59話 Isolate Hyuze Industrial
「完成しました」
「ヨシ。これで11隻目。テストしてくる。行こうかエルド!」
巡視船の製造は順調に進んでいる。
警備隊から一人招聘し、俺と二人で試験航行を重ねる。実戦を想定して、細かな仕様変更を繰り返してきた。
プロトタイプ〈しまかぜ〉より船体を一回り大型化。砲撃の反動は大幅に軽減された。
推進機は左右二基ずつ、計四枚のスクリューで制御。出力の微調整が可能になっている。
舵も細かく調整できるようになった。索敵カラスはカモメのような白へ変更。
さらにマストは折り畳み式。戦闘時には倒して船影を低くし、半ばステルス状態を取れる。
そして俺は、この機会に“工廠”を作った。
この家は高台の崖の上にあり、その崖の中に秘密基地っぽく岩盤を掘り起こした。
ゴーレムエレベーターで海抜まで降りられるようにして、海抜に工場と倉庫と波止場を作った。
奥にドライドックを設けて、船の洗浄、メンテナンスを行えるようにした。
ついに電気も定格発電できるようになった。
そう、ゴーレムモーター!――実質、無限発電だ。
チタンの金属板にゴーレム魔法を掘り、回る金属板とモーターをつなげて発電させる。
常に工場内には明かりがあり、水道もポンプで上げ下げできる様になった。
この岩盤の波止場はゴーレムシャッターで波止場を閉じることができる。
外敵対策・・・というのは建前で、本音はただのロマンだ。
この工廠の名は――
【 Isolate Hyuze Industrial】
鍛冶部門、船体整備班、開発部がここで働く。
表向きの事務所は家の隣。
看板は【海の見えるレストラン】
実際に昼営業のみのカフェとして稼働させた。
この世界には昼食の習慣が薄い。だからこそ、あえての昼営業だ。
採算取れなくても構わない店だが、ルシェナがプロデュースを申し出て、
街から少し離れてはいるが景観もよく、デートスポットとして評判は上々だ。
二階はレストランの側面に階段があり、全面が事務所兼会議室。要人用の円卓室も備える。
厨房の裏からエレベーターで地下の工廠へ向かうことができる。
鍛冶師のボルクさんは魔法使いだ。火の制御と鉄の精密加工を自在にこなす。彼には砲弾作りと火薬の管理をしてもらっている。
俺が不在でも船体修理や砲弾製造が可能なよう設計し直した。ゴーレムなしでも運用できる通常砲弾も生産している。
「はるみちさーん。ルシェナ様が来てますよー」
「はーい」
事務のマルタからの通信だ。
大きな木箱で、マイクとスピーカーを兼ねた簡易通信機を作った。
薄い合成繊維のスコーカーの中央に真鍮の接触子を通し、
その振動を、レネイの魔法陣を刻んだ薄い水晶板へ伝える。
水晶板は振動をそのまま魔法として送り、受信側の水晶板で再び振動に戻す。
木箱は周辺の音を拾わない対策とエンクロージャー。
受信側も同じ構造で、スコーカーが音として再生する仕組みだ。
上階の個室へ向かう。
ルシェナが要人室で待っていた。給仕のフィオが茶とクッキーを運ぶ。
ちなみにルシェナは船の価格の安さに目玉が飛び出ていた。
だがそこは領主。この工廠の人件費、土地代全てを安い船の代わりに持ってくれた。
「こんにちはルシェナ様」
「ああ、ハルミチさん。急に押しかけてごめんなさい」
「どうなされたんですか?」
「本国から審問官が来てスカッド一味を引き取りに来たの」
「よかったじゃないですか。ただ飯喰らいが減りましたよ」
「いえ、事はそんなに単純じゃないわ。国は今回の功績を称えたいと言っている。次の定例枢議会に、あなたも同行せよ、と」
「なるほど、表彰してくれるんですか?」
「表向きはね。本当の目的はあなたを取り込むか、取り込めなければ何かの冤罪で排除するか」
「……え?」
背筋が冷えた。
「表彰は“口実”。国ってどこでも価値のある人間を放っておかないの」
「価値って……そんな大げさな」
ルシェナは小さく息をついた。
「神殿事件、海賊の殲滅、魔神の討伐……どれも国家規模の重大事よ。それを一人でやった人間が、どこの誰にも属していない。力を持つ者が、どこにも属さない。それだけで“脅威”になるのよ」
「……なるほど」
「だから彼らは、まず取り込もうとする。それが無理なら――排除」
「ヒューズ王国じゃなくても同じことを考えるんですね」
「この街は、かつて海賊の街だったの。ヒューズが武力で奪い取った。その際、海賊は海の自由を得る代わりに撤退した」
彼女はため息交じりに話を続ける。
「夫アルヴェンは海で死んだ。船も残らなかった。きっと海賊との戦いだった。でも本国は現場の捜索すら来なかった」
やがて海賊の横暴は激化。町まで襲うようになった。
「女領主を舐めていたのよ」
わざわざ街を襲っていた理由。
「警備を強化しても返り討ち。本国は支援をはぐらかし、金で解決しろと迫るばかり」
「この街を手に入れたい勢力が本国にいる。あの海賊はヒューズの元軍隊よ。そういうゲームを楽しんでる人間たちがいるのよ」
だから戦い方が海賊っぽくなかったのか。
「尋問しても誰の差し金かは口を割らなかったわ。交渉も試みたんだけど・・・」
「困りましたね」
「あなたは旅立ってもうこの街にはいないと言ってあるけれども、もうきっとあなたの名前と顔は彼ら本国に割れてるわ」
「ルシェナ様は?このままだと危険な気がします」
「・・・そうね。消されるというよりは、私が誰かに半強制的に取り込まれる想像はできるわね。何せここは飛び地だし、あまり情報は入ってこないの」
「スカッドを生かして捕えたことは間違いだったんでしょうか・・」
「いえ、どっちでもこの状況はあまり変わらないと思う。あの国は鉄のように冷たい国なのよ」
彼女の手がわずかに震えている。俺はその手を握った。
「分かりました。おれも行きます。ヒューズ王国へ」
「!?でもあなたにまた迷惑をかけてしまうわ」
「いえ、俺が奴らを倒したことで状況を動かしてしまった。最後まで付き合いますよ」
「・・・ありがとう。またあなたに助けられちゃうのね」
ルシェナは困ったように、しかしどこか安堵したように微笑んだ。




