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№ 84 ケレス、龍鬚糖の香しさの中で幼い二人の話を聴く

 イェンユエの記憶の中の世界でケレスは幼い二人の様子を静かに伺っていた。

 すると、幼いイェンユエは幼いラニーニャに対しある行動を起こしたのである。

 そんな幼いイェンユエが起こした行動により、幼いラニーニャは微笑む。

 そうやって幼い二人は同じ時を紡いでいく……。

ー☆ー

 幼いイェンユエが幼いラニーニャの傍まで来ると幼いラニーニャの様子がはっきりと見えた。

「これが……父上がやらせたというのか!?」

 幼いイェンユエは息を飲んだ。

 そう、幼いラニーニャは色んな骨が浮き出る程痩せ細り、

息苦しそうにしているその体には顔を含め多くの傷があったのだ。

 それが目に焼き付いた幼いイェンユエは深く心を痛め、

さらにこの様な酷い事を自身の父がやらせていた事にも心を痛めたのである。

 そんな幼いイェンユエは呆然となり何も出来ずにいた。

「ゆ、許して……。いいコ、になる……から……」

 すると、幼いラニーニャが絞り出す様に声を出す。

「いいコ? 何で、そんな事を?」

 そして、幼いイェンユエが首を傾げると、ぐきゅるるうぅ……と奇妙な音が聞えた。

「これは……もしかして、腹の音?」

 その音が聞えた幼いイェンユエが瞬きすると、また、ぐきゅるるうぅと音が聞える。

「そ、そうだよな! 腹が空くよな! 何か食べ物……」

 それから幼いイェンユエは、ごそごそと自身の服をあさり始め、

「あった! 龍鬚糖ロンシュータン!」

と、叫んで、上服のポケットから紙袋を取りだした。

龍鬚糖ロンシュータン? 何だそれ?)

「駄菓子の一種だ。繭の形をした飴みたいな物と思ってくれ」

  首を傾げたケレスにイェンユエの声が聞こえる。

(ふうん……。駄菓子ねぇ……)

 その声を聞いたケレスが眉間にしわを寄せると幼いイェンユエはある行動を起こしたのである。

「なあ、お前。龍鬚糖ロンシュータンだ! 美味しいからこれを食べるんだ!」

 そう、幼いイェンユエはそう言って、幼いラニーニャの前に持っていた紙袋を差し出したのだ。

 すると、幼いラニーニャは徐に目を開け、その紙袋をぼんやりと見つめる。

 それから目が合った幼い二人は話し始めた。

「……あなたは、誰?」

「そんな事より、食べてくれよ! とっても美味しいんだから!」

 幼いイェンユエは紙袋の中から龍鬚糖ロンシュータンを一つ取り出した。

 すると、龍鬚糖ロンシュータンから甘い匂いと、ナッツの香ばしい匂いがふわりと広がる。

 そして、その匂いが漂うと幼いラニーニャは幼いイェンユエが持っている龍鬚糖ロンシュータンを、じっと見つめた。

「……それ、美味しそうだね」

「そう、じゃなくて! 美味しいんだから!」

 それから幼いイェンユエ龍鬚糖ロンシュータンを一つ食べ、幼いラニーニャを見てにっこり笑った。

「ほら、変な物は入ってない! 唯、美味しいだけだから、食べてみろよ!」

「……どうしてあなたは優しくしてくれるの? 私は悪いコだから、食べちゃ駄目なのに……」

「いいから 食べなって」

 そして、優しく言った幼いイェンユエ龍鬚糖ロンシュータンが入った紙袋を籠の中に入れる。

 すると、幼いラニーニャはゆっくりと手を伸ばしてその紙袋から龍鬚糖ロンシュータンを一つ取り出し、

不思議そうな顔をして、口に入れた。

 だが、そのラニーニャの顔は虚ろなものから、

急にパチパチと瞬きをするといった驚きのものへと変わったのだ。

「美味しい!? でも、ふわふわして、消えちゃった? どうして?」

「だろ? そういう不思議な味なんだ! また、沢山持って来てやるから食べてくれよ?」

「へっ? で、でも……」

「約束だ。っと言っても、新月の時にしか来れないけど……」

「……約束ね」

 約束を交わした幼いラニーニャの顔は戸惑いのものから微笑みへと変わる。

 そして幼いイェンユエも微笑んだが、また自身の部屋へと戻されたのである。

「ヘル!? 何するんだ!!」

 すると、そんな幼いイェンユエはヘルを睨みつける。

「まあ、タイムオーバーだからね?」

 だが、ヘルは両前足を伸ばし全く怯まなかったのだ。

「答えになってないぞ!!」

「まあまあ、焦りなさんなって♪

 また、俺様との約束を守ってれば、嬢ちゃんとの約束を守れるんだからね?」

 さらに眉を顰めた幼いイェンユエにヘルは嬉しそうに目を細める。

「何だよ、それ……」

 そんなヘルに幼いイェンユエが口を尖らせると、

「じゃあな、イェンお坊ちゃん? また、新月の夜に会おうぜぃ♫」

と、言ったヘルは闇に飛び込んで消えた。

 そこまで幼いイェンユエの記憶を見終えるとケレスの目の前にイェンユエが姿を現した。

 そのイェンユエはケレスの目を真直ぐ見つめる。

 それからまた二人は話し始めた。

「俺は新月の夜の度にヘルに会い、喜蝶の所に行って話をした。

 ちょっとした菓子を土産に持ってな」

「その前に、ヘルって剣の国の守り神なのか!?」

「ああ、そうだ」

「……あんなふざけた奴がか?」

「一応、あれでも闇の守護を持つ精霊神だからな」

「すみません。話を脱線させて……」

 ケレスが苦笑するとイェンユエも苦笑し、話を戻す。

「ヘルの気紛れだったが新月の夜だけ、喜蝶と十分程 話せてな。それでも、あいつは喜んでくれた。

 そして、少しずつだがあいつは俺に心を開いてくれた……。

 それから二年ぐらいして俺は名前以外にもあいつから聞く事が出来た。

 何故、グリンカムビの鐘の音にのせ剣の国にマナを運ばなければならないのか。

 そして、喜蝶の過去をな……」

 イェンユエがここまで話すとイェンユエの姿は消え、また幼いイェンユエの姿が現れた。

 そして、幼いイェンユエの記憶の世界が進み出す。

 その世界は新月の夜、幼い二人がちょっとした菓子を挟んで話している処だった。

「なあ、喜蝶。お前はどうしてこんな所にいるんだ?」

「……私ね、私のせいで、お父さんとお母さんを殺しちゃったんだ。

 だから、ここで罪を償わなきゃいけないの……。

 そうしないと、お父さんとお母さんは天国に行けないって。私のせいで、ずっと苦しむんだって。

 それに、この世界の全ての人が苦しむんだって……」

 幼いイェンユエの問いに答えた幼いラニーニャの目には涙が沢山貯まっており、今にも零れそうだった。

 その涙を見た幼いイェンユエは眉を顰め、声を荒げる。

「そんな事があるか!! 誰がそんな事を言ったんだ!!」

「……お父様」

「お父様? 誰だそれ……」

 そして、幼いラニーニャの零れた涙を見た幼いイェンユエは自身の部屋へと戻されていた。

「ヘル!? 何故戻したんだ!! まだ数分しか経ってないぞ!!」

 それから自身の部屋に戻された事に納得していない幼いイェンユエは怒鳴る。

「ははぁ~ん? イェンお坊ちゃんはこれ以上、踏み入れない方がいーのよん♪」

 だが、横目でチラリと見たヘルから小馬鹿にされる。

 その視線に幼いイェンユエは眉を顰めた。

「ここまで関わらせておいてそれはないだろ!!」

「無理だってば! お前程度が何とか出来る相手じゃねぇーーのっ!

 お父様も、お前の親父もな!!」

 そして、幼いイェンユエはヘルを睨んだが怒鳴り返したヘルから金色の鋭い目で睨まれる。

「どうしてそう言い切れるんだ!!」

「……てめぇが一番、わかってんだろーがよ?」

 それでも幼いイェンユエは食い下がったが静かに言い残したヘルはその姿を闇の中に消した。

 こんな記憶の世界を見た後またケレスの前にイェンユエが現れ、二人は話始めた。

「俺は、ヘルの言葉の意味を考えた。そして、月の瞳、名という答えに辿りついたんだ」

「その月の瞳っていうのは、すぐ手に入ったんですか?」

 ケレスの問いにイェンユエは首を横に振った。

 そして、それを見たケレスはある事を思い出し、また話始める。

「でしょうね……。ミューも同じ様な事で苦しんでましたし」

「まあ、こればかりは願って手に入るものではないからな……。

 結局、それからどう努力しても俺は月の瞳を手に入れられなかった。

 新月の夜に気紛れ程度に喜蝶と会う事しか出来ずにいた。

 そして何も変わらずに一年が過ぎ、あの日が訪れてしまったんだ……」

 話しているイェンユエの顔は曇り、その姿を消すと、また幼いイェンユエの記憶の世界となった。

 だが、その日は新月ではなく満月が煌々と光っている夜だったのだ。

 そんな夜空を幼いイェンユエが眺めていると、

「やい!! 大変な事になった!!」

と、叫んだヘルが幼いイェンユエの前に現れたが、その顔には焦りの色がくっきりと滲み出ていた。

 この後そのヘルの口から起きてしまった悍ましい事実が発せられる。

 ケレスくぅぅん……。

 美味しそうな匂だったねぇ……。

 ……お腹、空いてきたよ私は……。

 何か私に恵んでくだされ!

 って、冗談言っている場合じゃないんだ!!

 次のお話では大変な事になるんだから!

 そんな次話のタイトルは、【ケレス、イェンユエの過去を知り、ある決意をする】だ!

 さあ、ケレス君の決意とは一体何でしょうか? 乞うご期待!


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