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67話 グリーゼ視点

『ァァ……土が不味い』

魔神は言った。


脳の奥を直接撫でられるような、不快な声だった。

その言葉は、周囲の者すべてに届いているらしい。


土が不味い? 土壌成分のこと?

今年の凶作の原因を調べるため、私は農地へ赴いていた。


農業は専門ではないが、この国が魔法によって土壌改良を行っていることくらいは知っている。

その土地を前にして、魔神は現れた。


「グリーゼ! 何を突っ立っている! もっと離れろ!」

怒号に背を押され、私は走り出す。


振り返りながら、騎士団長と魔神のやり取りに耳を澄ませた。

団長の言葉は聞き取れない。


だが、魔神の返答で会話の流れは理解できた。

いや――理解というより、まったく噛み合っていない。


『この地を荒らしておるのはウヌらであろうが』

理由を問うこともなく、出て行けとでも言ったのだろう。


あれでは挑発にしかならない。

最初から戦う前提の言葉だ。


そして案の定、戦闘は始まった。

剣と盾がぶつかる鈍い金属音。


続いて後方支援の銃弾、

魔法が、光の尾を引いて放たれる。

あらゆる攻撃が魔神へと叩き込まれた。


この国は軍事国家だ。

彼らはその精鋭――だが。

次の瞬間、前列の騎士がまとめて吹き飛んだ。


衝撃波? 違う。ただ腕を振っただけだ。

地面が抉れ、鎧が軋み、悲鳴が重なる。


『弱すぎる。大地を食らいつくして、この程度か』

これは戦闘ではない。 蹂躙だ。


騎士団は、瞬く間に壊滅した。

もちろん、軍はあれだけではない。


街を守る部隊も、城を守る部隊もある。

今この光景を見ているはずだ。


これからどうするの? 魔神は次に何をするの?


そのとき、一人の男が進み出た。

腰に剣を一本だけ下げた、護衛のような簡素な装い。

遠目でよく見えないが、あの服には見覚えがある。



『お主を知っておるぞ。我が一枝を屠りし者よ』


魔神が言った。


一蹴するかと思ったその男を、知っているという。

一枝を屠った? まさか――


ベルデ村の大樹を復活させ、魔神を倒したというあの男?


戦闘が始まった。

軍が壊滅させられた相手に、たった一人で?


紫の炎が立ち上る。

速すぎる。目が追えない。


ボゥッ!

ガガガガンッ!


男が吹き飛ばされた――そういう風に見えた。


だが次の瞬間、鞭のような軌跡が閃き、魔神の脚を斬り裂く。

さらに、金属の杭のようなものが無数に突き刺さった。


魔神が押されている?

血が噴き、巨体が揺れる。


そして。

戦闘は終わっていた。あまりにもあっけなくおわった


あの男が――勝った?


『人の子よ……我を呼びし者を……探せ。この地に……おる』


魔神を呼んだ者が、この国にいる?いや、今はそれどころじゃない!

私を含め、誰もが彼と魔神の戦闘に圧倒されていた。


「だ、だれか!救護を呼んで!」

「救護隊はまだか!早くしろ!」


彼はすでに救護に駆け回っていた。


「まだ息がある!」


そこに倒れているのは騎士団の兵。体が横にくの字に折れている。

呼吸は浅く不規則、非常にまずい状態だ。


「大丈夫、すぐ治るから」

「え?」


男は、瀕死の騎士の胸に手を置いた。


「ヴァルネラサネントゥール」


知らない言語。術式展開も、魔力の波も見えない。

それなのに。


コキ……ゴリ、と骨の戻る音。


「う……」

「じっとしてろ。すぐ終わる」


潰れた胸郭が持ち上がり、歪んだ骨盤が正位へと戻る。

特級治癒魔法でも、ここまで瞬時には修復できない。


そしてこの装備、やはりヒューズナセル領主専属護衛の意匠。


「…失礼ですが…あなたは、母の護衛ですか?」


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