№ 78 ケレス、白い霧に誘われし場所で願いを叶える
結びの組紐をしっかりと握ったケレスは玉手箱の夢の世界へと誘われた。
そんな夢の世界は白い霧で覆われていた。
だが、その霧の中からずっと会いたかった人物の声がケレスの耳に届く……。
「でえぇっ⁉ 真っ白で何も見えない‼」
玉手箱の中に誘われたケレスは叫んだ。
そんなケレスの耳に何かが、トン!、タンドンッ!、ダダッ‼と音を立て暴れている音が聞えた。
「何だ⁉」
その音の方へとケレスが近づくと、また違う音がケレスの耳に届いたのである。
「た、たぬてぃ⁉ どうしたの? 落ち着いて!」
そう、それは聞き覚えのある声……。
いや、ずっと聞きたかった声がケレスの耳に届き、はっきりと聞こえたのだ。
「ね、姉ちゃん⁉」
その声にケレスは呼び掛けた。
「あっ、 氷月様? いらしてたんですか?」
「氷月だって⁉」
すると、またラニーニャの声が聞こえ、ケレスは辺りを見渡したが白い霧だけで何も見えなかった。
だが、そんな霧の中からこんな二人の話す声が響いてきた。
「おい、こんな所で寝ていたら風邪をひくぞ」
「えへへ。ごめんなさい」
「はあ。何笑ってるんだ……」
「だって、何か、いい夢を見ていた気がするんです」
「夢だと? 何の夢だ」
「えっと……。何だっけ? 忘れちゃいました。えへへ……」
「お前なぁ……」
「あっ⁉ 氷月様どうなさったのですか⁉ お顔が……」
「大した事じゃない」
「駄目です! お綺麗なお顔が台無しです!」
そんなラニーニャ達のやり取りが聞えたケレスは懐かしいマナを感じた。
「これって……、姉ちゃんのマナだ⁉」
そう、忘れもしないラニーニャの優しいマナ。
それをはっきりとケレスは感じたのだ。
そして、ケレスはラニーニャは氷月の処にいると確信した。
すると、ケレスの耳にまた二人のやり取りの声が聞こえて来る。
「はい。治りました」
「……。ったく、お前は……」
「あっ! 雪だ!」
「おい、雪など見飽きただろうが」
「ううん。こんなに綺麗な雪、いくら見ても飽きる事ないよ!」
まるで子供の様にはしゃぐラニーニャの傍には、
呆れて何度溜息を漏らしたかわからないといった氷月がいる事が見えなくともわかった。
それに、そんな二人が幸せである事も……。
そして、それを感じ取り呆然となったケレスの耳にまた二人の幸せそうなやり取りが届く。
「あれ? 毛嵐だ……。でも、こんなに出るのって……」
「行くな……。何処にも行くな!」
「……氷月様。行きませんよ、何処にも……。
いきません、あなた様に頂いた世界から、何処にも行きません……」
そう言ったラニーニャの声はとても幸せそうだった。
そして、氷月の息遣いが激しくなり、何かを囁くと、ラニーニャの息を飲む音が聞えた。
すると、二人の息遣いは重なって聞こえ、それに紛れ優しい音がケレスの耳を掠める。
「えっ……? ど、どうなってんだ⁉ 姉ちゃん‼」
その音が耳を掠めたケレスは混乱し叫んだ。
だが、ケレスが握っている結びの組紐が一気に上へ引っ張られ、
そのままケレスは上へ引っ張られたのである。
「うわわあぁ⁉ 何が起きてるんだぁーーー⁉」
そして、そう叫んだケレスは元いた場所で仰向けになっていた。
「大丈夫かい、ケレス?」
そんなケレスの視界に眉が下がったアルトが入る。
「ああ、何とか……」
そのアルトに起き上がりながらケレスは答えた。
すると、ほっとしたアルトは一息ついた。
「……ところで、願いは叶ったかい?」
「そ、それが……」
アルトの問いの答えに困っているケレスの左口角はピクピク動き始めてしまった。
すると、そこに眉を顰めた高杉が入って来る。
「何もわからんかったのか?」
「い、いや、その……。何が何だか……」
高杉の問いでラニーニャの事を考えたケレスの頬は赤くなる。
そのケレスを見たアルトは溜息をついた。
「高杉殿は何か見えなかったのですか?」
「白いだけで、何も見えんかった。こいつのマナを感知するので精一杯だったよ。
この馬鹿が読心術をしてなかったせいでな‼」
高杉からケレスは頭を右拳で小突かれた。
その衝撃で思わずケレスは瞳を閉じる。
「そうでしたか……」
「わ、悪かったよ! けど、もう少し長くいたらわかったんだ‼
あんな数分じゃあ、誰だって無理だ‼」
そんなケレスの耳に残念そうに言ったアルトの声と溜息が聞えた。
すると、慌てて瞳を開けたケレスは言い訳をした。
だが、アルトは眉を顰める。
「ケレス……。君は数分と感じたかもしれないが、玉手箱を開けてから三時間は経ってたんだ。
これ以上は危険と判断して高杉殿が助けたんだよ」
「へっ⁉ そんなに時間が経ってたのか⁉」
「まあ、夢の中で感じる時間と現実で感じる時間は違うからね」
そのアルトから聞かされた事実にケレスの目は丸くなった。
それでもアルトは冷静でいた。
そして、高杉は溜息をつく。
「しかし、何か方法を考えんといかんな……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ‼ 多分だけど姉ちゃんは、サダクビア城にいる‼」
何も打つ手が無くなった高杉は右手を顎にやり考え始めた。
そこでケレスが慌てて思いついた事を言葉にする。
「サダクビア城だって⁉ ヘルヘイムのかい?」
「そうだよ! それに姉ちゃんが毛嵐って言ったんだ! それに、雪って言った!
それに、氷月様の名前も出てきた‼」
サダクビア城の名を聞いたアルトの目は丸くなった。
それから思い出せるだけの事を声を荒げたケレスが言うと、
「どういう事だ⁉」
と、怒鳴った高杉から詰め寄られたケレスは玉手箱の中であった事と、ヘルヘイムでの事を話した。
その話をアルトと達は聴き入っていた。
「ケレス。君の言う通りなら、先輩はそこにいる可能性が高いね」
「だろ? きっと、姉ちゃんはサダクビア城にいる! なあ、先生?」
「じゃあ、ミュー様を宝珠の国に送り届けたら僕達は剣の国に向かおう!」
「そうだな!」
それから少し上を向いて得意気にケレスは話していた。
そのケレスに頷いたアルトからは笑顔が垣間見える。
すると、ケレスからも笑顔が零れたが、高杉は明らかに不機嫌な顔で黙っていた。
その高杉にケレスは首を傾げる。
「先生? 何か俺、間違ってたか?」
「別に。それでいい」
何故か高杉の不機嫌さはさらに増した。
その高杉を変だと思ったケレスだったが、空気を読みそれ以上何も言わない事にした。
それからケレス達は各々、別部屋で休息を取る事となった。
ただし、クリオネだけは休みなくミューを見張っていた。
その休息中、ケレスがソファーに座っていると、
「ケレス様、お茶が入りました。玉手箱の件で、お疲れでしょう?」
と、メイサがコーヒーセットを持って来たので、
「ありがとうございます!」
と、言って、ケレスがそれらを受け取ると、
「少し、お話をさせていただけます?」
と、微笑んでいるメイサから聞かれ、
「はい」
と、ケレスが笑顔で答えると、メイサはケレスの前に机を挟んで座った。
それからメイサはホットコーヒーを一口だけ口にした。
「こんな時に何なのですが……。
アルトお坊ちゃまと、あなた様方の出会いからの話を全て聞かせていただけませんか?」
「いきなりですね……」
そのメイサの話にケレスは一つ息を吐く。
「ほほっ……」
「いいですよ。また、扇子をぶつけられたくないですからね?」
それから上品なメイサの笑い声に笑ったケレスは
アルトとの出会いから今日に至るまでの話を包み隠さず話した。
メイサはそのケレスの話を目を細めて上品にコーヒーを飲みながら聴いていた。
「本当に、お坊ちゃまはあなた様方に出会えて良かった……」
ケレスが話し終わるとメイサはそっとコーヒーカップを机に置いた。
そのメイサにケレスは笑顔をまた向ける。
「良かったのは俺の方です。今覚えば、アルトには助けられっぱなしですから!」
「ほほっ、そうですか……。お坊ちゃまにもそう言われる日がくるとはねぇ。
ですがお坊ちゃまは本当にあの御方に出会えて良かった……。
色んな方に恵まれたあの御方に……」
「あの方って、姉ちゃんの事ですか?」
「ほほっ。当然ですわ」
ケレスとの話で感傷に浸っていたメイサは柔らかい笑顔と声となった。
「でも、それは違います」
だが、そう言ったケレスはメイサが持ってきたクッキーを一つ食べた。
すると、カリカリとしたシュガーが口の中で溶け、クッキーの柔らかい甘さと混じる。
その味をしっかりと味わったケレスはクッキーを飲み込んだ。
「姉ちゃんが、いい人だから俺達は恵まれてるんです」
「……そうでしたわね」
それからケレスが訂正すると、パンッと扇子を拡げ扇いだメイサは静かな声で言った。
そんな二人はここからコーヒーを飲む音とクッキーを食べる音だけの静かな時間を楽しんだ。
そして、メイサがコーヒーを半分程飲み終えた後、
「あの、アルトの婆やさん……。本当に、ありがとうございます」
と、ケレスは話し掛けた。
すると、メイサは小鳥の様に首を傾ける。
「ほほっ? 私、ケレス様に礼を言われる事、しまして?」
「はい! 姉ちゃんの事もだけど、ミューの事、本当に感謝してます!」
「ほほっ……。それは全て終わった後に、もう一度聞かせていただけます?」
そんなメイサと話していたケレスはメイサから、じっと見つめられた。
そして、大きく頷く。
「はい。また言わせてもらいます!」
「ケレス様は正直で、素直でいらっしゃいますが、時にそれは人を傷付ける事を生むでしょう。
お気を付けあそばせ……」
だが、コーヒーカップを机に静かに置いたメイサは意味深な事を言った。
「アルトの婆やさん?」
そんなメイサをケレスは不思議に思ったが、
「さあ、折角のコーヒーが冷めてしまいますわ。
それに、私のお薦めのクッキー。もっと食べてくださいな」
と、クッキーをサクッと一口食べたメイサに笑顔で話を変えられてしまったので、
「はい。頂きます!」
と、言って、ケレスはクッキーを食べた。
だが、そんな風にケレス達が談笑している事を面白くないと思っている者がいた。
そして、ケレスはその者から睨まれるのである。
ケレス君おかえり!
いやいや……無事に戻って来てくれて良かったよ!
じゃなきゃこのお話は主人公を変える事になる処だったんだ……。
そう、アルト君とかね♪
……いや、まだそちらの方はね、準備中なのさ! だから、戻って来てくれて本当に助かったよ!
でさ、あのラニーニャちゃんと氷月様の何かいい感じのあれは、
暫くしたらどんなのかがわかる……かもしれない! ふふふ♪
それは、まだまだ大分先の事だけどね~。 その前に次話があるんだよ!
そんな次話のタイトルは、【ケレス、再度蛇の夢を見る】だ!
ぅえっ⁉ またあいつが来るのぉ⁉




