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4 - お姉様と呼ばないで

今日の2話目です。

 

 

 最初は行くことを渋っていた彼女も、周りの子供たちのお願いに負け、最後には頷いていた。

 その後少し院で遊び、今は私の前をたくさんの子供たちに囲まれ楽しそうに話をしながら歩いている。

 隣はもちろんラナが確保している。

 

「何があったかは知らないけれど、少しは元気になったかしらね?」

 母もやはり気づいていたようだ。

「あなたは相変わらず、人の弱った顔に弱いわね」

 その言葉には思わず苦笑いを零しながら、賑やかな方へ視線を向ける。

 やっと見れた彼女の本当の笑顔に安心する。

 

 

「すっごいカッコよかったー!」

「うんうん! すごかった!」

「あたし王様初めて見た! 王妃様綺麗だったな〜」

「「でもやっぱりメルヴィル王子!」」

 

 広場に着いた後みんなが見れるよう場所を確保し、少し経ってから現れた騎士様や王族の方たちにみんな興奮しっぱなしだった。ここでもやはり、女の子たちは王子に夢中らしい。

 私はこの前のこともあり周りに注意しすぎて見事に見逃してしまった。

 まあ、もともと然程興味もなかったので悲しかったりはしない。

 

 帰り道、興奮しながらそれぞれ話す子供たちの中に、何故かまた暗い表情をしたシャーリーンを見つけた。

 気になったので、もう院の近くまで戻って来ていたこともあり、母に一言断りを入れてからみんなに簡単に別れを告げてシャーリーンを連れ出した。

 

 

 なんだか今日は彼女を引っ張ってばかりな気がするわね

 そろそろ怒られるかしら?

 

 ここは街のはずれ、孤児院の近くにある川の畔り。少しは手入れされており、置いてある石で出来た簡易ベンチに2人腰掛ける。

 

 2人で少しの間、川の流れを見ていた。

 太陽も座った目線の高さまで落ちてきた。

 

「今日はありがとう、凄い楽しかったわ。ふふっ、子供ってあんなに元気なものなのね」

 また無理して笑っている彼女の頬を両手で挟んで首を振る。

「……。不思議ね。会ったばかりなのにあなたの言いたいことが分かるし、あなたには私の心が見えているみたいに感じるわ」

 

「あなたになら話せるかもしれない。聞いてくれる?」

 

 そう言ってゆっくり話し始めた彼女の話は、私には無縁だったはずの貴族様のお話だった。

 

 

 彼女が先日17歳の誕生日を迎えた時に、結婚の話が出たらしい。結婚といってもすぐという訳ではなくまずは婚約だったらしいが、彼女には小さい頃から好きな人がいた。

 その彼も婚約すると聞き、諦めるためにもこの話を前向きに考えることにしたのだが、相手を教えて貰えなかった。そして昨日、やっと教えられた相手が彼女の片想いの彼だったらしい。

 

 

 私は彼女が17歳ということに驚いた。小柄なため少し幼く見えるからだ。

 彼女は隠しているつもりだったのだろうが、仕種や言葉遣いから貴族なのはなんとなく分かっていたので驚かない。

 ここまで聞くとただの幸せそうな話だが、やはりそれだけではないらしい。

 

 

 彼は見た目も性格もとても素晴らしく、大変人気があったため、その婚約者となった彼女に対する女性の当たりがとても強かったらしい。

 もともと少し人見知りの気があり、その上何故か遠巻きにされていた彼女に親しい友人は居らず、庇ってくれる人も身内以外いない。

 その中で『落ちこぼれのくせにあの人の隣に立つなど烏滸がましい』と、自身でも薄々感じていたことを言われたのが1番堪えたようだ。

 一晩たった後も頭からその言葉が離れず、思わず家を飛び出したものの行く宛てもなく途方に暮れていたらしい。

 

 そこを孤児院に向かう途中の私が見つけたようだ。

 

 なかなかに繊細で難しい内容にどう励ましたらいいものかと悩んでいると、彼女は少しすっきりした様子でお礼を言ってきた。どうやら話を聞いて貰うだけでよかったらしい。

 

「私ね、今までこんなこと話したり出来る相手って1人も居なかったの。いつも相談相手はパーシスとか男の人ばかりで、さすがに恋の話なんて出来なくって。だから、今日あなたに会えて本当に良かったと思うわ」

「もし、良ければなのだけれど……。またこうして会って、話を聞いて貰えないかしら? あ、嫌だったらはっきり断って貰って構わないわ! 今日この時だけでも充分助けられたもの」

 

 そう言う彼女はなぜか儚げで放っておけない。彼女の周りの相談役の男性陣もきっとそうなのだろう、彼女は何故だか守ってあげたくなる。

 

 私は微笑みながら彼女に頷いた。

 話を聞くことだけで彼女が救われるならば、喜んで会いにこよう。

 

「それは、また会ってくれるということ? 本当に? 嬉しい! ありがとう! カミール、と呼んでもいいかしら? 私はシャルでいいわ!」

 途端に元気になったシャルに吃驚する。

 表情がコロコロと変わる可愛らしい人だ。

 

「私たちもう友達よね? あ、でもカミールは歳上のようだしお姉様の方がいいかしら?」

 その言葉には流石に反対して友達にして貰った。貴族の娘に平民の私がお姉様と呼ばれるのは流石にまずいと思う。

 

 友達なら多分ぎりぎり許されるよね?

 

「本当に今日は素敵な日になったわ! また絶対会いましょうね、約束よ!」

 シャルが私の手を握り微笑みながらそう言った、瞬間。

 パチッと小さな静電気が起こる。

 途端に目の前が急に暗くなり意識が遠のいていく。

 

 

 

 

“1人ってやっぱり寂しい”

“僕がいるじゃないか”

“——にはここでしか会えない。ここを出たら私はまた1人よ”

“じゃあ次はずっと一緒に居られるようにしよう”

“次?”

“そう、次。来世とでも言おうか?”

“来世……。うん、約束よ”

“うん、約束”

 

 

 

 

 

 

「カミール!?」

「シャル? どうした?」

「パーシス! 分からないのっ、ただ話をしていただけなのにっ! 急にカミールがっ!」

「シャル、分かったからまず落ち着け。理由はよく分からないけど、ただ眠っているようだ」

「本当に?」

「ああ、だから、っ!? シャル! そこを離れろ! くそっ、こっちだっ!」

「え? なに? きゃあぁっ!?」

 

 

 カミールの影から突然出てきたのは、真黒な大きな獣。

 その獣はカミールの服を口に咥えると、2人には目もくれず北の方に走り去っていく。

 

 

 

 

 夕暮れに残された2人の影が長く長く伸びていた。


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