3 - 二度目なら必然
長くなったので2つに分けました。
あの後は全員がどこか上の空で、お祭りもそれなりに楽しめたこともあり帰ることにした。
院に戻ると、それぞれが今日あったことをみんなに話したりして盛り上がっている。
そんな私も先程のことを母に話しているところだったりする。
「ラナがねえ。最近は冒険譚にはまってたから、お姫様のピンチに思わず駆けつけてしまったってとこかしら? ラナもやるわねえ」
母の軽い返事に思わずため息を吐いてしまった。
「ふふ、冗談よ。昔からお祭りの騒ぎに紛れて、そういったことをする人がいると聞いたことはあったけれど、実際に遭遇してしまうとはねえ。でも、こればかりは絶対に1人にならない、暗い路地には近づかない、ってことを特に気をつけさせるぐらいしか私たちには出来ないわ」
「だから例え今日あの子たちと一緒にいたのが私だったとしても、結果は同じでしょう。カミールが気にすることではないわよ。それよりも! 帰ってきたらあなたに渡そうと思ってた物があるのよ。今持ってくるわね」
母には私が少し落ち込んでいたのが分かっていたらしい。さり気なく励まされた上に、話も見事に逸らされてしまった。
少し気が楽になり、母がくれるらしい物が気になる私はきっと単純なのだろう。
「はい、これよ」
そう言って渡された物は、私の両の掌を開いた程の大きさの木箱であった。
特に変わったところはなく、中は空っぽだ。鍵穴がある分、きっと私が持ってるものよりは良いものなのだろうが。
「これはね、私が昔祖母に頂いたものなのだけれど、とても不思議な箱なのよ」
そんな大切なもの貰えないと、箱を返すがまた戻される。
「きっとあなたには必要だわ。カミール、カザルムさんに売ったクツァールの羽だけれど、あなたまだ持っているのではない?」
母の言葉に驚いたが、長く一緒にいたのだ、私のことはなんでも分かるのだろうと頷き、鞄の奥に隠した羽2枚と、さらに飾り羽も1枚取り出す。
「まさか飾り羽まであっただなんて……。ふぅ。これはね、さらに貴重な物で、普通の羽の3倍程の値がつくのよ」
こっちの方が高いだろうとは思ったが、呑気に手首にでも巻こうかと考えていた自分が恥ずかしい。
「あなたが私欲の為に、無闇に売りさばいたりしないことは分かっているけれど、それならば尚更保管はしっかりしなくてはいけないわ。何かの拍子にこの羽があなたのところから出てきては、きっと大変な騒ぎになるでしょう」
家に隠しておけば大丈夫だと思っていたが、確かにあの家ではいつ泥棒に入られても可笑しくはない。他にも、今日のように荷物に引っかかったりと何があるか分からない。
確かに、もっと真剣に考えなければいけないのかもしれない。
「あら、少し威かしすぎたかしら? 落ち込むことはないのよ、その為にあなたにこの箱を渡すのだから」
どういうことだろうか? 木箱に何かあるのだろうか?
「取り敢えず、羽を箱の中に入れて蓋を閉めて。そしてこの鍵を差したら1回右に回して、蓋を開けてご覧なさい」
よく分からないまま、言われたようにする。
鍵を差し回したところで、鍵のかかる感覚は無く、不思議に思いながらも普通に開く蓋を持ち上げる。
中は空だった。
え? 羽がない。え?
「ふふ。驚いたでしょう? この箱には珍しい空間魔法が掛かっているらしくてね、箱の蓋を閉めて鍵を右に回すと中身をどこか違うところに隠してしまうのよ。左に回せばまた戻ってくるわ」
蓋を閉め鍵を左に回し、また蓋を開けて見れば確かに羽があった。
こんなに便利で凄いものが何故出回っていないのか気になったところ、空間魔法が珍しいのと鍵が原因との事。
この箱の鍵は型などはなく、作り直すことも出来ないため、鍵を無くしてしまったら使えないどころか中身も2度と戻ってこないらしい。
「だから鍵だけは、くれぐれも無くさないように気をつけるのよ。あなたはしっかりしているから、その辺りは大丈夫だと思うけれど」
______
今日はお祭りの3日目。最終日だ。
あの日は私もいろいろと疲れたので、2日目のお祭りに行く子たちにお小遣いを渡し、母がくれた木箱を持って帰宅した。
家に帰った後食事と入浴を済ませ、木箱の中に今まで集めた羽とお金も入れ鍵を回し、鍵は紐を通して首からぶら下げることにした。肌身離さず持っているのが1番だろう。
その日はそのまま眠りについた。
次の日は、少し遅めに起きてから家の片付けをした。何かあれば箱に入れようと思ったのだが、特になかったのが残念だ。
仕事も休みなのでそのままのんびりと過ごし、前日の疲れと翌日の体力温存の為、やはり早く寝た。
そして今はお昼を少し過ぎた頃。
真上にある太陽を遮るものはなく、とても気持ちのいい天気だ。
街の方に近づいてきたところで、少し前に何だか見覚えのある後ろ姿が。
落ち込んでいるのか、体調でも悪いのか、その足取りは覚束ない。
少し急ぎ足で近づいたが気づかないようなので軽く肩をたたくと、急に現れた人に驚いたのかピンクゴールドの髪が舞い、見えた茶色の瞳は見開かれていた。
驚かせてしまったことに頭を下げ、少し距離を取ると指を1本立て首を傾げる。
「あ、あなたはこの間の。え? 1? えっと、あ! 1人?」
まさか通じるとは思わず、聡い彼女に頷きながら周りを見る。
「パーシスなら多分どこかから見ていると思います、一応護衛なので。今日は、少し1人になりたくて」
何故か悲しそうに笑う彼女にこちらが辛くなり、私の目線より少し下にある頭を思わず撫でてしまう。
驚いた顔に私も驚き手を離すが手遅れだ。
「ふふっ。頭を撫でられるなんていつぶりかしら。なんだか照れくさいわ」
そう言いながらも、やはり何処と無く悲しげな彼女の手を掴み歩き出す。
行き先はもちろん——。
「あっ。カミール。俺母さん呼んでくるよ」
「カミール来たの? どこどこー?」
「あー本当だ! あれ? お姫様もいるよ! ラナー! お姫様が来たよ!」
今日もここは賑やかで、とても癒される。
歩き始めは驚き戸惑っていた彼女だけれど、少し経つと大人しく着いて来ていた。
着いた場所を見てまた驚いていたけれど、子供たちに囲まれて少し嬉しそうだ。
「お帰りなさい、カミール。あら? そちらのお嬢さんは?」
奥の部屋から出てきた母の言葉に、私の方を軽く見た後優雅な仕種で礼をする。
「初めまして、私シャーリーンと申します。カミールさんとは一昨日に一度お会いしまして、今日も偶然お会いしたところ、こちらへ連れて来て下さいました」
「初めまして。私はここで子供たちのお世話をしているミモザです。先日の話はカミールの方からだいたい聞いています。大変でしたでしょう?」
「いえ、私こそご迷惑をおかけしてしまい……」
「いいのいいの、大丈夫よ。 そうだわ、今日はこれから子供たちと広場へ行く予定なのだけれど、シャーリーンさんもご一緒にどうかしら?」
母もシャーリーンの表情がどことなく陰っているのに気が付いたのか、私の考えていたことを言葉にして彼女に伝えてくれる。
気分が落ち込んでいる時に子供たちと遊ぶのはいい。無垢で無邪気な彼らと一緒にいると心がとても癒されるからだ。それはきっと私だけではないはず。




