2 - お姫様と王子様?
今日から3日、ここラドフォード王国は建国記念日のお祝いのため、どこもかしこもお祭り騒ぎになる。
王都ではこの日ばかりは財布の紐が緩くなる人が多く、そこを狙った商人たちが各地から集まってくる。その商人たちの持寄る各地の珍しい物などにつられさらに人が集まってきたりと、盛り上がりは凄まじいものだ。
2日目は王宮にて王家主催のパーティーがあるが、参加できるのは勿論貴族のみのため私たちには縁も関係もない。
だが、3日目に国王自らが民との交流と称して馬車に乗り街を見回るのだが、これが大変人気だった。
国王が出歩くのだから当然護衛の数は多く、騎士たちの真白な正装での一糸乱れぬ歩みは、さながらパレードのようになる。
滅多にお目にかかれぬ王宮勤めのエリート騎士に加え、見目麗しい王族の方々。盛り上がらないはずがないだろう。
特に第一王子のメルヴィル様は、金髪碧眼の完璧王子で凄い人気らしい。
「聞きまして? メルヴィル様婚約するらしいわよ!」
「聞きました! なんでも明日のパーティーでお相手の発表があるとか。あーん! 私の王子様がー!」
「まあまあ、所詮私たちでは——」
すれ違いざまに聞こえてきた貴族のお嬢様たちの話に思わず苦笑い。
私たちは今王都の街の中央、普段は噴水があるだけの広場に来ていた。露店や人の多さに普段の静かで落ち着く面影は全くない。
「カミール見て! なんかあっちに変なお面が売ってるよー!」
「いてっ!」
「それよりもこっちにあるやつ食べたーい!」
「あそこにいるのなんだろう?」
「わっとと!」
「この服凄い可愛い〜!」
「こら! お前たちバラバラに動くな! はぐれたらどうするんだ! ラナは前を向いて歩け! その内転ぶぞ!」
本当に賑やかだ。
あの後、臨時収入が入り今日がお祭りということもあったため、話し合いの後、施設の10歳以上の子の半数を連れて街へ出てきた。残りの半数の子は明日母が連れて行き、10歳以下の子はまだ危ないため3日目のパレード(のようなもの)をみんなで一緒に見物するのみになる。
人の多いところは余り好きではないのだが、普段以上に興奮してはしゃいでいる子供たちを見ると、来て良かったと思える。
毎年この日は人も多く、迷子になったり事件などに巻き込まれては困るため、街の中央までは出てこない。少しはずれた落ち着いた辺りでお菓子を買ったり、気持ち豪華な料理を食べるくらいだ。
文句や我儘を聞いたことはないけれど、羨む気持ちや憧れはやっぱりあったのね。
今日はたくさん、楽しませてあげなくちゃ。
5人の子供を集めてそれぞれに叱っている男の子の頭を撫でる。
この中での最年長、今年14歳になるエルマーはとてもしっかりしているみんなのお兄さんだ。
みんながこちらを見たので1人ずつ指を差し、順番を伝える。
これで伝わるのが本当にありがたい。
「やった! 最初は僕のところだ、早くいこう!」
「しょうがないなあー」
「こら! だから勝手に走るな!」
「待ってよぉ〜!」
「みんな元気だなあ。まあ、僕もカミールと遊べて嬉しいけど!」
にこにこ笑うコリンは本当に可愛いくて、柔らかい黄色の髪の毛を撫で回す。
「わあ〜! だからくしゃくしゃになるってば〜!」
はしゃぐコリンと、まだきょろきょろしているラナと手を繋いで4人の後を追いかける。
子供の体力は恐ろしいと思う。
走り回っている彼らより私の方が疲れている気がするのは何故なんだろう?
一度飲み物を買って喧騒からはずれ、路地の側で休憩することに。
「ねえねえ、次どこ行くー?」
「今休憩してるところだろう? 少しは落ち着けよ!」
「でも初めて見るものばっかりだし、しょうがないよ! 気になるものばっかり!」
「コリンお前まで……。ん? ラナ? どうしたそんなとこ見つめて」
「なんか聞こえた気がして……」
「え〜? 路地の方から? 猫とかじゃないのぉ?」
「違う。……! やっぱりなんか聞こえる!」
「え!? ちょっ! ラナ待ってよー!」
「おい!? 待てって! くそっ、なんでこういう時は転ばないんだよ!」
突然のラナの奇行に驚きつつも、みんなで急いで路地に入っていったラナを追いかける。
少し奥に進むと確かに声が聞こえてきたが、あまり宜しくないようだ。全員気付いたのかペースが落ち、伺うように歩みを進める。
どうやらそこの角を曲がったところのようだ。
「止めて下さい! なんなんですか!」
「何ってなんだよぉ。俺たちは頼まれた通り道案内してるだけだろぉ?」
「触らないで下さい! 確かに道はお聞きしましたが、案内までは頼んでいません! なのにこんな所に」
「おいおい。俺たちの住む場所をこんな所呼ばわりかよ〜! さすが貴族様は違うね〜」
「! わ、私はそんなつもりで言った訳では! それに貴族だなんて……」
「どんなつもりかは、別にどうだっていいんだよ。ただあんたには俺たちの相手をして貰った上で、持ち物を置いていって貰おうか? 勿論、その服も全部な」
「ひゃひゃひゃ! そうだ服も全部置いてけよぉ? ほら、早く脱げよ!」
「何言って!? いや! 離しなさい! 誰かっ!」
話を聞いているとどんどん危ない方に進んでいく。彼女は確かに可哀想だが、子供たちを危険に晒してまで助ける義理はない。
幸いこちらには気付いた様子もないので、このままみんなを促して立ち去ろうとした所で、一際大きな悲鳴が聞こえた。
次の瞬間、1番前で様子を見ていたラナが飛び出したのが目の端に映る。
ラナを追いかけみんな出て行ってしまい、それに吃驚したのか止まった男たちと、彼女の間に私も入り距離を取る。
大の男3人に対して女2人に子供が6人。状況は最悪だ。
「お姉さん、嫌がってる! 悪いことは、や、止めなさいよ!」
「……。ぶっ!」
「ぶはっ! あははは! いきなりなんだい嬢ちゃん、俺たちは悪いことなんてなんにもしてないぜ〜?」
「嘘つけ! 俺たちずっとそこで見てたんだからなー!」
「こら! 余計なこと言うなよ!」
「いてっ!」
「なんだ、坊主たち見てたのか。なら当然、一緒に出てきた姉ちゃんも見てたんだろ? これは、ただで帰す訳にはいかねえな」
「そんなっ! こんな子供たちまでっ!」
「あんたもついてねぇな、助けを呼んで、来たのがこんなガキばっかりとはなぁ! ひゃひゃひゃ!」
ラナは頑張って彼女を守ろうとしている。他の子供たちもそうだが、数は多くても所詮は子供。
男たちは余裕の表情で、むしろ私という獲物が増えたからか、先程よりも活き活きとしている。実に嬉しくない。
建国記念日という日のせいか路地に人影は全く見えず、表の騒がしさに紛れてしまい助けは望めないだろう。
今日はみんな凄い楽しんでたし、こんな事なければいい日になるはずだったのに。
あの人たちさえいなければ……
足下の私の影が揺らめく——
「はいはーい、そこまで。おじさんたち離れてくれる?」
「パーシス!」
「全く、お嬢さん何してんですか。少し目を離したらすぐこれなんすからー」
「うっ。ごめんなさい」
「おいおい、またガキが1人増えたぜー。まあ? お兄さんたちは優しいから? 遊んであげてもいいけど、なっ!」
「おっと! いきなり殴るなんて酷くないっすかー? しかもお兄さんてとこ強調してるけど、どう見てもおじさんでしょ、っと! はい1人終わりー」
「なっ!? この糞ガキっ! ぶふぉっ」
「お前らガキ1人に何してんだよ! くそっ、こうなったら……? !?」
「もしかしてコレ、探してるー? 危ないなあ、鞘のないナイフなんて持ち歩いて。怪我するといけないからさっき貰ったよー?」
「っ! くそっ、こんなはずじゃ……うっ」
「逃すわけないでしょーが」
なんだかとても凄かった。
急に男たちの背後から出てきたと思ったら、あっという間に終わってしまった。
今は何処から出したのか、縄で縛り付けている。
「パーシス! ごめんなさい、助かったわ」
「これが仕事なんでねー。それよりも……」
「あっ! 私ったら、助けて頂いたのにお礼も言わずっ! あなたたちもありがとう。怖かったでしょう? ごめんなさいね」
「僕たちはラナに着いてきただけで何もしてないし」
「うん。ラナかっこよかった〜!」
「そうだ! ラナ危ないだろ! 今回はこのお兄さんがいたから良かったものの!」
「お姫様と王子様……」
「あははっ! 聞こえてないみたいだ!」
「ラーナー!」
ラナは2人を見つめて恍惚としている。
確かに少女の方は、ピンクゴールドの綺麗な髪に明るい茶色の大きな丸い瞳。青年の方も菫色の髪に紫色の瞳と、とても美麗で、絵本好きのラナがお姫様と王子様に2人を重ねて見ても不思議はない。
エルマーの言うとおり今回は運が良かっただけだが、ラナの頑張りも本物なので頭を撫でながら改めて2人に頭を下げ、お礼を伝える。
「全員無事なようでよかったよー。うちのお嬢さんが巻き込んだみたいでホント申し訳ないね。まあ、もしかしたら俺が来なくても大丈夫だったかもだけどさー。そうでしょ?」
え? 何で私を見るんだろう?
まさか戦えそうに見えるとか?
なんだか笑ってるのに笑顔が怖い人。
「あ、えっと、カミールは声が出ないので会話はちょっと、あの、出来ない。です」
「「え?」」
「あ、えと、こちらこそパーシスが失礼を。
えっと、こんなところにずっといるのもあれですし、子供たちにもよくないですし、えっと、警備隊を呼んで後は終わりですので、はい……」
「ふぅー。すみませんでした。後はこちらでやりますので、もうお引取り頂いて大丈夫ですよ。今日はせっかくのお祭りですしね。ありがとうございました」
気を利かせたエルマーの言葉に気まずくなったのか、突然喋り出した少女の話を纏めて笑顔で話すパーシス。
帰っていいとのことなので、遠慮なくそうさせて貰う。子供たちもいるし、何より彼は苦手だ。
最後にもう一度頭を下げてから表へ続く道を進む。突き刺さるような視線を感じるのは気のせいだと思いたい。
「もう! パーシス最低! デリカシーなさ過ぎよ!」
「いやいや。声が出ないとか、さすがに予想出来ないでしょうよー」
「それはそうだけど。でも! あの質問はなんなのよ? 俺がいなくても〜ってやつ!」
「ああ、あれは……。シャル、お前は何も感じなかったか? あの時、あの女に」
「え? 特には何も……。私も冷静ではなかったから曖昧だけれど。何かあったの?」
「んー、いや。俺の気のせいかもしんないなー」
「ま、とりあえず警備隊呼んでこないとだな。目が覚めたらそれはそれで面倒くさい。シャルにも当然着いてきて貰うからな」
「ここで待つだけなら大丈夫よ! 目が覚めたら面倒くさいのでしょう?」
「待つだけのことも出来ないのは誰だっけなー? それに目が覚めた時にシャル1人とか、さらに面倒くさいでしょうがー」
「うっ。分かりました。行けばいいのでしょう!」
「そういうことです」
少し奥まった路地での男女の会話。
2人は一体何者なのか、次があれば分かるだろうか。




