№ 004 ケレス、妹の秘密を知る
ケレスは、姉の職場を見ている間に、ある人物と出会う。
その人物から告げられた妹の秘密とは……。
ケレスは二階建ての家の前に到着したが看板等はなく、見た目も普通の家だった。
その家からはラニーニャが何の仕事をしているのか全く見当がつかなかった。
「先生。ラニーニャです」
ケレスがその二階建ての家を見ているとラニーニャがドアベルを鳴らし声を掛けたが
何も応答はなかった。
「おかしいな。今日はいるはずなんだけど……」
ラニーニャが首を傾げながらもドアを開けると施錠されてなかった。
「先生? ラニーニャです。入りますよ……!?」
ラニーニャは中に入ったが言葉を失った。
そう、家に入ると中は大変な事になっていた。
資料らしき紙は床に滅茶苦茶に散乱し、引き出しは開いたままで服までもが散乱していたのだ。
「ね、姉ちゃん!? これって、泥棒に入られたんじゃ……」
ケレスは恐る恐るその言葉を発する。
「大変!! お姉ちゃん、警察に言わなきゃ!!」
ミューは慌て出した。
「た、大変だ……」
ラニーニャは頭を抱えて座り込んでしまった。
「姉ちゃん!! 早く警察に連絡しよう!!」
「違うの……。これは先生の仕業なんだ……」
意外過ぎるラニーニャの返答。
とても悲し気な声だった。
「えっ!? どういう事?」
目を丸くしたケレスとミューの口からは同じ言葉が出た。
「先生ね、何か重大な仕事が入るとこんな感じに部屋を散らす事が多々あってね……」
ラニーニャはまだ立ち上がれなかったが散らばった紙を数枚集め出した。
「何だよそれ!?」
「昨日まで綺麗だったのに……」
目を丸くしたケレスを見る事なく呟いたラニーニャはある程度紙を集め終わる。
「もう、そんな事を言ってる場合じゃぁない!! このまま片付けなきゃゴミ屋敷になっちゃう!!
ケレス君、ミューちゃん、悪いけど、片付け終わるまで私の部屋にいて!!」
と、顔を上げて、すくっと立ち上がった。
そしてある部屋へ案内を始めた。
それから足の踏み場がない程散らかった部屋を何とか歩いてある部屋に入った。
その部屋は先程歩いてきた部屋とは違って机、本棚、椅子といった平凡な物が小じんまりとあった。
ここが姉ちゃんの仕事部屋……やっぱり、何の仕事をしているか、わかんないや!
部屋を見渡したがケレスにはラニーニャの仕事は想像出来なかった。
ちなみにソファーに座ったミューはクリオネをあやし始めた。
するとケレスは、ふと本棚に並んだ本のある部分に目がいき、思わず本を取ってしまった。
そして、
「こ、これって!?」
と、本を開きながら叫び、本を持ったままラニーニャの所へ走った。
本はどれでも良かった。
重要だったのは本棚に並んだ全ての本に書かれていた作者名だったのだ。
そんなケレスの心中を知らないラニーニャはまだ片付けの最中だった。
そこでは たぬてぃは飽きてしまった様で散らばっている紙の上にダイブし、滑って遊んでいた。
「たぬてぃ。あんまり悪戯しちゃ駄目でしょ?」
なので邪魔する たぬてぃにラニーニャは注意しながら片付けをしていた。
「姉ちゃん、姉ちゃん!!」
そんなラニーニャにケレスは駆け寄る。
「ケレス君、どうしたの? 何かあった?」
手を休めたラニーニャは何度か瞬きした。
「この本の作者って、知ってる?」
興奮したケレスは持って来た本を見せた。
「知ってるも何も、私の先生だよ?」
「じゃ、じゃあ、姉ちゃんの勤め先の先生が、 高杉 って、言うんだ!!」
「そうだけど?」
鼻息荒いケレスとは対照的に落ち着いていたラニーニャはパチクリと瞬きした。
「そ、そうなんだ! この『高杉』って言うのが姉ちゃんの先生?
何で早く教えてくれなかったんだよ!!」
嬉しさのあまりさらに声が大きくなるケレス。
何故なら高杉という名前はケレスの父の日記帳で見た名前だったのだ。
日記帳にはある日の出来事としてケレスの父が一七歳の時、
職業体験の一環として国家特殊科捜研に行った時の事が克明に書かれていた。
職業体験中に何人もいる特殊科捜研の職員の中、異質の才能を見せたのが高杉だったらしい。
ケレスの父は、アカデミーを卒業していない高杉を見縊っていたが
その才能を目の前で見せつけられこの男には勝てないと思った。
だが、いつかこの男と肩を並べ働こうと思い、アカデミーを受けて無事に卒業したのだった。
「姉ちゃん、俺、姉ちゃんの先生に会いたい! 俺の父さんの憧れなんだ!」
「そうなんだ……会わせてあげたいんだけど、先生への連絡手段がないんだ。
今回、どこに行って、いつ帰ってくるのかさえわかんないの」
「いつでもいいんだ! 出来たら早い方がいいけど!」
「うん、会わせるって、約束するね」
先程迄あった高杉への考えが消え去ったケレスの目は輝いていた。
するとラニーニャは苦笑したがそれでも興奮冷めやまぬケレスに約束してくれた。
そして頷いたラニーニャは休めていた手を動かし始めた。
「姉ちゃん! 俺にも手伝わせてくれ!」
「わかった。じゃあ、これをあの引き出しにいれてくれる?」
高杉に少しでも近づきたいケレスの心をわかっているラニーニャは手伝いをさせてくれた。
そうやって暫く二人で片付けをしていくと少しずつだが足の踏み場が出来てきた。
しかし、高杉先生ってどんな人だ? 一日でここまで家を散らかせるなんて……。
それに、寡黙って事は性格はやっぱり暗いのか?
仕事は出来ても、こんなんじゃ子供っぽいのは確実だ!)
ケレスは高杉の人物像を勝手に膨らませていく。
しかも悪い方へ。
「姉ちゃん。高杉先生って、いつもこうなのか?」
が、一応聞いてみた。
「うーんと、そうだね。
先生は散らかるのはエントロピーが増大する自然現象とか、
散らかすと散らかってるのは違うとかばかり言って、片付けはしないよ。
苦手なだけなんだけどねぇ……」
「そ、そうなんだ……」
高杉について平然と話すラニーニャに呆れたケレスは一言しか出なかった。
そうこうしている内に足の踏み場が出来て片付けも終わった。
「ケレス君、ありがとう。凄く助かったよ。
今からコーヒーを入れるから私の部屋で待ってて」
ラニーニャは たぬてぃと別の部屋に行ってしまい、ケレスはラニーニャの部屋に戻った。
すると、クリオネとミューが一緒にソファーで眠っていた。
ミューの奴、幸せそうに寝てんな。まあ、昨日から色々とあったから、仕方がないけど……。
ケレスがそんなミュー達を見ていると背後から誰かが近づいて来る気配がした。
「だ、誰だ!? もしかして、あなたが高杉先生ですか?」
振り返ったケレスはそれは違うとすぐにわかった。
何故なら高杉にしては若すぎたからである。
近づいて来た男の年齢は二〇代半ば、髪の色は赤みがかった茶色で耳にかかるぐらいまでの短髪。
そして黒い瞳に引き締まった体付きをしており、
身長はケレスより二〇センチメートルは高かった。
「あ、あの……誰?」
その男の鋭い眼光にケレスは今度こそ泥棒ではないかと不安になる。
「ケレス君、お待たせ。ホットコーヒーとお菓子を持ってきたよ」
すると、ホットコーヒーの香りを漂わせながら右肩に たぬてぃをのせたラニーニャが入って来た。
「俺のも、もらえるか?」
「ヒ、ヒロ殿下!? 何故、ここに?」
そして、その男に渋い声で言われるとラニーニャは驚きを隠せず、たぬてぃの尻尾は膨れていた。
「そんなに驚くなよ。知らない間柄でもあるまいし?」
そんなラニーニャ達にヒロは穏やかな眼差しで笑い掛けたが、
ケレスはラニーニャが言った言葉が一瞬何の事だかわからなくなり、頭を整理する事にした。
ヒロ? 殿下? 殿下って事は……えっ!?
ケレスは気付いた。
そう、テレビ、本等で見た事のある顔だ。
「ええーっ!! ほ、本物の、ヒロ殿下様!? 何で、こんな所にいらっしゃってるんだ!!」
いるはずのない人物を見たケレスが驚きのあまり大声を出すとミューが目を覚ました。
「凄い声だな」
ははっと笑うヒロ。
「ミュー。迎えにきた」
「お兄様? どうしてここに?」
ヒロはミューを見つめ、ミューは、ヒロを見た。
ミュー? お兄様? どうゆう事だ?
また二人の会話がわからず、ケレスの頭の中が真っ白になってしまい、思考回路が停止した。
「ミュー。寝惚けてないで、しっかりしろ」
そんなケレスは放置されヒロはミューを睨んだ後、
「それと、ラニーニャ! 早く俺の分のコーヒーを淹れろ!!」
と、ラニーニャに視線を移して注文した。
「は、はい! こ、こ、これを先に……」
硬い表情のラニーニャは持っていたコーヒーセットを机に置く。
その手はカタカタとふるえていた。
「おいおい……そんなに畏まるなよ。
俺が悪いみたいじゃないか。なあ、たぬてぃ?」
自身の前に置かれたコーヒーセットで穏やかな表情になったヒロは、たぬてぃを見つめた。
だが、たぬてぃは尻尾が膨らんだまま固まっていた。
そんなやり取りがあってもまだケレスの思考回路は動かなかった。
「ケレス?」
と、ミューに呼ばれる。
「ああ、ミュー」
止まっていたケレスの思考回路は動き出した。
「ごめん。ずっと言えなかった……」
「どういう事だ?」
申し訳なさ気にしているミューにケレスは自身を落ち着かせる様に聞いた。
すると、
「私、この国の皇女なの」
と、ミューは意を決して話してきたが、ケレスの思考回路はまた止まりかけた。
それでもミューは話を続ける。
「一六年前の大恐慌が起こった年に、私は生まれた。
あの時は、色々な災害や病気、争いが起こって、多くの人が犠牲になったんだ。
特に滅びの呪いと言われた奇病は生きとし生けるもののマナがどんどんなくなっていって、
何の対処も出来ないまま、死を迎えてた。
当時、それは人から人へと感染すると思われてて、呪いを享けた者は隔離されたの。
子供は蕾とやどり木の家に、大人は別の施設にね。そして、私もその内の一人だった」
ミューはそこまで話すと、口を噤んでしまった。
ミューのその話でケレスはミューが王族だった事よりも
蕾とやどり木の家がその為の物だった事がショックだった。
そう、自身がそうだったのかと考えると言葉が出なくなったのだ。
「まあ、過ぎた事を言っても仕方あるまい? 今は、これからの事を考えるんだな」
ケレスが呆然としていてもヒロは優雅にコーヒーを楽しんでいた。
「はは……そ、そうですね。で、これからと言うのは?」
何とか言葉を発したが喋り方が変になったケレス。
「ミュー。約束より早いが、王家に戻れ」
ヒロはコーヒーカップを机に置き、ミューを鋭い眼光で睨んだ。
「えっ!? どうして? 私まだ……」
「理由はわかっているだろう?」
ミューは閉ざしていた口を開いたがヒロの語気が強まると
ミューの顔はケレスが一度も見た事のない悲しいものへと変わった。
「ミューちゃん……」
そんなミューをまつ毛に涙が付き始めたラニーニャが優しく抱きしめる。
「もう、決めていた事だよね? ちゃんと、言えるね?」
「うん。お姉ちゃん……ちゃんと言うよ。だから、約束守ってね」
ふるえた声のラニーニャの腕の中でミューは何度も頷いた。
「わかってる。約束、守るから……」
ラニーニャの頬を涙が伝わった。
「お兄様。私、王家に戻ります」
そして、ヒロを真直ぐ見つめたミューにヒロは頷いた。
「ま、待ってくれ!? どういう事だよ!!」
何が何だかわからない!
だが、ケレスは叫んだ。
「お前には関係のない事だ」
ヒロはその言葉だけで解決させようとした。
「お兄様!! ちゃんとケレスと話をさせて!!」
が、ミューがそうはさせなかった。
すると、ヒロは大きな溜息をつき、
「仕方がない……聞きたい事もあるしな。お前も一緒に王宮に来い」
と、ケレスの意見を聞かずに決めた。
「はっ!? 俺が王宮に行く? 何で?」
状況を飲み込めないケレスがあたふたしていると、
「ついでに、お前も来るんだ。ラニーニャ」
と、ヒロはまた勝手に決め、ラニーニャは頷いた。
おいおい! どうなってんだ!?
いきなり王宮に来いだなんて……殿下は人の話を聞いてくれそうにないし……。
結局心の整理が出来ないままケレスは王宮に向かう事となってしまった。
ー●
王宮に行くって言っても、どうやって行くんだ?
ケレスの頭の中はまだ、もやもやしていた。
そんなケレスは外にいる。
外はまだ快晴で、太陽は夕方に向け傾きかけていた。
「さて、フィード」
そこでヒロは空に向かい呼び掛けた。
何してんだ? この人……。
不審者を見る目でヒロを見ていたケレスが瞬きした瞬間、
まだ夕方でもないのに上空が急に茜色に染まった。
「な、何だ!? 天変地異か?」
「そんな訳あるか! お前、面白いな。
これは俺の精霊、フィード。正確に言えばこの国の守り神だがな。
今からこいつに乗って王宮に向かうんだ」
茜色の空を見てケレスが腰を抜かすとヒロからせせら笑われた。
面白いだと? 俺じゃなくてもこうなるだろ!
それに、今から守り神に乗るだって? 訳がわからん!!
ケレスが色々な目でヒロを見ていると茜色の空が落ち、足元を茜色に染めた。
「えっ!? も、燃えてる!! ん? 熱くない!?」
混乱しているケレスが炎の様な絨毯を触ったがそれは全く熱くなかった。
「どうなってんだ??」
頭の中が?だらけになるケレス。
「さて、行け」
と、ケレスは放置され、ヒロの命令でケレス達は空へ向かい浮かんでいった。
「ひええぇっ!? ど、どうなってんだぁーー?!」
ケレスの大絶叫が茜色の大空に響き渡る。
そう、ケレス達は炎の様な絨毯事空高く舞い上がっていたのだ。
しかもその空は何処までも広がる茜色の空だったのである。
そこでは不思議と風等の抵抗は感じなかった。
「またお前は面白いな。今、俺達はフィードの背に乗ってるんだ。
このまま王宮に向かうぞ」
どんどん茜色の空を進む中、ヒロは説明した。
空を飛んでいる説明になってない!!と、心の中でケレスはつっこんだ。
そう、それはケレスが納得する答えではなかった。
目の前で起きる現実をただ受け入れる事でしか自分を落ち着かせる方法はなかったのだ。
考えても仕方がないか……でも、よく考えたら守り神が自分のなんて殿下って凄い人だ!
空の散歩中、座っているケレスはヒロを見直していた。
「ケレス。今まで言えなくてごめん」
そこに同じく座っているミューから声を掛けられた。
「私、一六歳になったら、王家に戻る事になってたの。
そ、その、私はこの国で王位継承権一位だから……」
ケレスが見つめる中、ミューは時折言葉をつまらせたが話した。
宝珠の国では代々、女王が国を治めてきたが、
今は女王代理として夫であるホドが国を治めている。
確か、女王って……
ケレスは、ある事を思い出した。
宝珠の国の元女王、マーサは四年前大勢の国民の前で銃殺された。
ケレスはミューを支える事で精一杯だったので、女王の事を考えている余裕はなかった。
例え、女王が誰であったとしても……。
「ミュー……どうして、言ってくれなかったんだ?」
眉を顰めたケレスにミューは口を噤んでしまった。
「ケレス君。ミューちゃんは、私達との生活を壊したくなかったの」
そこにラニーニャが入ってきた。
勿論、膝を斜めに揃えてだが座っている。
そしてラニーニャに視線を移したケレスは深呼吸した。
「……姉ちゃんは知ってたのか?」
ケレスの問いにラニーニャは一瞬答えに困ったが頷いた。
「じゃあ、兄貴も知ってたんだ」
ケレスが見つめる中、ラニーニャはまた頷いた。
その答えを知ったケレスの腹の中から言葉では言い表わせない感情が湧き上がって来る。
「そっか……。知らないのは俺だけか……。
きっと、ニョルズの人も、みんな知ってて、知らないのは俺だけなんだな!!」
その感情を抑えきれなくなったケレスは怒鳴った。
「ケレス君、言えなかったのは悪いと思ってる。でも、信じて!
ニョルズで知っているのはショルズさんだけなの」
ラニーニャは膝に載せた たぬてぃに手をかざしながらケレスを切ない目で見つめてきた。
だが、ケレスはそんなラニーニャを信じられなかった。
顔がどんどん引きつっていく。
「蕾とやどり木の家は、行き場のない子供達の為に造ったの。
お母様は呪いは感染しないと思ってた。
けど、国民はそうは思わなかった。だから、お母様は、その事実を自ら示そうとしたの」
そのケレスの前でミューが再び話し始めたが、
「そんな事は、どうでもいい!! 何で俺だけ何も知らないんだよ!!
教えてくれなかったんだ!!」
と、ケレスは苛立ちを抑えきれず怒鳴ってしまった。
「ケレス……。あ、あの……」
ケレスの怒りの眼差しにミューは俯く。
何だよ、それ……言えないのか?
そんなミューの態度にケレスの怒りは増していった。
自身だけ知らないという事に行き場のない怒りを抑えられなくなった。
すると、
「ケレス君」
と、ラニーニャの声と共に、リーン……と、あの鈴の音が聞えた。
「そんな怖い顔しちゃ駄目だよ。君の気持は、わかる。
でも、ミューちゃんは言わなかったんじゃなくて、言えなかったの。
ミューちゃん、ずっと悩んでたんだよ。ケレス君との時間が大事だったから」
悲しそうにラニーニャが訴えるとケレスの怒りは少しだが静まった。
だが、ラニーニャの最もらしい言葉でケレスに別の怒りが込み上げて来る。
その感情がケレスの顔に出た。
「そうなるから言わなかったんだろ? それにお前が知ってたからと言って何が出来た?」
が、ヒロに冷たく呆れた様に言われ、ぐうの音も出なかった。
正に、ヒロの言う通りだ。
、自分の力不足差を痛感し、恥ずかしくなってしまった。
そして、ケレスは空しさをも感じ、他の者の顔を見れずにいた。
すると、
「ケレス君、顔を上げて! ちゃんとミューちゃんと話をしなきゃ!
もうあまり話せる時間はないんだよ?」
と、優しいラニーニャの厳しい言葉にケレスは、はっとした。
そうだ! ミューは王家に戻ってしまうんだ! そして、いずれは女王になる。
もう、今まで通りとはいかないんだ……。
その事に気付くと今までの事はどうでもよくなり、ケレスの顔は穏やかになった。
ケレスは一度、顔を強く横に振る。
「ミュー。悪かった。また俺は自分の事ばっかり考えてた……」
「ううん。私の方こそ、言えなくてごめんね」
ミューの瞳が潤んできた。
そして、少し穏やかな顔になった二人は話し始めた。
その話の内容は先程聞いた話以外に蕾とやどり木の家についての新たな情報があった。
蕾とやどり木の家では、呪いを享けた子供以外の孤児も受け入れ、名字は名乗らせなかった。
そうやってマーサは誰が呪いを享けたのかわからなくしたのだ。
そして世界に光が戻った時、蕾とやどり木の家の秘密は口外しない様にさせた。
ケレスはミューと話していてマーサの孤児への優しさを感じた。
一番感じれたのは、蕾とやどり木の家の名前の由来だった。
蕾とは、孤児を差し、この家が蕾が膨らみ、花となるまでの家になってほしいと。
そして、やどり木とは、いつでも帰ってこれる様にと願って付けられた。
「なあ、ミュー。お前のお母さんは、本当に凄い人だったんだな」
「うん。私、お母様の子供で良かった! 絶対にお母様みたいな人になるわ!」
思い出に浸る様に言ったケレスにミューは力強く頷いた。
お前も凄い奴だよ。だけど、ミューが女王になったら気軽にミューなんて呼べないな……。
ミューとの関係が変わっていく事を感じ始めたケレスの前に
丘の上に聳え立つ美しい王宮が見え出した。
その王宮の名は、ヴィーンゴールヴ城。
王宮 ヴィーンゴールヴ城は遠くからでも目立つ美しさでその城の城壁をそのまま超え、
宝珠の守り神の背に乗ったままのケレス達は王宮内に入って行った。
このまま行くのか!? さすが、殿下!
そんな事をケレスが考えている事はお構いなしに炎の絨毯は王宮内のバルコニーにふわっと下りた。
そして、ケレス達を下ろして霧の様になって消えてしまった。
炎の守り神は何処に行ったんだ?
相変わらず不思議な事ばかりだった。
「ケレス。行こう!」
戸惑っていたケレスだったがミューから誘われ王宮内に入った。
そして、王宮内の豪華な廊下を進むと謁見の間があり、そこにホド王とジャップがいた。
「おーい、ケレス!」
ケレスに気付いたジャップが小走りで近づいて来る。
「兄貴……」
「全部、知ったんだな」
少し低い声のジャップは真直ぐケレスを見つめた。
さすが兄貴! 何も言わなくてもわかってくれる!
そう強く思ったケレスは大きく頷いた。
「悪かった。何も教えなくて」
「もう、いいんだ! ミューに全部聞けたし。
それに少しだけど真実を受け入れられたんだ!」
低い声のままのジャップにケレスは素直になれた。
「そうか……」
そして、ジャップのその一言は、大人になったなっと、ケレスには聞こえた。
「お兄ちゃん。ありがとう」
「気にするな。俺達の仲じゃないか!」
それから申し訳なさ気で笑っているミューが傍に来ると、ジャップはいつもの陽気な声になった。
「そろそろ始めてもいいか?」
が、不機嫌なヒロがその二人の話しを遮った。
ちなみにケレス達がいる謁見の間は、ケレス達四人と、ホド王、ヒロ、それに二体だけで、
この人数では広すぎて寂しかった。
「お前達、いつもミューを見守っていた事にまずは感謝の意を伝える」
そして、このホドの言葉から話は始まった。
えっ!? 国王陛下に感謝されるなんて!
ケレスは汗が出る程緊張してきた。
それは他の二人も同様だった。
「国王陛下、俺、い、いや我々は、いつもミューを家族の一員として見守ってきただけの事です」
が、ジャップは緊張しながらも言葉を返す。
表情は硬く、少しだけ声がふるえていた。
「ほほっ。やはり、お前達はミューの良き家族じゃ。
ミューよ、この家族に感謝を忘れるでないぞ?」
「はい。お父様」
ジャップを見ていたホドはミューに目を転がし、ミューは少し上品に答えた。
こうやって見ると、ミューは何か品があるな……。
ケレスはまたミューと距離を感じた。
その時だった。
「おい、ヒロ、どうしたんだ? 緊急要件だなんて」
クールな顔をした男が謁見の間に入って来たのである。
誰だ? 殿下を呼び捨てにするなんて!?
ケレスを驚かせた男は年齢はヒロと同じくらい、身長はケレスより少し高め、
痩せ型で色白の肌、髪は明るめの茶色、ジャップよりは長いが短毛だった。
そして、瞳は髪と同じ色で、眼鏡を掛けたその顔はいかにも知性がある顔立ちだった。
さらに白い軍服の左腕にはあの金の腕章が付いていた。
「ああ、お前にとっての緊急要件だ。ニック?」
ニックと呼んだ男を見たヒロは含み笑いをする。
「どういう事だい?」
そして、ニックと呼ばれた男はヒロが指差す方を見た。
「な、な、何で!? ど、どうして?」
すると、ニックはクールな顔が一気に真っ赤になり、眼鏡が落ちる程尻もちをついた。
何だ? この人、どうしたんだ?
呆気に取られるケレス。
「大丈夫ですか、ニックさん?」
ラニーニャはニックに駆け寄った。
「お久ぶりです……はい、眼鏡」
少し頬を赤くしたラニーニャが眼鏡を渡すとニックは暫くの間呆然としていた。
そして見つめ合う二人。
何か不思議な関係がありそう!
ある考えが浮かんだケレスがその二人を見ているとヒロだけは笑いを堪えきれず
口を押えながら吹き出して笑っていた。
「おい、ヒロ! いい加減にしろよ。おふざけが過ぎるぞ!!」
眼鏡を掛けて冷静さが戻ったニックはヒロに視線を向ける。
「なっ? お前にとっての緊急要件だったろ?」
まだ笑いが止まらないヒロ。
笑い過ぎて涙迄流していた。
「さて、冗談はここまでだ……」
が、瞬時に真顔になる。
「お前達、要件は勿論、根の一族についてだ。 知っている事を話せ!! ニョルズでの事もだ!」
そしてヒロから命じられたケレス達はニョルズからあった全ての事を話す事となった。
「……わかった。お前達は、これ以上関わるな。そして、この事は他言無用だ!」
それぞれが話し終えるとヒロから念を押される。
関わりたくない!! しかも殿下、メッチャ怖い!!
ケレスがそう思っていると根の一族についての話し合いは終わり、
これから金も住む所も無くなったケレスがどうするのかが話し合われる事になった。
その会議の中で、
「俺の知り合いにでも頼むか? と、言っても、大抵が軍の奴だしな……」
と、ジャップが意見を出し、
「蕾とやどり木の家を出た人に頼むとか?」
と、ラニーニャも意見を出して、
「僕が何処か住み込みで働ける所を探してみようか?」
と、ニックまで加わったが一人、野宿とか?といった意見は当然、却下された。
うーむ……俺、家なき子状態だ!
頭を悩ますケレス。
瞳を閉じて眉間にはしわが出来ていた。
「あ、あの! 落ち着くまで王宮に住んだら?」
と、そこにミューが提案してきた。
「気持ちは嬉しいけど、それは無理だろ」
「無理じゃないよ!! 部屋なら、いっぱいあるし。ねえ、お父様? いいでしょ?」
ミューの申し入れを断ったケレスを見ていたミューが、ホドを見ると、
「まあ、それもよかろう。何と言っても、ミューの家族が困っておるからの」
と、ホドは快く許可したのだ。
「やったぁ! お父様、ありがとう!」
「これこれやめなさい。人前じゃぞ?」
それから笑顔が弾けたミューから抱き着かれたホドは何だかんだ嬉しそうにしていた。
「ケレス、良かったね!」
すると、ミューの笑顔はさらに弾ける。
えっ!? そんな事あり?
とは言え、断りにくいし……住む所も、金もないし……
そして、結局ケレスが出した答えは、
「ミュー。何か悪いな。暫く世話になるよ」
となり、ケレスのイザヴェルでの生活がここから始まった。
ケレス君……。
びっくりした?
まさか、ミューちゃんが、そうだったとは!
でも、こんな事ぐらいで、驚いていては、いけないよ?
まだまだ、この世界は、嘘と、秘密に塗れているのだから……。
そんな世界の次の話のタイトルは、【ケレス、家族旅行に行く】だ。
な、何と、あの人と、再開しちゃうんだね!
ケレス君、大丈夫かなぁ……。
とっても、心配だよ。
※この作品は無断転載禁止でございます♪




