№82 ケレス、ラビリンスの亡霊に遭遇する
炎月の申し入れに了承したケレスの前に楽し気な会話が聞こえてきた。
そこからケレスは炎月とラニーニャとの出会いを知る……。
「……お前の能力を使え。
俺の記憶、心を読めば俺の気持が嘘偽りなくわかるだろう」
怒りが頂点に達したケレスに苦しそうな顔の炎月は右手を差し出してきた。
すると、ケレスの怒りは少しだけ静まる。
そんなケレスは怒りを鎮めながら考えた。
今、一番何をしなくてはいけないのかを。
そして、
「……わかりました。俺、読心術やります」
と、答えを出したケレスに炎月は小さく頷き、ケレスはその右手を握った。
それからケレスは静かに瞳を閉じ、読心術を始めた。
ー☆ー
ケレスは炎月の心の中に入る事が出来た。
だが、炎月の心の中は暗く、何所までも闇が広がっていた。
すると、そんな闇の世界から炎月が姿を現したのである。
「これを……」
それから炎月は白く光る紐をケレスに差し出してきた。
「これは?」
「俺と、喜蝶との出会いの記憶だ」
「わかりました。見せてもらいます」
首を傾げていたケレスはその紐を受け取った。
すると、闇から光る扉が開き、光の中の世界へケレスは導かれた。
☆*☆*☆
「父上! お帰りなさい!」
「おお、炎か。ちゃんと稽古を行ったか?」
「へへ、炎は全然剣術の腕が上がらないんだぜ?」
「兄上!? それは、兄上が強すぎるからです!」
「そんな事でどうするんだ、炎? 世界では大恐慌で魔物や祟り神が沢山いるんだ!」
「兄上、大丈夫だよ! 父上がいるんだし! だから、剣の国は平和じゃないか!」
光の扉の先は真っ白な世界だった。
だが、そんな世界でこんな会話が聞こえてきたのである。
(これって、炎月さんの過去!?)
その会話が聞えたケレスがそう思うと、
「そうだ。一七年前の事だ」
と、炎月の声が聞こえてきた。
それからケレス達はこんな会話をした。
(十七年前だって?)
「そう……。ここは、サダクビア城。俺達はそこで何不住なく暮らしていた」
(ふぅーん……。で、あなたは俺に何を伝えたいんだ?)
姿が見えない炎月と話しているケレスの目の前の景色は一変する……。
それは、月がない夜だった。
そこで炎月が夜空を眺めていると、少女のすすり泣く声が何処からともなく聞こえてきた。
「こ、これって……。今、国中で噂のラビリンスの亡霊!?」
そして、炎月がそう言った声が聞えた。
だが、その声は声変わりもしていない幼いものだったのだ。
(ラビリンスの亡霊?)
「夜な夜な聞こえてくる少女の泣き声という噂でな。
ヘルヘイムでは大恐慌で死んだ子供が母を求め、迷宮を彷徨っていると言われていたんだ」
(ふ、ふ ふぅん……。で、そ、それが、どうしたんだよ?)
幼い炎月の声が聞えた後、ケレス達はこんな会話をしていた。
すると、炎月の記憶の世界で聞き覚えのある声が聞えたのである。
「よお、お坊ちゃん? 何を怯えてんだい♫」
そう、それは相変わらずのお調子者の声……。
そのお調子者は闇の中から不気味に笑う声と共に姿を現したのだ。
(へ、ヘル!?)
その姿を見たケレスはそう思い、
「わわわっ!? 化け物だぁ!! 食べないで!!」
と、そのヘルの姿を見て叫んだ幼い炎月は腰を抜かした。
「おいおい……。俺様はお前なんか喰ったりしないさぁ」
そんな幼い炎月を見たヘルは鼻のラインにしわを作った。
だが、それをすぐに直す。
「なあ、お坊ちゃんよ? 今、噂のラビリンスの亡霊とやらに興味あるかい?」
「そ、そんなものは、ただの噂だ!! それより、お前は何者だ?」
楽し気なヘルに対し、腰を抜かしたままの幼い炎月の体は後ろに引いていた。
「またまたぁ??? 聞こえてるくせにぃ?」
「き、聞こえてないよ!! だから、その前にお前は何者だ!!」
「あらぁん? もしかして、ビビってるのかい? 剣の国の皇子様たる者がねぇ……♫」
揶揄うヘルに幼い炎月は目一杯声を張り上げる。
すると、ヘルは、チラリと横目で炎月を見ながら歯を見せて笑った。
「そんな訳あるか!!」
そんなヘルに苛立った幼い炎月はすくっと立ち上がり怒鳴ったが、
「じゃあ……、行きましょうかね? 真実を知る旅へ……♫」
と、ヘルが不気味に笑いながら言った瞬間、目の前の景色が変わり、
小さな灯りが一つだけある暗い洞窟の様な処となった。
そこから先程聞えてきた少女のすすり泣く声が聞えてくる。
「こ、こ ここ 何処だよ?」
そこで辺りをキョロキョロ見ながら幼い炎月は声をふるわせた。
「言ったろ? 真実がある所さぁ♪」
「真実だって?」
笑いながら言ったヘルの声に耳を傾けた幼い炎月は目を凝らして灯りを見る。
すると、籠の中で泣いている幼い少女が見えた。
(あれって、姉ちゃん!?)
その少女を見たケレスの目は丸くなった。
「そうだ……」
(何で姉ちゃんがあんな所で泣いてんだ? それに、あの籠はグレープニルの鳥かご!?)
目を丸くしたケレスとは対照的に聞こえてきた炎月の声は落ち着いていた。
そして、そんなケレスの前で炎月の記憶の世界はまた進んだ。
「さてさて……。どうかね? 真実を見た感想は?」
こちらでは怯えきっている炎月とは対照的にヘルは楽し気だった。
「何で、あの人は泣いてるんだ?」
「んぅ~ん? 俺様が聞いてんだけど?」
少し落ち着きを取り戻した幼い炎月にヘルは小馬鹿にする様に聞き返す。
「わかんないよ!! 何であの人は泣いてるんだ!? これのどこが真実なんだよ!!」
「これが真実なんだよ……。お前達がこの国で平和に暮らせている事のなぁ……♫」
苛立った幼い炎月が怒鳴るとヘルは耳付近まで口角を上げ不気味に笑う。
そのヘルに怯んだ幼い炎月は息を飲んだ。
「わかったかい、お坊ちゃん?」
だが、元の顔に戻ったヘルが楽し気に言うと目の前の景色は真っ黒になった。
そして次に見えた景色は元の幼い炎月の部屋だった。
「何だったんだ……。夢?」
その部屋で呆然となった幼い炎月がそう呟くと、
「もし、興味があんなら、また次の新月の夜に見せてやんよ♪ ただし、誰にも言うんじゃないよ?」
と、楽し気なヘルの声だけが聞え、その姿は何処にも見えなかった。
「だから! お前は誰だ!!」
そのヘルの声に炎月は声を荒げる。
「どうしたの、炎?」
すると、そう言いながら美しい女性が部屋に入って来た。
「母上!」
その女性を呼んだ幼い炎月の声は大きくなった。
(この人が、南河三さん?)
「そうだ。俺達の母上だ」
その女性を見たケレスがそう思うと炎月の声が聞えた。
そう、その女性は炎月達の母、南河三だったのだ。
南河三は三十代くらいの痩せ型、腰下までの黒髪で色白のベージュ肌、
細い目の瞳は黒色、顔は目鼻立ちがくっきりしていた。
そんな南河三は優しい顔で幼い炎月を見つめていた。
「何か、怖い夢でも見たの炎?」
「母上!? 駄目じゃないですか! 寝てないと!」
優しく話し掛けた南河三に幼い炎月は駆け寄る。
「大丈夫よ。これぐらいでどうかなる私じゃないわ」
「駄目ですよ!」
「心配ぐらいさせて……」
幼い炎月の頭を南河三は優しく撫でた。
そんな南河三を眉が下がった幼い炎月が見上げると
南河三から優しく抱きしめられる。
すると、何とも言えない安らぎをケレスは感じた。
それから幼い炎月を放した南河三は優しく笑いながら幼い炎月と暫く話したが、
幼い炎月はラニーニャの事を一切話さなかった。
そして、南河三は部屋から出て行った。
そこまで見るとその光景は消え、暗い世界に炎月が現れた。
「これが、俺と喜蝶との出会いだ」
「何で姉ちゃんがあそこにいたんだ?
姉ちゃんは昴を追い出されて、淦丸島で殺されそうになったって聞いたけど……」
「すまない。そこまではわからない」
呆然となっているケレスの前で炎月は眉を顰める。
そして、一つ息を吐いた。
「……俺はヘルの言葉の意味が知りたくて、誰にも言わず次の新月を待った……」
そんな炎月がそう言うとその姿は消え、
またケレスの目の前の景色は変わり、炎月の記憶の中の世界となった。
えぇ……ケレス君。
今回から忘れ去られそうな君の能力が光る話となった!
そう、時読みの中でも読心術と呼ばれる能力……。
確か設定では君はこの能力にたけていたはずだよね?
だから、がんばって主人公らしく働いてね♪
そんな君の働きが光る話は続くよ!
そっ! 次話、【ケレス、新月に現れた闇の番人の気紛れに巻き込まれる】でね!
……て事は、あのキャラがまた登場するのね♪
ー☆ー
~ここからちょいと宣伝&お知らせ~
いつも【嘘と秘密だらけの世界のかたすみで】をお読みいただき、誠にありがとうございます!
いよいよ、2026年4月1日よりこのシリーズの新たな作品のお目見えとなります。
そのタイトルは【番外編 龍宮 アルトの憂鬱】です。
本編でちらほら投稿させていただいたものをリニューアル&新たなストーリーとして投稿させていただきます。
本編に差支えの無い様に投稿するので投稿ペースはまちまちとなりますが、
どうぞよろしくお願いいたします!
あと、本編をまた改稿していくつもりです。
こちらは今年中に終えれればと思っております。
最後に、本編の投稿ペースは毎週火曜日、金曜日で変わりませんが時間帯がまちまちとなります。
どこかで見かけましたらよろしくお願いいたします!




