№ 90 ケレス、隠されていた美しき城で再会と逃亡を繰り広げる
ラニーニャが連れ去られ目の前には重症のアルデバラン。
ケレスに為す術は全くなかった。
すると、そんなケレスの前に救世主が現れる。
だが、またもやサダクビア城を脅かす訪問者が現れ……。
「うえっ⁉ たぬてぃ? それに、ぴゅーけん⁉ てか、たぬてぃ、何て格好をしてんだ⁉」
コルネフォロスと共に近づいて来た二体を見てケレスは思わずそう叫んだ。
そう、その二体は、たぬてぃと ぴゅーけんだったのだ。
だが、たぬてぃはとんがり帽子までかぶった魔女っ子の様な服を着ており、
悲しそうな顔でコルネフォロスの頭にのっていた。
そして、その横にいる ぴゅーけんは真っ白い割烹着を着て無表情でケレスを見つめていた。
「たぬてぃ、ぴゅーけん、無事だったんだ!」
そんな二体との再会にケレスは喜んだがその二体はそれを無視する。
そして、ぴゅーけんが指差した所を たぬてぃが左前足を使って、ザッザッと掘り始めた。
それから たぬてぃが掘った雪の中から ぴゅーけんが白銀に光る小さな棉の様な花を採取し、
アルデバランの上にそっと置いた。
すると、その花はケレスが目を開けれなくなる程の白銀の輝きを発したのだ。
その後、ケレスが何とか目を開けるとアルデバランの火傷は消えていたが、
輝きを失ったその花は儚く枯れてしまったのである。
「あれは、棉? いや、光る花だ! でも、何であんな事が⁉」
その奇跡で目を丸くしたケレスの前で たぬてぃがアルデバランの顔に鼻息をフンフンと掛けると、
アルデバランの瞼がピクット動いた。
「たぬちゃん⁉ えっ? 喜蝶は?」
気が付いたアルデバランが体を起こすと、たぬてぃは耳を低くし、尻尾をくるっと巻いてしまう。
「そう……たぬちゃん、助けてくれてありがとう。あとはアタシ達で何とかする!」
そんな たぬてぃを見たアルデバランは眉を顰め何処かに走って行ってしまった。
「あっ⁉ 待てよ‼」
なので叫んだケレスは慌ててアルデバランを追いかけた。
アルデバランは颯爽とサダクビア城の外へ駆けて行く。
一方、ケレスは雪に足を取られながらもそれを追い掛けて行った。
すると、サダクビア城の門を通り入って来た氷月とその後ろにいる負傷している炎月と遭遇した。
「ボス‼ 下らない喧嘩なんかしてるから、喜蝶が宝珠の国の馬鹿に攫われちゃったじゃないか‼」
「あいつを取り戻すぞ‼」
アルデバランに怒鳴なれた氷月は踵を返しサダクビア城の門を出ようとしたが、
「氷月様。炎月様。大人しくしてください」
と、聞き覚えのある声の男から呼び止められた。
「あ、あいつ‼」
ケレスはその声の主を見て思わずそう叫んだ。
何故ならそいつはケレス達に不当な取り調べをし、消息が不明になっていた男だったからだ。
しかもその男の後ろには数えきれない程の大勢の剣の国の軍人がいたのである。
「宗……。そこをどけ」
その男に対し氷月は眉を顰めた。
「それは出来かねますな」
後ろに手をまわしている宗と呼ばれた男は不敵に笑う。
「貴様……誰にそんな口を利いているのだ?」
すると、氷月の目は据わった。
恐らく刹那の力を発動させるつもりだろう。
「宜しいのですか? ここであなた様方の力を使っても?」
だが、笑いを堪えている宗に言われると氷月はその発動を止めたのだ。
「……ですよねぇ? ここであなた様方の力を使えば、ここはまた滅んでしまう……。
折角あのダーナに創らせた、ここがね?」
「何言ってんの‼ アタシ達はそんな事なんてしてない‼」
堪えきれなくなった宗の笑い声にアルデバランは怒りを露わにした。
「こら、宦。言葉を慎みなさい」
そのアルデバランに静かにそう言った宗は睨み、アルデバランも睨み返す。
(ヅォンは、あの目付きの悪いおっさんで、フアンは、アルデバランの事か……。
でも、どういう意味だ?)
ケレスは首を傾げた。
「さて、全員、我々に大人しく従ってもらおうか……」
そのケレスの前で宗が手を叩くと大勢の軍人が氷月達を取り囲んでいった。
「させん」
そして、炎月は永劫の力を発動させようとした。
「炎、やめろ‼」
だが、氷月からそれを制された。
「兄上⁉ 何故です‼」
「ここにいる四人全員を捉えよ‼」
氷月に炎月が困惑した顔を向けると宗の命令で剣の国の軍人が氷月達を捉え始めた。
(四人? 氷月様、炎月さん、アルデバランで三人じゃないのか?
あれ? あと一人は誰の事言ってんだ? 誰かいるかっていないし……。
て事は……俺か⁉)
ケレスはそれに気付く。
(や、やべっ⁉ 逃げなきゃ‼)
そんなケレスは慌てて逃亡しようとした。
「ん? 何処に行った? あの緑頭のクソガキ……。
絶対にあのクソガキだけは許さん‼
あいつだけはこの私の手で捉え殺さぬと気が済まぬ‼」
だが、宗は血眼になってケレスを探し始めたのだ。
(どうなってんだ? 目の前に俺はいるんだが……。
ってか、何でこのおっさん、俺を恨んでるんだよ⁉)
この状況にケレスは戸惑う。
すると、ケレスのズボンを誰かが引っ張ってきた。
「ん? あ、ぴゅーけん⁉」
そう、ケレスのズボンを引っ張っている犯人は、ぴゅーけんだったのだ。
その ぴゅーけんはケレスのズボンを引っ張ったまま無表情でケレスを見上げていた。
そんな ぴゅーけんにケレスが驚くと、ぴゅーけんは自分の口の前に右手の人差し指を立てる。
「……もしかして、しぃーって、つもりか?」
瞬きしながらケレスが聞くと、ぴゅーけんはこくんと頷いた。
「わかった……」
それからケレスが両手で口を塞ぐと、
ぴゅーけんはケレスのズボンを引っ張り何処かに案内を始める。
そんな ぴゅーけんに連れられケレスがサダクビア城の庭園の奥まで来た時だった。
ガリガリガリ!
頭付近に伝わる音。
それに伴う激痛がケレスを襲う。
そう、何かが頭の上から音を立てながら痛みと共に目の前までずれ落ちてきた。
「い、痛い!! たぬてぃ!! 抉ったって!! 爪が頭皮に刺さってるって!!」
それは、たぬてぃだった。
たぬてぃは死んでも落ちないと言わんばかりに両前足の爪をケレスの頭にくい込ませていたのだ。
浮遊出来る癖にそうし続ける たぬてぃ。
あまりの痛さで口から手を外したケレスは目を閉じて叫ぶ。
「相変わらず五月蠅い小童じゃな。少しはその野蛮精霊に感謝してやらぬか?」
そんなケレスの耳に懐かしい声が届いた。
「そ、その声は……長殿⁉」
ケレスが目を開けるとコルネフォロスの上にいるベコの上で起座姿勢の長がいたのだ。
「長殿‼ 何処に行ってたんだ‼ 嘘つき‼」
そんな長にケレスは怒りながらも笑って駆け寄る。
「これこれ。再会を喜ぶのはまだ早いぞ?」
だが、長からは呆れた声で言われた。
「そ、そうなんだ‼ 何て説明したらいいのか……。
あぁーー‼ えっと、まずヨルムンガンドが襲ってきて、そ、それから世界が大変な事になって。
んで、俺は剣の国まで飛ばされて……。だあぁーー‼ 何で、姉ちゃんは殿下に攫われたんだよ‼」
「全て知っておる……」
混乱してしまったケレスに対し、長は落ち着いていた。
「どういう事だ?」
「あの災い蛇が、蘇った。あの娘を己がものにせぬが為にな。
唯、それだけの事じゃて」
「災い蛇? ヨルムンガンドの事か?」
長と話して落ち着きを取り戻しつつあったケレスは眉を顰めた。
「そう。じゃが、世界は災い蛇の見方をした……」
そのケレスに長は冷たく言い放つ。
「味方なんかしてない‼ 俺達は姉ちゃんに世界を救ってもらおうとしてここまで来たんだ‼」
「じゃが、現実はどうじゃ?」
「そ、それは……」
苛立っていたケレスは答えに困った。
「ふむ。わかったのならば、残り短い時間を何に使うのかを考える事じゃ」
そんなケレスに長は冷酷な言葉を投げつける。
「残り短い時間って……あと、どれぐらいなんだ⁉」
「ふぬ? 世界が災い蛇によって滅亡を迎えるまで、あと半日ぐらいじゃな」
「は、半日だって⁉ 何か方法はないのか?」
ケレスは青褪めた。
「ないの」
だが、長は平然としていた。
「ない訳ないだろ‼ 長殿‼ どうしてそんな事を言うんだ‼」
「それを小童達、人の子が望んだだけじゃろうて‼」
ケレスが怒鳴ると怒りで体をふるわせた長から怒鳴り返される。
その長の迫力にケレスは怯み、何も言えなくなってしまった。
そして、ケレスは脱力し、しゃがみ込んでしまった。
俯いて涙をぼろぼろと流した。
だが、そんなケレスはずっと思っていたが声に出せない事があったのである。
それは声を大にして言いたかったが言えなかった事……。
その事が沸々と何処からともなく沸き上がってきたケレスの口から声が、言葉が生まれた。
「長殿……どうして、姉ちゃんは昴を追い出されたんだ?
だって、姉ちゃんこそ救いの神子なんだよ……。
なのに、何でアマテラス様は姉ちゃんを災いなんて告げたんだよ?
全てはそこが変なんだ‼ アマテラス様が全部悪いんじゃないか‼
アマテラス様がそんな事を言わなかったら良かったんだ‼
アマテラスの馬鹿野郎ーーー‼」
ケレスは雪面を叩きながら空へ向け思いの丈をぶちまけた。
そう、ケレスはいつからかずっとそう思っていたが、
諸々の事情でそれを声を大にして言う事は叶わなかった。
だから、残されたこの時間で空へ向けそれを叶えたのだ。
だが、
「それは違うのじゃ……」
と、ケレスの思いを否定する静かな女性の声が聞こえたのである。
そしてケレスがその声の方を見るとまさかの声の主がケレスの前に姿を見せた。
あら あら あららのら! ケレス君、何か恨まれてるねぇ~。
やっとあの人の名前はわかったけど、違う事もわかってしまったね!
さあ、どうするケレス君?
このままじゃ色んな意味で大変な事になるよ?
ん? ほぉほぉ……そういう感じですか?
またケレス君は声を張り上げるんだね!
どんな事でケレス君が声を張り上げるのかがわかる次話のタイトルは、
【ケレス、神神との対話で世界の秘密を知る】だ!
へぇ~ケレス君、また世界の秘密を知るんだねぇ!?
そして、最後に喋ったものの正体もわかるんだよん☆
まあ、新キャラ登場ってトコかね?
でも、そうでもないのか……。




