61話 いざヒューズ王国へ
「ハルミチさん、長旅なのよ。はいこのひざ掛け使って。これ暖かいわよ」
「ハルミチさん、これどうぞ。美味しいわよ」
前にもあった世話焼きデジャブ姫だ。
しかも俺の見た目が若くなってるので、完全に『息子に世話焼くお母さん』だ。
俺はルシェナとお付きのメイドさんと一緒に馬車に乗っている。
俺を見るメイドさんの冷ややかなジト目がかわいい。
ルシェナには子供が3人いる。長男と長女はヒューズに、次男はソレスにいる。
愛する子供たちを政治的に交流のある各地に配分した形だ。
一角の人物には、家族にもそれなりのリスクを背負わせて生きなければいけない。
パンピーにはわからない世界だな。
「ルシェナ様。俺の名前はピーターでお願いします」
「そうだったわね。ピーターホンヘンハンデンバンド?」
「おしい!ピーター・ファン・デン・ホーヘンです」
「フフフッ全然違うじゃない。ごめんなさいちゃんと覚えるから、もう一度お願い」
「ハハハ、ピーターでいいですよ」
覚えにくいように長い名前にしたが、失敗だったかな。
「半年に一度この会議があるのだけれど、いつもこの旅は苦痛なの」
「なかなかの道のりですよね。しかもこの季節は寒いし」
「天候次第だけれども最低8日はかかる。夜には次の街につくわ。そこで一泊ね」
俺たちが馬車でベルデ村からヒューズナセルに行く速度より遅い。
この馬車もいじりたいなぁ・・・
「なにか早く着いちゃう道具出してくれるの?」
考え込む俺にルシェナが何かを察した。ドラえもんみたいに言わないで。
「そうですね。到着日数は変わらなくても、休む場所に早く着くならそれに越したことはないですよね。
次の休憩場所で馬車と馬をちょっと見させてもらっていいですか?」
「もちろん!お願いするわ」
街道の道中にあづまやのある広場が何キロか置きにある。
暖かい季節は商人の馬車がそこで露店を開いたりもしており、みんなここで小休憩を取る。
だがこの季節は通りが少ないので、広場には誰もいない。
まず馬。馬には皮の防寒ラグみたいなものが馬の背中にかぶせてあるが、重たく、冷たい。
まずこのラグをリビルド。
空気層を抱き込む極細繊維構造、軽く、細かく、柔らかく。熱を循環させるように何層も重ねる。
外側だけ防水で熱が逃げない素材。アルミ箔フィルムのような生地。
「生成」
モワンッ!
おお!そうそうこれこれ!これをもう一頭の馬車馬のラグに再構成する。
「どう?あったかいですか?」
「ブフゥゥッ」
あったかいブヒと言ったんだと思いたい。
次はキャリッジ。村の荷台の車輪は木製だったが、これは鉄フレームに重厚な木製のボディ。
車輪は木のホイールに鉄の薄い板が巻かれ、さらにその上に動物の皮が巻かれている。
木製ホイールよりかは少し乗り心地はいい。が!
「金の船!!」
ミキミキミキミキッ!
ちなみに金ではなくカーボンだ。勢いをつける為だけの何の意味もない詠唱だ。
作りはだいぶ違うが、馬車はベルデ村でだいぶ作り直したので、もう朝飯前だ。
ボディはカーボン製。そしてついにトレーリングアームにコイルサスペンション!
さすがにサスペンションは一旦別に作る。
巡視船の三連装砲で経た経験を活かしてオイルダンパー付きだ!やっとこの日が来た!
これでボディを低く維持できる。カーボンフレームにボディを固定。
フレームとトレーリングアームで繋ぎ、ボディとフレームをダンパーでつなぐ。
スプリングは前ショート、後ろはロングだ。
剛性が不安なので前後にラテラルロッドとスタビも付けた。
モリブデングリス。チューブ状に出して各部に塗布。
車輪はいつものカーボンにエアレスゴムタイヤ。
寒かった内装は暖かそうなポリエステルのベルベット生地。窓ガラスは2層ポリカ。これで寒くない!
なるべく見た目はそのまま維持したつもりだが、結構変わっちゃったな。メカメカしい!
「おおおお!馬車が低くなったぞ!」
「なんだかいろんな機械がついていますね」
今回俺の他に2人の護衛と一人のメイド。御者2人。
みんなが変身した馬車を見てざわついた。いい反応だ。
特にメイドのカティアは馬車の下まで覗いている。
微調整は走り出してから人知れずやるとしよう・・
「結構軽くなったので御者の方は注意してください、あと皆さんの馬の蹄も診せてください」
荷車もカーボン製にチェンジ
この馬車と荷車、騎馬2頭の馬、合計6頭の馬の蹄鉄をカーボンに変更。
バネ下重量が軽くなるのは大正義だ。馬だって同じだ!しらんけど。
はたして蹄がカーボンでいいんだろうかという一抹の不安もあるが・・
「タキオン!」
蹄鉄をカーボンに変更した。馬の口がモグモグしている
『おお!軽いぞ!よいではないか!ブヒヒ!』
・・・と聞こえた気がしないでもない。
さぁ果たして成果はいかに!一行が休憩を終え、動き出した。
「うわ!馬車がすごく静かになりました!中も温かい!」
メイドさんがはしゃいでる。メイドさんがデレた。かわいい。
「乗り心地がすごくよくなったわね。相変わらずすごい魔法だわ」
「よかった。これで少しでも早く着くといいですね」
メイドのカティアが、あのグルグルは何だとか、この車輪はどこと繋がってるのかだとか
興味津々に聞いてきた。
女の子なのにこういうものに興味があるのはとてもグッとくる!
俺は懇切丁寧に話した。彼女は楽しそうにうなずいていた。
ルシェナは頬杖ついて俺たち二人の会話を聞いていた。
夜に到着予定だった町へは、夕暮れには到着した。
2名の先遣隊がルシェナ一行を待っていた。
彼らは宿の手配と、この街の安全の確認のために前日に到着していた。
「お疲れさまでございますルシェナ様。随分とお早いお付きですね」
「おつかれさま。出迎えありがとう。馬車の革新で早く着いたの」
「宿の手配は済んでおります。それではわれらはここで失礼します」
「ちょっと待って!ハル・・ピーター!彼らの馬具の刷新をお願いできる?」
「わかりました。馬を拝見させていただいてよろしいですか?」
「は、はぁ・・」
護衛隊2人がいぶかしげにそれぞれの馬を連れてきた。
「スモモモモ!」
馬の蹄鉄と防寒具を刷新した。ついでに寒くてこわばっていた筋肉をほぐしてあげた。
「彼は馬に何をしたのですか?」
「フフフッ私たちが早く到着した魔法よ。では先のことをよろしくお願いするわ。気を付けてね」
「はっ!」
彼らは今からこの街を出て夜の道を馬で駆けていくのだ。
おそらく精鋭だろう。大変な役目だ。
ルシェナ一行はその後も何事もなく順調に旅路を進め、予定より1日早く首都アウレグリフへ到着した。
(※約1000kg→約400kgへ軽量化:A.I試算)




