№ 85 ケレス、炎月の過去を知り、ある決意をする
幼い二人が紡いでいった時間をケレスは見守っていた。
だが、そこにあの男が現れ、その時間は終わりを迎える……。
ー☆ー
「どういう事だ!?」
新月でもない夜に姿を見せたヘル。
そのヘルからはいつものお銚子っぷりは全くなかったのである。
そう、あったのは明らかに動揺しているという事だけだった。
そのヘルに驚きつつも幼い炎月がそう叫ぶ。
「あいつ等やりやがった!!
俺達の知らない所で嬢ちゃんに翦草除根をやってやがったんだ!!」
その幼い炎月にヘルは怒鳴り返した。
「センソウジョコン……? 何だそれは!?」
「だぁっ!! 説明してる暇はねえ!! さっさと行くぞ!!」
そのヘルに幼い炎月が詰め寄るとまた怒鳴り返され、
一瞬で幼いラニーニャの所へと移動させられた。
すると、そこにいた幼いラニーニャは虚ろな目で座って祈りを捧げていたが、
その体は神々しく白銀に輝いていたのである。
「私は、罪深き者……。
だから、償わなければいけない……。
お父様の下で、永遠に……」、と……。
そして、幼い炎月達の存在に全く反応せず、ぶつぶつと、こう呟き続けていた。
「喜蝶!? 何してるんだ!!」
その幼いラニーニャに幼い炎月は何度も呼び掛けたが、
やはり幼いラニーニャはまったく反応しなかった。
それから幼い炎月はヘルに目を転がし、二人は話始める。
「どうなってんだ!? ヘル!!」
「お父様っていう奴が翦草除根を嬢ちゃんにかけてたんだ!!
翦草除根ってのは、あいつ等にとって邪魔な記憶を人の心から奪う術で、
このままじゃあ嬢ちゃんは、あいつ等の操り人形になっちまうんだ!!
もう、俺達の事なんか忘れちまうんだよっ!!」
「そ、そんな!? 何とかならないのか!!」
「とりあえず、このグレープニルの鳥籠をどうにかせにゃいかん!!」
ヘルは幼いラニーニャが閉じ込められている籠に体当たりをしたが、
その籠はビクともしなかった。
それでもヘルはあきらめず体当たりし続ける。
そんなヘルに幼い炎月は話し掛けた。
「おい、ヘル! お前がこの籠に入ればいいんじゃないのか!!」
「そんな事が出来てたら、とっくの昔にしてるわい!!
この籠は俺達 精霊にとって厄介な存在でな。
マナを全て吸収しやがるんだ!! そして、アースの様にその地に流しやがる!!
だから、俺はこの中に入れねえんだ!!」
「じゃ、じゃあ、どうすればこの籠を壊せるんだよ!?」
「わかってんだろ!! てめぇが月の瞳に目覚めればいいだけだろうが!!」
怒鳴ったヘルが幼い氷月に金色の鋭い瞳を向けると、パチパチと拍手の音が鳴り響いた。
そして、拍手しながら暗闇からセルファが姿を見せたのである。
「だ、誰だ!?」
そのセルファに驚いた幼い炎月はセルファを睨みつける。
「炎様。この場にお出でになさっておられるとは……。
どうりで、喜蝶が私の言う事を聞かない訳ですな。
それに、闇の支配者よ……」
そう話したセルファは幼い炎月からヘルに冷たい目を向ける。
「やい!! 嬢ちゃんを解放しやがれ!!」
ヘルはその目に金色の鋭い目つきで睨んみ返した。
「それは出来ない相談だね」
すると、そう言ったセルファは、くくく……と不気味に笑い出した。
「どうしてですか!? 喜蝶が何をしたっていうんですか? 彼女は何も悪い事なんかしてない!!」
「炎様……。喜蝶は生まれながらにして罪深き者なのです……。
それは、輪廻なのです。我々の下のみ、それから解放される……」
そんなヘル達の中に幼い炎月が割って入る。
その幼い炎月に静かに話したセルファは、ふぅーーっと息を吐いた。
「何 訳のわからない事を言ってるんだ!!」
それから幼い炎月はセルファに襲いかかろうとしたがセルファが、パチンッと指を鳴らした。
すると、幼い炎月は床から出現したグレープニルの鳥籠に閉じ込められてしまったのだ。
「な、何だ!? ここから出せ!!」
「ちっ……しくったぜ……」
そしてヘルまでもがグレイプニルの鳥籠に捉えられていた。
「あきらめなさい。もう、この娘はあなた様が知っている娘では……、ない」
そんな炎月達はセルファから冷酷な目を向けられる。
「どういう意味だ!?」
「ふふっ……。この娘にはねぇ、何度も見せたのだよ……。
この娘のせいで、どれだけの人間が苦しんだのかをな……。
何度も……。そう、何度も、なぁ……。
だが、そうだな……、一番堪えていたのはこの世界でのこの娘の両親が殺された処だった。
見せる度、私に何度も許しを扱いたよ。
そして、私はこの娘にこう告げた……。
闇に、堕ちよ……。そして、お前は消滅し、そして生まれ変われ……とな。
すると、この娘の心は闇へと堕ち、
新たな私の娘へと生まれ変わったのだ!!
いや、戻って来たというのが正確だがな?」
グレイプニルの鳥籠にしがみついて声を張り上げた幼い炎月に
そう話したセルファは高笑いをし出した。
「何言ってんだ!! 喜蝶は消滅なんかしてない!!」
そのセルファに怒鳴った幼い炎月がグレイプニルの鳥籠をドンドンと叩くと、
この場に新たな男が現れた。
その男は年齢、三十代半ばぐらい、黒髪の短毛で口髭を生やし、
前髪を上げているせいか、鋭い眼光が際立っていた。
そして、その男は言葉を発せず、漆黒の瞳で幼い炎月を睨みつけた。
「ち、父上!?」
だが、その男性を見た幼い炎月はそう叫ぶ。
そう、その男は炎月達の父、天狼だったのだ。
「父上! 喜蝶を解放してください!!」
その天狼に幼い炎月は必死に嘆願する。
「……炎。暫く牢に入ってなさい」
だが、冷たい眼差しを向けた天狼はそう言い残し、この場を去った。
「ち、父上えぇーーーーー!!」
それから幼い炎月の叫び声が響き、辺りは真っ暗になる。
すると、ケレスの前に炎月が現れ、また二人は話し始めた。
俺はこの後、牢に閉じ込められたんだ。そして、数日してから、ヘルヘイムは滅んだ……」
「大いなる災い、ですね?」
「そうだ。俺は牢に閉じ込められていたままだったが、その付近は俺以外、皆……、死んだ」
「滅びの呪い、ですか?」
「恐らくな。俺もそれを享け、死に直面した。
だが、俺だけは光る蝶に助けられたんだ……。
その光る蝶が俺の前に現れ、喜蝶の声がしたんだ。
『炎、死なないで……』、とな。
そして、俺は約束したんだ……。『俺は死なない。そして、強くなって必ず、お前を助けに行く』と」
「そうだったんですか……」
ここまで話を聴き終わったケレスの眉は下がってしまった。
それは炎月を疑った事への恥ずかしさからだった。
そんなケレスの前で眉を顰めた炎月は話を続ける。
「ああ、そうだ。だが、その約束は守れなかった……。
俺が不甲斐ないせいで、あいつは……」
そして、炎月は拳を握り絞め、悔しさを滲ませた。
その炎月を見てケレスは決心した。
そう、あの事を包み隠さず伝えると……。
「炎月さん……。姉ちゃんは生きています。そして、サダクビア城にいる」
そう言ったケレスは自身の心を炎月に全て伝えた。
すると、ケレスの心と記憶が全て伝わった炎月は目を丸くし、驚きを全面に出した。
そんな炎月とケレスはまた話し始める。
「……炎月さん、お願いします。あなたの力が必要なんです。
世界を……姉ちゃんを救うのに!」
「約束する……。今度こそ、あいつを助けると!!」
「頼みますよ」
それからケレスは読心術を解いた。
ー★ー
そして、元の世界で目と目が合ったケレスと炎月は互いに笑って頷いた。
すると、p?から大音量で、ヴー ヴー!と警報音が鳴り響いたのである。
「な、何だ!?」
その音にケレスは耳を押さえる。
「ちょっと、あんた達! とんでもない事、してくれたわね!!」
すると、p?からこんなアルデバランの怒号が飛んで来た。
「どういう意味だ!?」
そして、ケレスが手を外すと、p?の画面に見た事のない街の様子が映し出された。
だが、その画面に映る映像を見たケレスは目を疑った。
ほほう!? ケレス君の決意ってこの事だったのね?
ほぅほぅ……高杉さんとかとの約束を破ってまで伝えちゃったのねぇ……。
……そ言や、高杉さんとアルト君とハリスってどうなったんだっけ?
何か忘れちゃったけど……、多分大丈夫でしょう!
うん、きっと大丈夫!!
そんな彼等の事が少しだけわかる次話のタイトルは、
【ケレス、紅蓮の炎を纏った悪魔と遭遇する】だ!
ひえぇっ!? あ、悪魔だって!! 怖っ!!
そして、次話には少々残酷描写があるので、苦手な方は御注意を!




