№ 77 ケレス、水鏡の国の秘宝を開ける
ヨルムンガンドに対抗すべくアルトから助言を受けていたケレスは
そこでメイサも高杉も同じ事を思っている事を知る。
そう、それはラニーニャの力が必要だと言う事だった。
だが、その肝心なラニーニャの居場所は不明なままだ。
果たしてケレス達にラニーニャの居場所を知る術はあるのだろうか……。
「……それには、救いの神子であるあいつの力が必要なんだろ?」
頷いた高杉は思いも寄らない事を言った。
その衝撃でケレスの開いた口は閉まらなかった。
「先生……。今、自分が何を言ったのかわかってんのか?」
「無論だ。あいつが救いの神子って事ぐらい、俺でもわかる。
ああ何度も奇跡を見せられたらな!」
そのケレスの口から言葉が漏れる。
それを聞いた高杉は一つ頷いた。
「先生……!」
「しかし、あいつの居場所を知る方法はあるのか?」
それを見たケレスの顔は晴れた。
だが、高杉は気難しい顔で顎に右手をやり考え出してしまった。
「はい!」
そこに話に入ってきたメイサがある小さな箱をケレス達に見せてきたのである。
その箱はメイサの両手にすっぽり嵌るサイズで気品ある黒色に黒光りしており、
落ち着きのある黒い紐で縛られていた。
その箱をケレスが覗き込むと、
「メイサ殿⁉ これは、玉手箱じゃないか!」
と、叫んだアルトは目を丸くし、
「ほう……。これが水鏡の国の秘宝、玉手箱か」
と、冷静に言った高杉はしげしげと玉手箱を眺めたが、
「あの……玉手箱って、何だ?」
と、言ったケレスは首を傾げた。
すると、この場に静けさが訪れ、微妙な空気となった。
そして、ケレスは高杉から幻滅の目を向けられる。
「お前……。それでよくアカデミーに合格出来たな……」
「ははっ……」
その目にケレスは苦笑いしか出来なかった。
だが、そこに救世主が現る。
「玉手箱とは、我が水鏡の国の秘宝だ。
その箱を開けた者の願いを何でも叶えてくれる代物だよ」
そう、それは勿論アルトだ。
そのアルトは優しく教えてくれた。
「そんな凄い物があるのか⁉ じゃあ、その箱に願いを聞いてもらえばいいじゃないか!」
「そんな都合のいい物が存在する訳がないだろう‼」
アルトのその話で笑顔になったケレスは一つ手を叩いた。
だが、眉を顰めた高杉から怒鳴れる。
すると、眉を顰めたケレスは口を尖らせた。
「じゃあ、何で玉手箱は願いが叶う秘宝なんだよ?」
「まあ、開けた者の願いを叶えるっていうのは案外、間違いではないからだよ」
そこにアルトがまた優しく教えてくれた。
「ほおぉらっ! 先生。アルトが、ああ言ってるじゃん?」
「ただし、それは夢の中の事だけどね」
そして、そう言ったケレスは目を細めて高杉を見つめる。
だが、静かなアルトの声が聞えたのだ。
そのアルトにケレスは急いで目を転がす。
「はっ? どういう意味だよ⁉」
「……玉手箱を開けた者は白い霧に包まれ、夢の世界へと誘われるんだ。
決して、起きる事のない夢の世界へね」
暫しの沈黙の後、アルトは静かにそう答えた。
そのアルトの目は何かを物語っている。
そう、その先に聴いてはいけない事がある……。
その様に物語っていたのだ。
そのアルトの目にケレスは怯んだ。
「嘘だろ⁉ じゃあ、何で夢の中で願いが叶ったってわかるんだよ?」
「まあ、眠った者の顔が幸せだったからじゃないかな?」
「そんなの意味がわからん‼」
「ケレス、玉手箱の伝承の一つに夢から覚めた奴の話があるんだけど……。
その伝承では目が覚めた者は、
『願いは全て叶った。やっと、帰れた』と言って、老人の姿となって死んだみたいだよ?」
そんなケレスにアルトは、にっこりと笑顔を向ける。
その笑顔にケレスの顔は引き攣った。
それでもアルトは平然とした顔で話し続ける。
「そんな物、役に立たないじゃないか‼ い、痛っ⁉」
すると、大声で怒鳴ったケレスは頭を抱えたがメイサの扇子が額に、バシッ!と振り下ろされた。
その衝撃でケレスの目から涙が零れ落ちる。
そして、額を押さえたケレスはメイサを睨みつけた。
「何すんですかアルトの婆やさん‼」
「そんな物とは何ですか⁉
玉手箱は我が祖先、龍宮 ベラトリックス様の所有物で、由緒ある秘宝です!
この玉手箱でベラトリックス様は何度も奇跡を起こし、水鏡の国を守ってこられたのですよ‼
故に、夢の中と言えども必ず願いは叶います!
それに、何の為にあなた様方の能力があるのですか‼」
だが、ケレスは鬼神の様な顔のメイサから凄い剣幕で捲し立てられた。
その迫力に涙目のケレスの怒りは静まる。
「俺達の能力⁉」
「ふっ、そういう事か……」
すると、鼻で笑った高杉は瞳を閉じた。
その高杉に零れてしまった涙を拭ったケレスは首を傾げる。
「先生、どういう事だよ?」
「俺達が読心術を使い合えばいい、という事だ」
「さすが、高杉様は聡明な殿方ですわ」
徐に瞳を開けた高杉の顔には余裕があった。
その高杉にメイサは、ほほっと笑う。
「読心術? まあ、それを使うっていうのはいいけど……、何で俺達、なんだ?」
だが、ケレスはまだ状況を理解していなかった。
そのケレスに高杉は眉を顰める。
「はぁ。お前って奴は……。いいか?
例え夢の中とは言え、玉手箱を開けた者は何でも夢が叶う世界に強制的に連れていかれるんだ。
そんな術から抜け出す方法なんて、そうはない。
考えられる方法としては、俺達が読心術を互いに使い合ったまま片方が玉手箱を開け、
願いが叶ったらもう片方が夢を見ている奴を強制的に夢の世界から抜け出させるしかないんだ」
「そういう事か! でも、何で使い合ったままなんだ?」
その高杉の説明にケレスに疑問が沸く。
すると、高杉は頷いた。
「夢の誘惑に誘われた奴に何を言っても無駄だからな。
だから、最初から使い合ったままでいるんだ」
「はあ、そうだな……。で、開けるのはどっちだ?」
ここまで聞くとケレスもやっと理解出来た。
そして、最後に聞いてみる。
「当然、お前だ」
その問いに、にやっと笑った高杉は即答した。
「な、何でだよ⁉」
その高杉の答えにケレスは後退りする。
「玉手箱を開けた時、読心術を使い合っている者もその夢を見る訳だが、
玉手箱は必ず開いていない方も夢の世界へ誘惑する。
その誘惑に到底、お前が勝つとは思えんからだ!」
「そんなぁ……」
だが、高杉は平然としていた。
それにケレスは、ガックリと肩を落とす。
そのケレスの肩に微笑んでアルトは優しく右手を置いた。
「さあ、ケレス。この結びの組紐を握ったまま、蓋を開けるんだ」
「結びの組紐⁉
……って、何だそれ?」
そんなアルトの左手には紐が握られていた。
その紐をケレスが、まじまじと見る。
「結びの組紐とは、玉手箱を縛っているこの紐の事だよ」
すると、その紐は玉手箱を縛っている紐だったのだ。
そして、にこにこしながらアルトは玉手箱ごと結びの組紐をケレスに渡してきた。
そんな結びの組紐は黒色をベースとした細長く平らな紐で表面は横の段になっており、
よくよく見ると、何かの柄が入っている様だった。
「……これを握ったまま、開ければいいのか?」
結びの組紐付の玉手箱を受け取ったケレスが眉を顰め口を尖らせると、
「そうだ。玉手箱には悲恋の逸話があってね。
詳しくは話さないけど……、まあ、無事でいたければそれをお守りと思ってずっと握っている事だね」
と、話したアルトは意味深な顔をしていた。
その顔に危険を感じたケレスはアルトを睨みつける。
「何だよそれ⁉ 話せないっておかしいだろ‼
アルト、お前絶対何か隠してるだろ‼ 話せよ‼」
「さっさと玉手箱を開けろ!」
そんなケレスは声を荒げたが、眉を顰めている高杉から睨まれた。
その高杉は既に結びの組紐の端を掴んでいる。
「そんな無茶な⁉ 心の準備ぐらいさせろ‼」
だが、ケレスは訴えた。
すると、高杉から冷たい眼差しで見られてしまい、
「うぅ……。わかったよ! そんな目で見るなってぇの……」
と、愚痴を漏らしたケレスは結びの組紐を強く握り、恐る恐る結びを解いた。
それから結びの組紐を右手でしっかり握ったケレスは玉手箱の蓋にまた恐る恐る触り、
そっと蓋を開けた。
(どうか、姉ちゃんの居場所がわかります様に……。
あと、先生……。絶対に俺を助けてくれよ‼)
そしてケレスがそう強く願うと玉手箱の中から白い霧が、ぼわわっと出現し、
あっという間にケレスは白い霧の中へ誘われた。
お~い、ケレス君。無事かえ? 聞こえるかい?
うーん、どうやら聞こえないみたいですな……。困ったねぇ……。
全くどこに行ってしまったのかね? 主人公の癖にさ?
も、もしや、もう戻って来れない処に行っちゃった……のか⁉
そうなったら、その時って事で♪
まあ、ケレス君がどうなったのかがわかる次話のタイトルは、
【ケレス、白い霧に誘われし場所で願いを叶える】だ!
きっと、ケレス君は主人公だから無事に帰って来るよね?




