表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/75

73話 イーシュ

「お疲れ様です。ピーターさん。父の服、よくお似合いですよ。」


控室へ戻ると、真っ先にグリーゼが声をかけてきた。


「あ、ありがとうございます。異様な圧でした。もうこんな場所、二度とゴメンです」

「お母様も会議の後はいつもそんな感じです」


「おお!帰ってきたな英雄!まぁ座れ!」

護衛の二人に御者、先遣隊の面々、カティア、グリーゼ

皆そろってテーブルを囲み、お茶を飲んでいた。


「今日は日が暮れるまでに帰れるかね?」

「どうだろうな……魔神と御神木の件がある。絶望的だろう」

「教授は“今日は帰れないかもしれない”とぼやいていましたよ」


「グリーゼさんは教授のお付きで来られてるんですか?」

「ええ。御神木と魔神の報告書を届けに来ました。ピーターさんの件は最小限にまとめてありますから、ご安心を」

「お気遣い、痛み入ります」


「この会議が終わったらすぐ戻られるんですか?」

「そうですね。ルシェナ様から造船を頼まれてるので、帰ったらまた大忙しです」


「船まで造られるのですか? お強いだけでなくそんなことまで出来るんですね」

「どっちかっていうと物作るほうだけやっていたいんですけど・・ところでグリーゼさんは、どの分野の学者なのですか?」


「星辰学です。星の運行を記録・研究する仕事です。計算が必要なので数理も少し」

「星の記録……素晴らしいですね。俺、この世界……いや、今どの程度まで星の動きが解明されているのか興味があります」

「それはうれしいです。この分野を理解してくださる方は少ないので」


少し躊躇ってから言う。

「俺、ついこの間まで言葉や生きる術以外の記憶がなくて。星の名前もまったく知らないんです」


「まあ……。それはご苦労を。今度ぜひ、私の研究室へいらしてください。喜んで星の事お教えしますよ」

「ありがとうございます。ぜひ」


議場では案の定、議論が紛糾していた。

休憩のたびにルシェナが戻ってくるが、その顔はみるみるやつれていく。

軽く食事をとり、また議場へ。こちらも軽食で腹を誤魔化す。


気分転換に外のベランダへ出た。

冷たい空気が肺に刺さる。前世でいえば二月ほどの寒さだろうか。


しかし平地に雪はなく、山麓だけが白い。

これだけ寒ければ平地に雪が積もっていてもいいものだが、それも前世脳の考えか。


スポーン地点の家の畑は放ったらかしだ。

いえは無事なのか、作物は枯れていないだろうか。……一度帰ってみるか。


「あ、ピーターさん。ちょうどよかった。夜空になりましたから、星のお話をしましょう」

振り向くとグリーゼがいた。


「ぜひ。……というか、まだ解放されていないんですか?」

「いえ、教授はもう帰っていいよと言ってくれましたが、私も母を待ちます」


夜空は澄み渡っていた。

彼女は星々の名と距離、この世界での天文学の基礎を語る。

惑星は球体。他惑星の存在も想定済み。大気圏の存在、その外は真空。太陽は燃えているわけではない。

……あれ? 思ったより進んでないか?


そして、空に浮かぶ大きな衛星。


前世で言うなら、やや大きめの月に土星のような環がついた姿。

白銀の輪が、静かに輝いている。


「あの衛星、美しいですね。環もまた見事だ」

「イーシュ、といいます。私が星辰学を志したきっかけなんです。子どもの頃、“いつかあの星へ行く”と言っていたそうです。……私は覚えていませんが」


月に行く……か。


「それ、面白そうですね。あの星に行く船、作ってみます?」

「え・・・そんな物も作れるんですか?」


「さすがにすぐには・・・でももう少しで空を飛ぶ船なら作れそうです」

そう、レネイのゴーレムならね!


「まさか・・空飛ぶ船なんて」

「完成したら見せに来ますよ。ルシェナ様は船苦手だから乗れないかも」


「フフフッ。そうなんです。よくご存じで」

「以前、試験航行で無理に乗せたら、大変怒られました」


いや、あれはダミーのスカッド船で怒られたのか…


夜がすっかり更けたころ。

ようやく議場に決が下り、長い一日は幕を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ