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7 - 契約をしましょう

 

 

 

「カミール、あなた、話せたの?」

 

 シャルがたどたどしく尋ねてきた。

《ごめんなさい。シャーリーン様には先程お伝えするつもりでしたが、タイミングを少し逃してしまいまして。 それに、話せるかというと少し語弊があります》

「どういうこと?」

 私の言葉使いが嫌だったのかシャルの眉に少し皺がよるが、さすがに公爵様の前なので堅苦しくなるのは許して欲しい。

 そしてやはり詳しく知りたいらしいシャルに答えてあげたいが、公爵様との話の途中でもあるため、思わずそちらを見てしまう。

 

「私も少し興味がある、聞かせてくれ」

《はい。ですが、詳しいことは私自身あまり良く分かっていないのです。なので曖昧な説明になってしまいますが……》

「構わない」

《分かりました。 私の感覚では思念を飛ばしている、という感じでしょうか》

「思念を飛ばす……?」

《相手に伝えたい言葉を思うと、何故か届くようなのです。ですから実際に喋っている訳ではないのです。今は口も一緒に動かしていますが、本来必要ありません。 このように》

 

「!? 口を閉じてるのに声が聞こえるわ! カミール凄いじゃない! 何故いつもこうして話さないの?」

《万能ではないから。でしょうか? 何故か魔力のある人にしか伝わらないのです。範囲も限界がありますし》

「ということは、聞いたことがないがそれは魔法の一種なのかな?」

《そうなのかもしれません。今はこの部屋にいる人を対象にしているのですが、あまり広い場所では無理ですし、相手や私が動いていたりすると対象があやふやになり伝わりません。 昔は力の使い方がよく分からず、相手に頭痛や耳鳴りがして声は聞こえないということもありました。 今では母の協力のもと、練習して上手く使えるようになりましたが、あまり他の人に使ったことはありません。特に子供相手には怖くて使えませんでした》

 

「あっ、だからさっきは使わなかったのね?イアンがいたから」

 その言葉に苦笑いで頷く。

 

「成る程、では必要ないのに口を動かしているのはなぜだい?」

《母が、いつか本当に喋れるようになる時が来るかもしれないから、その時の為に練習しておきなさいと》

 母はまだ諦めていない。喋れるようになる日がきっと来るといつも言っていた。

 

「ミモザさんは信じているのですね。 ならば私も、いつか本当にカミールとお話しが出来る日を信じて待っているわ」

《ありがとう、シャル》

「ふふっ、友達ですからね。当然です」

 嬉しさに言葉の崩れた私に、シャルも嬉しそうだった。

 

「だいたいの話は分かった。まだ気になることはあるが、今回は止めておこう。 次は本題であった使い魔について聞いても?」

《はい。ですがそのことについても私はよく分からないのです。 使い魔など持っていませんし……》

「私が聞いた話では、君の影から魔獣がでてきて君を連れて行ったみたいだが。その魔獣も知らないと?」

《その魔獣には心当たりはあります。森で目が覚めた時も側にいましたし。 ですが、影からでてくるのは見たことがありません》

「森で? 森にいたのかい? まさか北の森じゃ……」

《はい。北の森でございます》

「北の森、黒い魔獣、影。 まさか……? 今またその魔獣を出すことは可能かい?」

《やってみます……》

 とは言ったもののどうしたものか。前回は気を失っていたためよく分からない。

 

 呼べばいいのかな? アイビーって呼んだら来るかしら? でも本当にアイビーかどうか……

 

 なんてことを考えていると。

 

「「!?」」

「きゃっ」

 シャルの小さめな悲鳴が聞こえ周りを見ると、私の横に真黒の獣。というより獣の形をした影が揺らめいていた。

 

 アイビー? でも、なんか小さいような……?

 

「やはりセロットか。 まさかこんな大物を持っていたとはな」

《セロットというのはこの影のようなもののことですか?》

「この影はセロットの分身のようなものだ。彼らは影を操る魔法を使うため人前に本体を曝すことは滅多にないらしい。 縄張り意識も強く、基本縄張りからでることはないと聞く。しかし、いまいち何処にいるのか分かっておらず私も影すら見るのは初めてだ」

 

 さすが魔獣使いの名家だけあり、とても詳しい。

 しかし疑問は残る。これはアイビーの分身なのか、だとしても何故私の影から出てくるのか。

 影でも触れることは出来るらしく、擦りよってくる小型なアイビーの影らしきものを撫でながら考える。

 

「君は影の本体を知っているようだが、本当に契約をしていないのかい?」

《はい。アイビーとは友達ですが契約などはしていません。そもそも契約の方法を私は知りませんので……》

「そうか、友達か……。 しかしこうして君の影を通して姿を現すとなると、国を管理する者としては契約をして欲しい。明日そのアイビーとやらを連れて来るのは可能かい?」

《多分大丈夫だと思います》

「決まりだな。 ならば今日はもう遅い、泊まって行きなさい。明日、馬車を北の森まで出そう」

「まあ! それは素敵ですわ! カミール、是非私のお部屋に泊まっていってちょうだい」

 

 そんな流れで公爵様のお部屋を失礼して、今日はこのお屋敷に泊まらせて貰うことに。

 気を使ってくれたのか本当に仕事があるのか、公爵様とは別にシャルとイアン君と少し賑やかな夕食をすませた。

 夕食はやはりとても豪華で美味しかったけれど、2日ぶりというのも効いてか広く綺麗な浴室には感動した。用意されていた服もシンプルながら生地が良いので高そうだ。

 

 

 今は一緒にシャルのベッドにいる。

 一応客室は用意されているのだが、シャルが一緒に寝ると言って譲らなかった。

 

《契約ってどうやるの? やっぱり何か長い呪文を唱えたりするの?》

「ふふっ、そんなことしないわ。 決められた魔法陣があってね、それを自分の手の甲に特殊なインクで描いて、契約したい魔獣に魔力を流して貰って終わりよ。簡単でしょ? まあ、そんな簡単なことも私には出来ないんだけどね」

 

 魔獣に魔力を流して貰うことで魔法陣が定着し、その時点で主従関係も成立して成功となる。しかし、魔獣に拒否されると魔力の流れなかった魔法陣は消えて失敗になるようだ。

 なので契約前に、ある程度魔獣と親密になっていた方が成功率は高い。

 シャルは拒否はされないものの、何故か魔法陣が定着せずいつも失敗してしまうらしい。

 

「お父様が言うには、二重契約の時の拒否反応に似ているらしいの」

《二重契約?》

「基本的には契約は1人につき1体になっていて、2体目と契約しようとすると、上手くいかずに魔法陣は消えてしまうみたいなの。でも私は他に契約している訳ではないし……。 才能がないのかしらね」

《シャル……》

 詳しいことを知らない私には、何も言ってあげられないのがもどかしい。

 

「ごめんなさい、せっかくのお泊りがこれでは楽しくなくなっちゃうわね! そうだわ! 明日迎えに行くカミールのお友達はどんな子なの?」

 

 その後はアイビーの話をしたり、シャルの婚約者の話を聞いたりしているうちにシャルは寝てしまった。

 私は話を聞きながらも、何処か上の空だった。

 

 シャルが契約出来ない理由が何か絶対にある。才能がないなんてことはない。

 自分でもよく分からないけれど、何故かそんな確信があった。

 そんなことを考えながらも、私も眠りについた。

 

 

 

 

______

 

 

 次の日、支度をして外に出ると馬車が待っており、お礼を言って馬車に乗り込もうとした所で屋敷の陰からライリーが歩いてくる。どうしたのかと思っていると、なんとその後ろからはアイビーまで現れた。

 

 ライリーとアイビーって名前が少し似てるわね。

 

 今は関係ないことを考えながら2匹に近づいて行く。シャルも驚きつつも付いてきた。

「ずいぶん大きな猫ちゃんね。お父様が新しく保護してきたのかしら?」

《シャル、この子はアイビーよ。私のお友達。 迎えに行かなくて済んだみたい》

 

 私でも少し見上げるくらいの大きさはシャルにはさらに大きく感じるだろう。笑いながら言った私の言葉にシャルはまた驚いていた。

「えっ!? カミールいつの間に連れてきたの?」

《私は何もしてないわ。影を通して話を聞いていたのか、夜のうちにきっと自分で来たのね。アイビーは頭がいいから》

「それは凄いな。君には昨日から驚かされてばかりだよ。 それにしても本当に大きいな」

 

 パーシスが呼んで来たのか、いつの間にか後ろには公爵様がいた。

《公爵様、おはようございます。 アイビーは大きいですが、気性は穏やかで滅多に人を襲うことはありませんので》

「滅多に?」

《あ、ええと、森を荒らすような人が居ますと、少し……》

「成る程、森の番人か」

 

 どうやら森の番人などと言われている恐ろしい魔獣は、アイビーのことだったようだ。

 

 

 その後、公爵様もアイビーも来たことなので場所を移し、すぐに契約に取り掛かることになった。

 魔法陣は見たことすらない私に変わって、シャルが丁寧に描いてくれた。

「契約は何回もやっているから、描くのは得意なのよ」

 笑顔で自虐しながら。

 

 出来上がった不思議な紋様と文字で描かれた魔法陣をアイビーに向けると、分かっているのか近づいて額を当てると魔力を流してくれた。

 

 すると淡い発光とともに魔法陣が少し浮き上がり、1列になるように手首に上がってくると、ぐるりと巻きついた。

 そのまま光が落ち着いてきたところで、ガラスの割れるような音と共に紋様と文字が弾けて消えた。

 

 

「私と同じだわ……」

 静まり返る中で、シャルの声がよく聞こえた。

 

 

 

 

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