№ 3 ケレス、夢の舞台に辿り着いて知る
ケレスは、夢だったイザヴェルに到着した。
そこで、行きたかった場所の一つ、アカデミーに行く事となる。
しかし、またそこでもケレスはトラブルに巻き込まれてしまうが、
これからのケレスの運命を変える出会いが訪れる。
ケレスはイザヴェルの駅のホームに降り立った。
やはり、王都イザヴェルは何もかもが凄い。
イザヴェルの人、声、アナウンス等々、その全てが田舎暮らしのケレスには恐怖に感じた。
そして、またジャップに付いて行く事しか出来ないケレスは足がふるえている事に気付いた。
「ちょっと待ってくれ‼」
足のふるえを隠す為、ケレスは止まってジャップに声を掛けると、
「どうした、ケレス? 忘れ物か?」
と、言ったジャップは足を止め、振り返ってくれ、
「そうじゃないんだけど……何か緊張しちゃって……」
と、言ったケレスが苦笑いをすると、
「そっか、すまんな。まあ、そんなに緊張しなくてもいいじゃないか!
これからお前はここで一人で生活するんだろ? すぐに慣れるさ!」
と、言ったジャップは陽気に笑った。
しかし、ジャップのその言葉はケレスの不安をさらに煽っただけだった。
(ここで一人で生活⁉ 無理無理‼)
ケレスの昨日までの自信はなくなってしまった。
しかし、
「大丈夫、ケレス君! 何かあったら私達がいるよ。いつでも頼っていいから!
こんな所で立ち止まらないで、夢を叶えてよ!」
と、温かいラニーニャの目と言葉でケレスはまた歩き出せそうだったが、
「あっ⁉ ケレス君‼ ちょっと待って‼」
と、そのラニーニャがケレスを止め、
「何だよ⁉ 姉ちゃん?」
と、半歩だけ踏み出せたケレスが眉を顰め言うと、
「髪が大変な事になってるよ⁉」 何とかしなきゃ‼
と、おろおろしているラニーニャは教え、
(そう言えば、さっき兄貴が滅茶苦茶にしたんだった……)
と、思い出したケレスはジャップを睨みながら髪を整えた。
髪を整え終わったケレスはまた迷路の様な道を辿り、ホームから改札口までの道をジャップに続き、
人を掻き分けながら進んだ。
そうやってケレスは無事に開札口を抜ける事に成功した。
しかし、開札口を抜けても人が縦横無尽に行き交っており、
そこは店が数えきれない程連なっていて、駅を出るまでは程遠そうだった。
(うえぇ……。まだ、駅を出るまでにどれだけ時間がかかるんだ?)
舌を出したケレスは早く駅の外に出たかったので、ジャップの背だけを見て進み、
やっとの思いで駅の外に出る事が出来た。
そして、
「うーん‼ やっと、ここまで来た‼ やっぱ、王都は凄いな‼」
と、人や車が行き交うビルが多く立ち並ぶ所でケレスが深呼吸し体を伸ばすと、
「さっきまでのお前はどこに行ったんだか……。まあ、元気になって良かったがな!」
と、言ったジャップはケレスの左肩にポンッと右手を置き、
「さて、悪いが、俺はここまでだ。後は頼んだ。姉貴!」
と、言い残し、ケレスの前から去ってしまった。
(ああ……。そうか。兄貴は、王宮に行くんだっけ……)
名残り惜しみながらケレスがジャップを見送っていると、
ジャップの姿は人込みの中に消えてしまった。
そして、これからどうするのか相談しようとケレスがミューを見ると、
ミューは俯いたまま何か深刻な顔をしていた。
「ミュー、大丈夫か⁉ 顔色が悪いぞ? どこかで休むか?」
それに気付いたケレスが心配して言うと、
「大丈夫! それより、どこに行こうか?」
と、言ったミューはクリオネを抱いたまま顔を上げて笑い、
「俺、アカデミーに行きたい!」
と、空元気にも見えたがミューの推しに負けたケレスが一番行きたかった所をリクエストすると、
「そう言うと思った! じゃあ、お姉ちゃん、お願いね!」
と、言ったミューがラニーニャを見て、ラニーニャは頷いたのでこれから行く場所は決まった。
アカデミーは数ある交通手段の中でバスを使って向かう様だった。
まずは数階建てのバスターミナルに入ったが、
ここでもケレスはラニーニャに着いて行くだけで精一杯だった。
そして、アカデミー行きのバスが停留するバス停で待つ事となった。
「姉ちゃんもどうしてスムーズに進めるんだ? まさか、全部ルートが頭に入ってんのか⁉」
その待ち時間でケレスがそう聞くと、
「そんな訳ないよ。行くところを決めてるだけ! ケレス君も全部覚える必要なんてないから。
まずは自分の必要なルートだけを覚えてね」
と、ラニーニャから意外な答えが返ってきて、
「そんなもんでいいのか⁉」
と、ケレスは都会で生活するコツを一つ学んだ気がした。
それからケレス達はバスに乗り、アカデミーまでの一五分間比較的に空いていたバスの席に座った。
そのバスの中で、ケレスはビルや車が写る車窓を眺めながら過ごした。
そして車窓の景色が変わり、都会にしては自然が多くなり制服姿の人が目立つ様になると、
「ケレス君。もうすぐ降りるから、準備してね」
と、ラニーニャに言われ、
(うわっ⁉ もう着くんだ‼)
と、ケレスは心の準備が出来ないままバスは止まってしまい、降りる事となった。
バスを降りるとバス停付近はまるで一つのアート作品の様に色鮮やかに装飾されており、
ニョルズでは絶対にお目見え出来ない造りだった。
そのアート作品の中を歩いて行くと、今度は対照的な歴史を感じさせる古めかしい大きな門が現れ、
制服姿で楽しそうにいる人が多くなった。
「スゲエッ‼ ここがアカデミー‼」
その光景にケレスが目を輝かせると、ラニーニャはその様子を幸せそうに見ていて、
「ねえ、お姉ちゃん。何であの人たちの制服って、ちょっと違うの?」
と、気付いたミューが聞いてきたので、
「本当だ⁉ ネクタイの色や形、それに、ズボンの人もいればスカートの人もいる?」
と、制服姿の人をまじまじと見ながら言ったケレスの声が大きくなると、
「アカデミーでは上はブレザーで共通なんだけど、下はズボンかスカートを択べるの。
そして、ネクタイの色で学科が、形で学年が分かる様になってるんだ」
と、ラニーニャは説明し、
「じゃあ、ケレスがいく学科はどんなやつなの?」
と、ミューが興味津々に聞くと、
「ケレス君はねぇ……。あっ! あの若草色のネクタイを付けた三年生の学生さんのと同じだよ」
と、言ったラニーニャはある学生を見た。
その学生はライトグレーのブレザーに着いている金色の釦をきちんと二つとも掛けていて、
ブレザーの内側からは真っ白のワイシャツがピシッと光って見えた。
そして、その首元には若草色のネクタイが締められ、
そのネクタイには銀色のタイピンが付けられていた。
さらに、下はブレザーと同じ色のズボンスタイルで、茶色のローファーを穿いていた。
「あれか! でも、何で三年生ってわかるんだ?」
今度は、その制服姿の人を見たケレスが興味津々に聞くと、
「さっきも言ったけど、ネクタイの色で学科は異なってね。
ケレス君がいく学科は特殊能力部、時読み科になるから、あの色なんだ。
ちなみに、特殊能力部は紫色から緑色のネクタイを付けるんだよ。
えっと、それでね、アカデミーでは一年生と二年生は釦でとめるタイプのネクタイをして、
二年生はネクタイに白いラインが入るの。
そして三年生以降になると締めるタイプのネクタイに変わって、
タイピンの色で何年生かが分かるんだ」
と、ラニーニャは色々と説明してくれた。
「お姉ちゃんのは何色だったの?」
それから、そう言ったミューが興味津々な目でラニーニャを見ると、
「私のはね……。うーんっと、近くに同じ色のはないな。私は藍色のネクタイだったよ」
と、言ったラニーニャは少し残念そうにした。
そして、
(俺も、あれを着るんだ‼)
と、ケレスには自分がアカデミーの制服を着ている未来が見え、
「絶対、ケレスなら似合う‼」
と、そのケレスの心が見えたミューは嬉しそうにし、ラニーニャも微笑みながら頷くと、
「そ、そっか? 何か照れるな……」
と、言いながらケレスは頭を掻いてしまった。
すると、
「そんな事は、まず受かってから言うんだね」
と、冷たく、馬鹿にする様な声がした。
その声の方をケレス達が見ると、ケレスと同じくらいの身長の色白の青年が立っていた。
その青年は青色のくせっ毛が腰下まで伸び、その髪は光が当たっている所は透き通って見え、
当たっていない所は彼の瞳と、先程の言い方の様な冷たい色をしていた。
そして、彼はアカデミーの制服を着ていて、結ぶタイプのネクタイの色は藍色だった。
さらにタイピンは金色で何かの美しい装飾がされていた。
「あっ⁉ あれって、お姉ちゃんのと同じだ‼」
そして、ミューがその青年のネクタイの色に気付くと、
「僕と同じ? 君が? 君みたいな何も出来そうにない奴なんて、見た事ないけど?」
と、言った青年はラニーニャを横目で見て、ふっと笑ったが、
「お姉ちゃんは治癒術に優れていて、アカデミーにいってたんだから‼
あなたなんかより、ずぅーーっと凄いんだから‼」
と、ミューが透かさず反論すると、
「ミューちゃん⁉ 私は大分前に辞めてるし、彼は院生だよ!
凄く頭が良くて才能がないといけないんだ‼ 私なんかと一緒にしちゃ駄目だよ‼」
と、慌ててラニーニャがミューを宥めたが、
「辞めた⁉ 卒業すら出来なかったんだ。ダサいね」
と、まだ青年はラニーニャを馬鹿にする事をやめなかった。
さらに、
「君さぁ……、友達の前で恥を掻きたくないからって言って、嘘つくなよ。色々と調べても、無駄さ。
正直に除籍になったって認めなよ」
と、青年は続けたので、その行為はケレス達を怒らせた。
「何なんだ‼ お前、姉ちゃんを馬鹿にするな‼」
頭に血が登っているケレスはこの場が騒然とする程、怒鳴り、
「あなた、失礼よ‼ 院生か何だかしらないけど、お姉ちゃんに謝りなさい‼」
と、同じ状態のミューも怒鳴ったが、
「何で謝らないといけないのかい? 僕は思った事を言っただけ。それに図星だろ?」
と、青年は謝るどころか、まだラニーニャを馬鹿にする事をやめなかった。
ケレスは、さらに頭に血が登っていくのがわかった。
自分が侮辱されるよりムカついたが、
「ふふ、んふふふ!」
と、ラニーニャは急に失笑し、
「ね、姉ちゃん⁉ どうしたんだ?」
と、言ったケレスが鳩が豆鉄砲を食った顔になると、
「だって、ケレス君達の気持が嬉しくって。つい……」
と、言ったラニーニャは一粒の涙を拭いながら笑った。
すると、
(姉ちゃん……。何だよそれ……)
と、言ったケレスは何故か怒りが治まって来て、
「もう、お姉ちゃんたら! お姉ちゃんの為に怒ったんだよ?」
と、それはミューも同じで、そう言って笑い出し、ケレスも何だかおかしくなって笑ってしまった。
そして、クリオネも楽しそうに飛び跳ね、
その上にしがみついていた たぬてぃは落ちない様に口を真一文字に結んでいた。
「な、何なんだ⁉ 急に笑い出して?」
そんなケレス達を見た青年が困惑すると、
「こら‼ そこのあなた達‼ 何してんの‼」
と、今度は若い女の注意する声がして、
「サキ‼」
と、言って、その声の主にラニーニャは笑い掛けた。
サキと呼ばれた女は歳は二十代半ば、身長はラニーニャより少し低め、
薄桃色の髪は耳下までのショートヘアー、ベージュ色の肌に、
膝上十センチメートルのスカートは軍服の上着と同じ深みのある赤色だった。
そして、膝までの黒色のブーツがバッチリ決まっていて、
黒淵眼鏡から凛々しい緑色の瞳がケレス達を睨んでいた。
さらに軍服の左上腕部には如何にも豪華な金色のふさふさした腕章を付け、
その腕章には、宝珠の国の守り神である番犬のシルエットが黒色で刺繍されていた。
ケレスはその腕章を何処かで見た事がある気がし、思い出そうとしていると、
「ここで喧嘩はやめなさい‼ さもないと、アカデミーに報告します‼」
と、怒鳴ったサキは青年の方だけを睨みつけ、
「ど、どうして僕だけなんですか? あの人達だって……」
と、言った青年は先程迄の余裕をなくして困惑したが、
「彼女は私の大親友です。その彼女が何かしましたか?」
と、言ったサキは青年をもう一度一睨みし、青年の言い分に聞く耳を持たなかった。
「そんなの、ありなんですか?」
そんなサキの睨みに青年は逃げる様にこの場を去って行った。
そして、サキは睨む相手をラニーニャに変え、
「こおら‼ ラニーニャ‼ 私がいなかったら、どうするつもりだったの⁉
あなたはすぅーーぐに変な輩に関わるんだから‼ 気を付けなさいってあれ程、言ってんのに‼
ねえ~え、たぬてぃ?」
と、いきなり怒鳴った後、満面の笑みで たぬてぃを抱き寄せ、
「サキ、ありがとう!」
と、無表情の たぬてぃを抱きしめるサキにラニーニャが微笑むと、サキは満足そうな顔をした。
(何だ? この人は。姉ちゃんの知り合いか⁉)
サキを見たケレスが唖然となると、
「あっ! あなたが、ケレス君で、あなたが、ミューちゃんね!」
と、会った事もないし名のってもないのにサキは、ケレス達の名前を言い当てたので、
「何で俺達の名前を知ってるんですか?」
と、驚いたケレスが聞くと、
「だって、ねえ?」
と、言いながらサキはにっこりと笑ってラニーニャに目を移し、
「ほら! 私を紹介しなって!」
と、言って、ラニーニャに軽く肘打ちをすると、
「えっと、ケレス君。ミューちゃん。紹介するね。友達の……」
と、ラニーニャは言いかけたが、サキから、んっんと咳ばらいをされ、
「あっ! ごめん。大親友のサキです」
と、言い直したラニーニャは頬を赤くした。
すると、
「御紹介にありました、ラニーニャの大親友の、サキ・トログスミールです。
ラニーニャとはアカデミーで同じ学科で勉学を共にしてきましたが、
今は軍の治癒部隊に所属しております!」
と、サキは満足した顔で敬礼しながら自己紹介をした。
(そうか! あれは軍の腕章⁉)
サキの自己紹介でケレスは思い出したが、ケレスが知っている腕章とどこか違うので、
「あの、トログスミールさん。その腕章って軍のですか?」
と、聞くと、
「サキでいいよ。弟君。あなた軍に興味あるの? やっぱりお兄さんみたいに軍人になるのかな?」
と、口を窄めたサキは答え、
「お、弟君ですか?」
と、呼ばれなれない名前で呼ばれたケレスが動揺していると、
「ケレス君。サキはね、一度決めた事は曲げないから。そう呼ばせてあげてね」
と、ラニーニャの右肩を顎枕にしている たぬてぃをのせたラニーニャが忠告してきた。
(大分変わった人だ……)
ケレスは少しサキに呆れたが、
「あの、サキさん。俺は軍に興味はないんですけど、その腕章って、普通のと違いますよね?」
と、気を取り直して聞くと、
「よくぞ聞いてくれました‼ これは特権階級の証なのだよ‼」
と、サキは鼻高々に自慢したが、
「特権階級の証?」
と、ケレスが首を傾げたので、
「つまり、サキはエリートなんだ。アカデミーでも学科、実技ともに一番で、
それを評価され軍に入隊してさらに、そこでも評価された証があの腕章なんだ!」
という説明をしてくれたラニーニャをサキは満足そうに見つめていた。
「へぇ、変な人だけど、凄い人なんだ!」
そのサキにケレスが感心していると、コツンッとサキの拳がケレスの頭に当たり、
「こらっ! 弟君? 一言、多いぞ!」
と、言ったサキがケレスの頭を小突いた後、目じりを上げたので、ケレスが謝ると、
「さてさて。私はそろそろ行くね。でも、龍宮のお坊ちゃんにも困ったもんだわ。
噂通り性格悪すぎ‼ 絶対に友達、〇だな‼」
と、サキは溜息混じりに話した。
「龍宮のお坊ちゃん?」
頭を押さえながらそう言ったケレスがサキを見ると、
「あの青色の長い髪の男の事よ。水鏡の国の名家、龍宮家の長男。名前は、龍宮 アルト。
今はアカデミーの治癒科の院生で、成績は誰も付いていけない程良いんだけど……。
性格に難ありって言われててね。治癒術だって、人にはしないし……。
本当、関わらない方が身の為よ‼」
と、サキは忠告し、
「あっ⁉ こんな時間‼ じゃあ、たぬてぃ、ラニーニャ、またね!」
と、言い残し、タタッと足早に去って行った。
そのサキをラニーニャは笑顔で見送っていて、
(変な人だったけど、とても好い人だ! 俺にもああいう親友が出来るといいな!)
と、ケレスは親友二人を温かい気持ちで見守っていた。
そして、アカデミー見学を一通り終え、
「ねえ、次は何処に行く?」
と、ミューに聞かれ、
「俺、姉ちゃんの職場を見たい!」
と、ケレスはリクエストしたが、
「えっ? 私の職場⁉ そんな所見ても、おもしろくないと思うけど?」
と、ラニーニャから断られ、その後も中々良い返事はもらえなかった。
「お姉ちゃん。お願い。ケレスの言う通りにして!」
だが、そう言ったミューがラニーニャを見つめると、ミューにかなり甘いラニーニャは即了承した。
こうやって次に行く場所は決まったのだった。
ラニーニャの案内でバスに乗った後、地下列車に乗る事になり、
またケレスがラニーニャに連れられ初めて乗る地下列車はその名の通り、地下にあった。
地下に敷き詰められた線路はイザヴェル中に拡がっていて、それを利用する人は勿論多く、
その人達を掻き分けながらケレスは改札口を抜け、地上よりかは楽に乗り場まで来る事が出来た。
そして、ある地下列車に乗り、三十分程で目的の駅に着く様だった。
その地下列車の中でケレスは地下列車の、当たり前だが何もない車窓の景色を見ていると、
退屈になった。
そんなケレスは、ふと地下列車内に貼られている路面図に目がいってしまった。
(あの路面図って……)
ケレスは、その路面図のある事が気になり、
「姉ちゃん。地下列車って、秘密基地みたいだな」
と、ふざけて言ってみたが、
「そうだよ。景観の為もあるけど、有事の時はそう言う事に使われるんだって」
と、普通の顔をしたラニーニャから少し怖い言葉が返ってきて、
(えっ⁉ 有事って何だ? てか、姉ちゃん、よく平気で言うな‼)
と、ケレスが引いていると、
「ケレス君。次の駅で降りるよ」
と、ラニーニャに言われ、ケレスは次の駅で降りた。
そして、地下から地上に上がると、そこはケレスが想像していたのとは違い、
何と言うか、人も建物も少ない静かな所だった。
「イザヴェルにもこんな静かな所があるんだ!」
と、言って、ケレスがラニーニャを見ると、
「ここはイザヴェルでも端の方だからね。先生がこういう静かな所が好きなんだって」
と、ラニーニャから教えられた。
先生とは、ラニーニャの職場のボスで、ラニーニャはそこで先生とやらと二人で仕事をしている。
「そう言えば姉ちゃんの先生って、どんな人?」
そして、ふと気になった事をケレスが聞くと、
「そうだなぁ……。一言で言えば、寡黙な人かな?」
と、口に右手の人差し指を当てたラニーニャは少し上を向いて答え、
(ええっ⁉ 寡黙だって? どんな人だ? 暗いのか? それとも……。
何にせよ、よく姉ちゃんはそんな人と一緒に仕事が出来るな‼)
と、ケレスは少し後悔しながら、一〇分程歩いた。
すると、二階建ての一軒家が見え、その他に建物が見当たらなかったので、
そこが目的地であるとケレスは悟った。
ケレス君、夢だった場所は、どうかな?
はっ⁉
ジャップが、一緒じゃないから、つまらないとな⁉
何と、子供っぽい事を言うんだい?
でも、そんなに焦らなくとも、ジャップとは、すぐに再会出来るよん!
この世界の秘密の一つと、引き換えにだけどね……。
さて、そんな世界の次の話のタイトルは、【ケレス、妹の秘密を知る】だ。
ケレス君ったら⁉
そんな生活になっちゃうのね……。