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64話 走れピーター

広大な農地の中央に立つ御神木。だがそれはすでに“大樹”とは呼べない。

幹は細く、枝は短く、 葉は一枚も残っていない。

完全に枯れていた。


今年、この農地で実った作物はどれも小さく、 収穫量も大きく落ち込んでいる。

その原因が、この御神木にあるのではないか。


そう考えた学者の調査団が御神木のもとに訪れていた。


「……この木は、もう完全に死んでいますね」

「本来なら、実をつける木だと農家が言っていたが……」


「さっさと抜いてしまって農地に転用した方が合理的では?」


ヨレヨレの服をまとった学者たちの中で、ただ一人、きちんと衣を整えた金髪の女性がいた。

枯れた御神木を見上げ、静かに眼鏡を押し上げ、澄んだ声で言った。


「神官様は“抜くことはまかりならん”と仰っていたわ」

その直後だった。御神木周辺の土が、異様な音を立てて盛り上がり始めた。


ボリボリボリッ、と乾いた根が折れる音が響く。


「……地面が隆起した?」


冷たい風がふっと止み、代わりに不気味な地鳴りが足元から伝わってくる。


「皆ここから離れろ!」


ゴゴゴゴゴ……と地面が割れる。


「まずい!なにかでてくる!走れぇえええ!!!」


学者たちが脱兎のごとく逃げ出した。

地面を割り、せり上がってきたのは、目が赤く光る獅子舞のような巨大な頭部。


四肢が地を踏み砕き、バキバキと凄まじい音を立てる。

御神木が根ごと空へ吹き飛び、巨大な土塊が宙を舞った。


姿を現したのは、全長10メートルを超える四つ足の獅子。

その全身には、不吉な紫色の炎がゆらめいていた。


「ま、魔神なのか!!!?」


ヒュルルル、と街門の守衛が救援を知らせる曳光弾を空へ放った。


『ァァ・・・土が不味い』


怪物の唸り声が、地を這うように響き渡る。


街の中では、けたたましく鐘の音が鳴り響いていた。

「魔神だ! 御神木のあたりに出たぞ!」


農地へ向かって騎馬隊が駆けていく。

魔法コンテストのスカウトから逃げ切ったばかりの俺たち3人の耳にも、その咆哮は届いた。


「これは!?」

「以前ベルデ村で聞いた声ですね。二人は宿へ戻って下さい!」


「ハルミチさんはどうするの!?」

「御神木へ行ってみます。何かできるかもしれませんから」


「だ、だめ!あなたは私の護衛よ。そばにいて!」

「街に入られると元も子もありませんから。本物の護衛さんたちのところへ早く戻ってください。カティアさん!ルシェナ様を!」


「は、はい!必ず戻ってきてくださいね」

「ダメだと思ったらすぐ尻尾巻いて逃げてきます」


二人が宿の方へ走っていくのを見届け、俺は騎士たちと同じ方向へ走り出した。

だが、街が広すぎてまだ農地が見えない。


身体能力はチートで上がっているはずなのに、いかんせんスタミナが前世の中年のままだ。

走り出しの100メートルこそ猛スピードが出たが、すぐに息が切れる。


「はぁ……はぁ……今度、カナハに馬の乗り方を教わるか……」

走り込んで体力をつけるという発想がない。


横を軍の馬車が猛スピードで追い抜いていった。

荷台には鎧ではなく、魔法使いの軍マントを羽織った連中が、何事か詠唱しながら乗り込んでいる。


あれがルシェナの言っていた『魔法使いの軍隊』か。

ようやく、視界の先に広大な農地と、そこに居座る巨大な影が見えてきた。


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