№ 83 ケレス、新月の夜に現れた闇の番人の気紛れに巻き込まれる
炎月の幼い頃の記憶を見ていたケレスの前にまたもやヘルが出現した。
そして、そんなヘルは何の気紛れか幼い炎月をまたあの場所へ連れて行く……。
ー☆ー
それは、また月がない夜だった。
そこで幼い炎月が一人で窓の外を眺めていると、
「よぉ、お坊ちゃん? 元気にしてたかね♪」
と、言って、ヘルが姿を現したが、宙に浮いていた。
「お前!? やっぱり、夢じゃないんだな!!」
「へぇへぇ。夢じゃございやせんよっと……」
そのヘルに幼い炎月は全く怯まなかった。
なのでヘルは口を尖らせつまらなさそうな態度を取る。
「で、どうします? 誰にも言わなかったって事は、また行くのかね?」
だが、その後すぐにヘルは不気味に笑った。
「あ、当たり前だ!! まだ、あの泣き声が我が国を脅かしてるんだ!
この僕が、我が国を守るんだ!!」
「ほほほぉ♪ 月の名もいただいてないお坊ちゃんが、よく言うねぇ?」
その笑いに幼い炎月の声はふるえ出したが、しっかりと己の意思を伝えた。
すると、ヘルから小馬鹿にされてしまう。
(月の名って、何だ?)
そのヘルの言葉にケレスは首を傾げた。
「我が一族には、月の瞳というマナを滅ぼす力がある。
それが目覚めれば、月の名を受け取れるんだ」
(マナを滅ぼす力だって!? じゃあ、あの黒い炎がそうなのか?)
「そうだ」
ケレスの疑問を炎月の声が払拭していく。
そんな中でも炎月の記憶の世界は進む。
「それは、すぐ頂けるさ!! さっさと、あそこへ連れてけ!!」
ヘルに馬鹿にされた幼い炎月は苛立った。
「はいはい。いつになる事やらねぇ? 期待せずに見守っとくぜ♪」
そんな炎月に口を窄めたヘルは右目でウィンクした。
すると、目の前が一瞬真っ黒になり、あの場所へと移った。
そこではまだ幼いラニーニャは泣いていたのである。
「やっぱり、泣いてる……。全然、噂が消えない訳だ」
「当然でしょ? あの嬢ちゃん、ずっと一人なんだぜ?」
幼い炎月の呟きにヘルは飽きれる。
「ずっと一人だって? 何でだ?」
「んぅ~ん? それはな、あの嬢ちゃんの存在が誰にも知られちゃマズイからよ?」
首を傾げている炎月をヘルは目を細め見つめた。
「どうしてだ?」
「月の名もないお坊ちゃんが、知ってどうすんの?」
「だから! それはすぐにいただけるんだ!!」
そんな幼い炎月をヘルは小馬鹿にする。
すると、幼い炎月はヘルを怒鳴りつけた。
「まあ、少しぐらいなら教えてやんよ♪ あの嬢ちゃんは、ダーナだ……」
その怒鳴りに全く怯まず不気味な声でヘルはラニーニャの正体を明かした。
だが、幼い炎月はまた自分の部屋へと戻されてしまったのである。
「お、おい!? まだ、何もわかってない!!」
「また、誰にも言わずにいたら、会えるさ。新月の夜にな……♫」
急に自室に戻され苛立っている幼い炎月にヘルは謎の言葉を残し闇に溶け込む様に消えた。
それからまた景色は暗いだけのものへと変わり、ケレスの前に炎月が現れる。
「俺は、ダーナについて調べた。
そして、ヘルについてもな」
「何かわかったんですか?」
「ダーナについて、調べれるだけ調べた。
だが、祈りの一族等だけで特に変わった事はわからなかった。
唯、俺に疑問が出来た……。
何故、ダーナが一人でいるのか。そして、籠に入れられ、泣いているのか……」
炎月が先に口を開きケレス達は闇の世界で話していた。
その話の中でケレスに怒りが沸き上がって来る。
「それは、剣の国がダーナを利用してきたからだ!! どうせ、無理やり 誘拐したんだろ!!」
「……だろうな」
そして、その怒りに任せ怒鳴ったケレスに炎月は眉を顰めた。
すると、その炎月の姿は消え、ケレスの目の前の景色が変わった。
そう、それはまた月がない夜、幼い炎月は一人でいた。
「やい、ヘル!! 出て来い!!」
「ほいほい♪ 呼んだかね?」
そこで幼い炎月が怒鳴ると笑いながらヘルが闇の中から姿を見せた。
「やっぱり、お前は闇の番人のヘルか!? 我が国の守り神のヘルか!」
「御名答! よぉーく、調べたねぇ♪」
そのヘルを幼い炎月は睨みつける
すると、嬉しそうなヘルは尻尾で幼い炎月の頭を撫でた。
「やめろ!! 僕は子供じゃないんだ!!」
怒鳴った幼い炎月はヘルの尻尾を振り払う。
「んで、どうするかね? 今宵も見に行くのぉ?」
「当たり前だ!!」
それでもヘルは幼い炎月の頭を撫でる事をやめなかった。
そして、幼い炎月を小馬鹿にする。
すると、幼い炎月はムッとした。
「では、参りましょうか、お坊ちゃん……♫」
そんな炎月を気にも留めないヘルは耳元まで口を拡げて笑った。
その後、幼い炎月達は一瞬でまた、あの場所へと移動した。
だが、この日は泣き声は聞こえなかったのである。
「あれ? あの人は何処だ?」
その事を不思議に思った炎月は首を傾げる。
「見てみな……」
すると、ヘルに静かにそう言われ、幼い炎月が目を凝らして見ると、
灯りの下で幼いラニーニャは、ぐったりとしていたのだ。
しかも、そのラニーニャは以前見た時よりも痩せ細り、傷を負っている様だった。
「ど、どうしたんだ!?」
「お父様とやらの言う事を聞かなかったからだとさ。
それだけで三日間、食事抜きと暴行だとよ。これで、何度目かね?」
衝撃の光景に大声を出した幼い炎月の耳にヘルの静かな声が聞こえる。
「何でそんな事ぐらいで、あんな目に合うんだ?」
「さあね? 俺様は人の子の考えなんてわからないのよ」
そのヘルに幼い炎月は目を転がしたが
ヘルはラニーニャを見つめたまま幼い炎月と目を合わさなかった。
「あのままじゃあ、あの嬢ちゃん……。死んじゃうかもね?」
その後、ヘルはチラリと幼い炎月に視線を移す。
「そ、そんな!? 駄目だよ! そんなの!!」
「どうして? お前の国は、こうやってきたのにかい?」
動揺し声を荒げた幼い炎月とは対照的にヘルの声は静かだった。
「どういう意味だ!?」
「簡単に言うとねぇ……。お前の国は、ダーナの犠牲の上で成り立ってるのさ。
祈りの力を使えば、その分、生かす。使わなければ……、亡骸を使う……♫ わかるかい?」
そして、息を飲んだ幼い炎月の前でヘルの目は不気味に光る。
「嘘だ! そんな事、どこにも書いてない!!」
「そりゃぁそうでしょ? そんな酷い事、公表する訳ないじゃん?」
「やめさせなきゃ!!」
「どうやって?」
「そ、それは、その……。ち、父上に頼むんだ!!」
幼い炎月の動揺はどんどん大きくなる。
その幼い炎月をヘルは小馬鹿にし、不思議そうな顔を向けた。
そして、そんな幼い炎月が出した答えに溜息をついたヘルは尻尾で幼い炎月の顔をペシッ!と叩く。
「痛い!? 何すんだ!!」
」「あのねぇ……。お前の父は誰かね?」
その痛みに苛立った幼い炎月がヘルを睨むとヘルの鼻のラインにはしわが出来ていた。
「父上は我が国の帝王だ! だから、やめさせられるよ!!」
「その帝王様がやらせてんだよ!!」
「父上は、そんな事なんかしない!! とても、お優しい方だ!!」
「信じようが、そうしまいが、それが真実なぁーの♪」
「じゃあ、頼んでみるさ!!」
幼い炎月とヘルの言い合いは続いた。
その中で幼い炎月の声は大きくなり、ヘルの金色の瞳は鋭く輝く。
すると、ヘルはまた幼い炎月を小馬鹿に下。
そして、そのヘルに苛立った幼い炎月は怒りにふるえる。
「無理、無理 無理! お坊ちゃん程度が頼んだところで、何にもならないよん♪」
だが、ヘルは笑い転げた。
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
「それは自分で考えな! 何でも聞くんじゃあねぇっつーうの!!」
おろおろしている幼い炎月を起き上がったヘルは金色の鋭い目で睨みつける。
「考えろって、言われても……」
すると、幼い炎月は前を見た。
そして、走った。
「さてさて……。拝見させてもらおうかね♪」
そんなヘルの声に見送られた幼い炎月が向かったのは勿論、
幼いラニーニャが閉じ込められている籠の前だった。
その籠の前まで到着すると、幼い炎月は幼いラニーニャを真直ぐ見つめ、考えた。
そう、今の剣の国は何で成り立っていたのかを……。
そして、答えを出した幼い炎月は行動を起こす。
ケレス君。幼い炎月は如何だったでしょう?
それに、ヘルちゃんも可愛かったでしょ?
ぅうん? ヘルは今も昔も変わってない、だって?
……まあ、そりゃそうだ♪
そんな昔の話はまだ続くのだ!
そう、次話、【ケレス、龍鬚糖の香しさの中で幼い二人の話を聴く】でね!
何か美味しそうな感じがするね♪




