№ 89 ケレス、隠されていた美しき城で姉の確固たる決意を知る
一体の氷柱鬼に案内された場所にアルデバランとラニーニャがいた。
だが、そこにいるラニーニャはすっかり怯え切った顔でケレスを見つめる。
そんなラニーニャの口から信じ難い言葉が漏れたその時、まさかの減少が起こり……。
氷柱鬼に案内されたケレスの前にいた人物。
それは勿論、ラニーニャとアルデバランだった。
「あっ!? 何であんた、ここに?」
ケレスに気付いたアルデバランは怪訝な顔をする。
そして、その隣ではすっかり怯え切った顔のラニーニャがいた。
「姉ちゃん!!」
そんなアルデバランを無視してケレスはラニーニャを呼んだ。
「こらぁ!! コルネフォロス!! 誰がこいつを入れていいって言った?」
「ギイイィ……」
すると、アルデバランはケレスではなく、その隣にいる氷柱鬼を睨みつけた。
その氷柱鬼は悲しそうに鳴いて下を向く。
「そんな顔しても駄目だからんね!!」
だが、アルデバランの眉はさらに釣り上がった。
「コルネフォロス? こいつの名前? って、まさかお前も精霊とかと話せるのか!?」
驚いたケレスの目は丸くなる。
そんなケレスをアルデバランはキッと睨みつけた。
「そんな訳、ないでしょ!! アタシが名付けたのよ!!
って、そんな事より、あんた出て行きなさいよ!!」
「嫌だ!! 姉ちゃんとちゃんと話すまでは何処にも行かない!!」
「もう誰にも喜蝶を傷付けさせないんだから!!」
ケレス達は怒鳴り合い、睨みあっていた。
「……アルデバラン様。少し、彼と話をさせてください」
そこにラニーニャの小さな声が寂しく響く。
「喜蝶!? 何を言ってるの?」
すると、今度はアルデバランの目が丸くなった。
その目のままラニーニャを見つめる。
「ほぉらっ! 邪魔するなってぇの!! 姉ちゃんは、いつでも俺達を助けてくれるんだぜ?」
そんなアルデバランにケレスは目を細めて余裕な顔を見せつけた。
「姉ちゃん聞いてくれ!! 大変な事になってるんだ!!
ヨルムンガンドが復活して、世界が闇に飲まれちゃって、このままじゃ世界は滅ぶんだ!!
ミューもヨルムンガンドに嵌合体とか言う術に襲われてて、このままじゃ死んじゃうんだ!!
それに、花梨様や お草ちゃんは蛇の夢の中で苦しんでる!!
他の人だってそうだ!! ミラの人だって、水鏡の国の人だって苦しんでる!!
このままじゃ、世界が滅ぶんだ!! 頼む!! 姉ちゃん、世界を救ってくれ!!」
それから顔を戻したケレスはラニーニャに今の世界の状況を感情込めて必死に訴えた。
だが、ケレスの訴えが進む度にラニーニャの顔は悲しみに満ちていったのである。
そして、ケレスは全て訴え終わったが、
「……ケレス君。そんな事を言いに来たの?」
と、ラニーニャの口からは信じ難い言葉が返って来たのだ。
「そんな事って……姉ちゃん、何言ってんだよ!? 姉ちゃんが救わなきゃ、世界は滅ぶんだよ!!」
そのラニーニャの言葉に耳を疑ったケレスはもう一度訴える。
「ふふっ……ケレス君。残念だけど、私にそんな力なんてないよ?」
だが、悲しい目をしたラニーニャから、せせら笑いながら返された。
その時、ケレスはカチンときた。
「何ふざけてるんだ!! 姉ちゃんが救いの神子ってみんなわかってる!!
だから、アマテラス様を……」
「出て行って! 私にはそんな力はない!!」
声を荒げたケレスが言い終わる前にラニーニャの怒鳴り声が響いた。
「……やっと、手に入れたの。誰も傷付けない、私の世界……。
誰からも傷付けられない、私の世界……私はこの世界さえあればいい!
お願いだから、壊さないで!! もう、私に関わらないで!!」
それから目に涙を沢山貯めたラニーニャは自身の気持ちをこう伝えた。
これは、ケレスの訴えを退けるものだった。
いや、ラニーニャのその目はケレスの存在そのものを拒絶していたのだ。
ケレスはその事実を受け入れられそうにはなかった。
頭の中が真っ白になる。
すると、
「ほぉらぁ、わかった? これが、喜蝶の意志なぁーの!」
と、言って、今度はアルデバランが鼻を軽く上げて余裕な顔を見せつけた。
「お前……姉ちゃんに何を吹き込んだんだ!!」
そのアルデバランを怒りにふるえたケレスは睨みつける。
「何言ってんの? アタシ、喜蝶に変な事なんて言ってないよ?」
アルデバランは余裕な顔のまま鼻で笑った。
「そんな事あるか!! 姉ちゃんはいつでも俺達を助けてくれたんだ!!
それなのにあんな事を言うなんて、おかしいだろ!!」
「おかしくなんかないよ! あんたも聞いたでしょ?
喜蝶のずっと欲しかった世界。それが、ここにある……。
喜蝶はここでアタシ達とずっと幸せに暮らすの! 邪魔しないで!!
それが喜蝶のずっとほしかった幸せなんだから!! ねえ、喜蝶?」
ケレスと怒鳴り合っていたアルデバランがラニーニャを見ると
ラニーニャはケレスの顔を見らずに頷いた。
そのラニーニャの肩をアルデバランは優しく抱き寄せる。
「よく言えたね……。後は、アタシに任せてね」
それから優しく言いながらアルデバランはラニーニャの頭を撫でた。
「これでわかったでしょ? さっさと出て行って」
そして、アルデバランはケレスに拒絶する目を向けた。
だが、その時だった。
急に空が茜色に染まったのだ。
「ま、まさか……これは、ヒロ殿下!?」
その事に気付いたケレスは青褪める。
そのケレスが空を見上げると空から紅蓮の炎の塊が落ちて来た。
そして、その炎の塊の中から恐ろしい形相のヒロが現れた。
さらに、残りの炎の塊はアルデバランだけを吹き飛ばしたのだ。
「ア、アルデバラン様ぁーー!?」
泣き叫んだラニーニャはアルデバランの所へ駆け寄ろうとした。
だが、ヒロはそのラニーニャの左腕を乱暴に掴み、睨みつける。
「……久しぶりだな」
それからヒロが静かにそう言うと、怯えたラニーニャはヒロから逃げ様とした。
「そんなに、怯える事はないだろう? 知らない間柄でもあるまいし……」
すると、いつぞやに聞いた台詞を吐いたヒロは不気味に笑った。
そして、ふるえているラニーニャの手を握っているその手に力を入れる。
ラニーニャの顔が苦心に滲んでも、ミシミシと音が聞える程ヒロはその手に力を入れ続けたのだ。
「さあ……行こうか?」
静かに笑いながら言ったヒロの声が不気味に響く。
その恐ろしさにケレスの心臓はギュウっと絞めつけられ痛みが走った。
「殿下!! おやめください!! あなたは操られてるんでしょ?
俺の知ってる殿下はあんな奴に負ける人じゃない!! しっかりしてください!!」
それでもケレスは声を張り上げた。
「ケレス……俺は正気だ」
だが、ヒロはケレスに冷たい眼差しを向ける。
「嘘だ!!」
「嘘じゃない……」
ヒロはその眼差しでラニーニャを睨みつけた。
「昴の奴等の言う通りだったな。お前は……、災いを呼ぶ。
どうやって生き延びたか知らんが、アマテラスの目を掻い潜り、
災いを撒き、そして、宝珠の国に潜んで俺の母を殺した……。
それだけじゃ物足りず、お前はどれだけの者を苦しめれば気が済むんだ?
まあ、それも今日で終わりだがな?」
それからヒロは次々と恐ろしい言葉をラニーニャに投げつけた。
そんなヒロがさらに右手に力を入れると、
全てをあきらめ瞳を閉じたラニーニャはその場にしゃがみ込んでしまった。
だが、ピリが、ビイイッ!と警報音を鳴らしてヒロに体当たりをする。
「喜蝶は災いなんかじゃない!! 汚い手で触らないで!!
やっちゃえ!! ピリ!! そこの下衆野郎を懲らしめちゃって!!」
それにアルデバランの怒鳴り声が続いた。
すると、そんなアルデバランの腹に具現化したフィードが右前足を押し当てたのだ。
「ぐうぅ……!?」
アルデバランの苦痛な声とその体が、ジュウゥゥと焼ける音が聞えた。
「すまんな……フィードは俺に忠実なんでね。俺が侮辱されるのが嫌なんだ」
それでもヒロは笑っていた。
そんなヒロにピリがまた体当たりをする。
「……邪魔だ」
すると、笑みが消えたヒロは自身の銃を使い乱暴にピリを叩き落とした。
そして、叩き落とされたピリは雪の中に埋もれてしまった。
それからアルデバランもケレスも一言も喋れなかった。
そこでフィードがアルデバランの腹に前足を押し続ける音は続いていたが、
「……やめなさい」
と、静かな声で言ったラニーニャは瞳を開け、怒りの眼差しでヒロを睨みつけた。
「へえ……お前が俺に命令とはな?」
そのラニーニャにヒロは笑う。
「これ以上アルデバラン様に手を出すのならば、私は、舌を噛み切って死にます」
だが、ラニーニャの瞳に宿る怒りの強さは増した。
「それは困るんだがな」
すると、ヒロからはまた笑みが消える。
そのヒロから視線を外したラニーニャは穏やかな顔になり、アルデバランの方を見て話し始めた。
「……アルデバラン様、やっぱり私、災いみたいです。
だから、行きます。でも、本当に感謝してる。
あなた様と氷月様がいなければ私……。
もう、戻れないけれど、こんな素晴らしい世界をいただけた事に感謝しています。
本当に、幸せだった……。だから、私の世界を……」
ラニーニャはぽろぽろと涙を流しながら、しっかりと自身の気持ちを伝えていった。
そして、ラニーニャは最後に何かを言おうとしたが、
「……そろそろ、いいか?」
と、言ったヒロはラニーニャの腹を殴ったのだ。
すると、最後の言葉を発する事なくラニーニャは力なくヒロの腕の中に沈んだ。
「行くぞ、フィード」
それから静かにそう言ったヒロをラニーニャ都共に紅蓮の炎が包む。
その炎は空へと舞い上がり、茜色の空へと消えた。
「姉ちゃあぁーーーーーんっ!!」
その茜色の空の下にケレスの叫び声が空しく響くと空は青空となった。
「何でだ!! 殿下、あなたは何を考えてるんだ!!」
怒りを何処にぶつければ良いのかわからないケレスは泣き叫んだ。
「ボ、ボス……」
すると、そう呟きながら這って近づいて来たアルデバランが表情を歪めその場に倒れてしまった。
「ア、アルデバラン!?」
ケレスは慌ててアルデバランの傍に駆け寄った。
そのアルデバランの全身の服は焼け焦げており、
特に腹部分が酷く、爛れた皮膚が見え、皮膚が焼けた臭いがした。
「このままじゃ、良くない。何とかしないと……」
ケレスはアルデバランを助ける方法を考えた。
すると、そんなケレスの傍に見覚えのある二体がコルネフォロスと共に近づいていた。
ケ、ケレス君!?
一体どうしたらいいの?
ラニーニャちゃんは攫われちゃったし、アルデバランちゃんも大変な事になっちゃったし……。
ぅうん? ……言い難いんだけど、次話で君もちょいと大変な事になりそう……。
何がどうなるかがわかる次話のタイトルは、
【ケレス、隠されていた美しき城で再会と逃亡を繰り広げる】だ!
やっとあの男の名前がわかるんだよん!




