が同時に十体を操ることができる手練れだったとしても、何人もの黒魔術師を屠ってきた彼らには及ばない。


 大男がメイスを振るう度に血肉が飛び散る。


 女性は光の魔術と体術を巧みに用いて、大男の支援と殲滅を同時にやってのける。


 たちまち酒場の中は血の色に染まっていき、現れた十体の被害者は五分も掛からず殲滅されてしまった。


「もう終わりか?」


 返り血を浴びた大男が問うと、オーナーの体は震え始める。


 たたらを踏んだオーナーは転がっていた瓶に躓きそうになるも、カウンターテーブルを掴んで何とか踏ん張る。


「ふ、ふふ……」


 ガシャ、ガシャと足音を鳴らしながら近付いて来る大男に対し、オーナーの口元には笑みが浮かぶ。


 その表情は恐怖半分、強がりが半分に見える。


 ただ、負けに対する悔しさは感じられない。


「お、お前達は終わりだ」


「ほう。まだ悪あがきが残っているのか?」


「い、いいや! お前達を殺すのは私じゃない!」


 オーナーは懐からナイフを取り出し、自身の首に押し付けた。


「あの御方がいる! あの御方がお前達を殺すだろう!」


 そう言い残し、オーナーは自身の首をナイフで深く斬る。


 傷口からは大量の血が噴き出すが、オーナーの顔には最後まで狂気の笑顔が貼り付いていた。


 大男はオーナーの体が床に倒れるのを見送ると……。


「あの御方? ヘルガ・ギミットか?」


 黒魔術の始祖にして、黒き月の導き手を率いるリーダー。


 黒魔術事件の裏にヘルガの影あり、と言われる人物そのものが王都にいるのだろうか?


「丁度良いじゃない。ヘルガを始末すれば出世確実。あちこち出て回る現場生活とはおさらばできるわ」


 女性は「ラッキー」とむしろ嬉しそう。


「出世はどうでもいいが、ヘルガは捕えたいな」


 大男の方は聖火隊としての大儀を優先といったところ。


 二人が次なるターゲットを見据えたところで――酒場のドアがゆっくりと開く。


 ドアを開けて店内に入って来たのは、黒いドレスと黒いベールで顔を隠した女性だ。


 まるで殺気はない。


 見た目通り、葬式帰りのお嬢様にしか見えないし、感じない。


「あら? 死んでしまったのね?」


 しかし、口振りは黒魔術師の仲間であることを自ら白状していて。


「……何者だ?」


 声の質からして若い。


 恐らくはまだ十代だと思われる女性に対し、大男は油断なくメイスを構える。


 だが、その直後。


 水風船が割れるような音と共に大男の首から上が無くなった。


「え?」


 聖火隊の女性からは呆けるような声が漏れる。


 顔にはたった今起きたことが信じられないような、夢を見ているのかと言わんばかりの表情。


 後ろを振り返れば、酒場の壁に『赤いツララ』が刺さっている。


 大男の首を消し飛ばしたのは、あれだ。


「な、え? ま、魔術?」


 そう狼狽えるのも仕方ない。


 何故なら黒いドレスを着た女は魔術式を構築しなかったからだ。


 魔術式の構築無しに魔術を使ってみせたからだ。


「フフ」


 黒いドレスを着た女が小さな笑い声を漏らすと、聖火隊の女性は腹に違和感を覚えた。


 ゆっくりと自分の腹部を確認してみると……。


「あ、ああ……」


 左側の脇腹が無くなっている。


 血が零れ、腹の中身が零れ、足からは力が抜けて崩れ落ちる他無く。


「ぐあ、あ……」


 薄れゆく意識の中、見上げた先には……。


「フフ……。私が着替えるまで生きていて? まだ楽しみたいの」


 邪悪な笑みを浮かべる女の顔があった。


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