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1 - 森の精

「おしまい」

 

 絵本が終わり「わー!」とか「きゃー!」なんて言葉と一緒にみんな手をたたく。

 女の子は最後の結婚式の絵にうっとりし、男の子は神獣の絵に興奮している。

 普通の子供の反応はこういうものなのだろう。自分に嘲笑しつつ子供たちを見れば微笑ましくなる。

 

「これはこの国のお話です。 神獣様のお力は今も、私たちを見守って下さっています。 そして明日は建国記念日、今日から3日間神獣様と巫女姫様を祝ってこの国はお祭りになります。 みんなも楽しむのはいいけれど人も沢山集まってくるので、問題とか起こさないようくれぐれも気をつけて頂戴ね。 1人で出歩かないこと、変な人について行ってはダメよ」

「「は〜い!」」

「よろしい」

 

「あら?  カミール!  来ていたのね、お帰りなさい」

 そう言って微笑んでくれる母に、私も少し照れながらも笑みを返す。

 私はもうここを出たけれど、未だに顔を出した時には『お帰りなさい』 と言ってくれる。

 

「カザルムさん今日はもう見えてるのよ。 息子さんも一緒みたいで、今は応接間で子供たちの相手をしてくれているわ。 行きましょうか?」

 母の言葉に頷きついて行く。

 

 そう、ここは身寄りのない子供たちの集まった孤児院。

 私も産まれてすぐに親に捨てられたらしく、運良く母に拾ってもらい成人となる17までここで過ごした。

 

 母、ミモザさんは子供が産めない身らしく、私たちのような子供を引き取っては自分を母と呼ばせ育てている。

 彼女は本当に素敵な人で、成人してここを出てからもみんなよく遊びにきては母の手伝いをしながら恩を返している。

 母も40歳半ばを過ぎ、まだまだ元気ではあるが体が心配なのも理由の一つである。

 

 

 ここの孤児院は街はずれの方にありながらも、一応王都のある街にあるため国からの援助はもちろん、言い方はよくないが民衆の支持欲しさに貴族からの援助がたまにある。

 もちろん善意でしてくれる人達もいるが、援助の仕方によって人となりはよく分かるものだ。

 

 その為、ここの孤児院は子供の数は多いがそういった貴族やここの出身の者たち、さらには母の知り合いの助けもありそれなりに普通の暮らしが出来る。

 

 今から会うカザルムさんは商人をしており、母の知り合いで私たちの生活を助けてくれる人達の1人だ。

 日用品や消耗品、食材から古着までいろいろな物を破格の値段で売りに来てくれる。

 この辺りでは1番大きくて有名なカザルム商会の会頭をしており、なかなかの遣り手らしい。

 そんな人と母が何故知り合いなのか不思議ではあるが、母に聞いても友達だとしか教えて貰えない。

 

 私も北の森で採れた物などを買い取って貰い、それで生計を立てたりと、今でもとてもお世話になっている。

 

 

 応接間に着くと、戸惑いながらも子供たちと遊ぶ優しそうな少年? 青年? それをソファーに座りながらもこれまた優しげに見つめる、陽だまりのような男性がいる。

 

「お待たせしましたカザルムさん、カミールが来ましたよ。 ジルさんもありがとうございます」

 この施設には基本的に扉がついていないため、入り口横の壁をノックし母が声をかける。

 

「いえいえ、私らが早く来てしまっただけですから。 それに仕事柄子供の相手をすることもあるので、息子にはいい経験になりましたよ」

 

 どうやらあの人がカザルムさんの息子さんらしい。茶髪に鳶色の瞳と外見も雰囲気もそっくりだ。

 

 子供たちは、母と私が来たところで2人にお礼を言いながら部屋をでていく。

 相変わらず母の教育は見事である。

 

「カミール久しぶりだね、今日もよろしく頼むよ」

 

 朗らかに話しかけてくれるカザルムさんに私の頬も緩みながら頷く。

「そうだ、 先にミモザには紹介したのだけれどこれは私の息子でジル。今年17で成人を迎えることだし、私に付いて少しづつ仕事を覚えさせているんだ」

「ジル、彼女はここの出身で私たちのお得意様であるカミールだ。くれぐれも粗相をしてくれるなよ」

 

「ジルです。 まだまだ仕事について分からないことも多く未熟ですが、よろしくお願いします」

 カザルムさんの大袈裟な紹介に驚きつつも笑顔で挨拶をしてくれる彼はとても誠実そうだ。

 私も慌ててお辞儀を返すが、沈黙。

 

 

「カミールは声が出ないんだ」

 

 

 気まずい雰囲気になる前にカザルムさんが説明してくれる。

 そう、私は何故か産まれた時から声が出なかった。

 お医者様に見て貰ったが特に異常もなく、理由が分からないらしい。

 小さい頃はとても不便で苦労したけれど、母やここのみんなの優しさに救われ表情や身振り手振り、文字での意思疎通でなんとか過ごしてきた。

 

 一応他の方法もあるのだけれど、特殊な上に使える相手も限られてくるから滅多に使わないのよね。

 

 今では声が出ないことを悲観することはないが、相手に申し訳なく思うため知り合い以外にはあまり関わらないようにしている。

 

 

「そうだったんですね。 私とは話したくないのかと思いましたが、違ったようで良かったです!  まだスムーズに会話するのは難しいですが、その辺も勉強しますので改めてよろしくお願いします」

 

 少し照れたように笑いながら差し出された手を見つめる。

 

 カザルムさんと一緒で本当に優しい人。

 この人とならこれからも上手くやっていけそうね、なんだか可愛いし。

 こちらこそよろしくお願いします。

 

 久しぶりに触れた人の優しさに心が暖かくなり、私も笑顔で手を握り返した。

 

 

「挨拶も終わったところで、商談といこうか」

カザルムさんの言葉にそれぞれがソファーへ座る。

 そのタイミングで母が奥の調理場から私と母、カザルムさんとジルの新しい紅茶を運んで出してくれる。

 全員が座ったところで、肩がけ鞄の中から今日の朝森で採ってきた物をテーブルの上に置いていくと、分類のためそれぞれ小分けしてある麻袋の中身をカザルムさんが確認し、頷くとジルにも渡している。

 

「いやー、相変わらず素晴らしいね。 今日も全て買い取らせてもらうよ」

「本当に凄いです、全て質が良いですね。しかも珍しい薬草や木の実がこんなに……いったいどこで?」

 

 その問いにカザルムさんに視線を向ければ、一つ頷いて説明してくれる。

 

「北の森だよ。カミールはいつもそこで、これらを集めて来るんだ」

「北の森!? あの森は魔力が満ちていて入ったら最後、よほど運がよくなければ出てこれないって……それに恐ろしい森の番人もいるとか!そんな危険な森に?」

「詳しくは私も教えて貰ってはいないが、あの森はどうやらカミールには危険ではないらしい。現に、こうしていつも森の薬草などを持ってきている」

 

 そう。良くない話ばかり聞くけれど、なぜかあの森は、あの森の子たちは私に優しい。

 恐ろしい森の番人なんて、もちろん出会ったこともない。

 

 カザルムさんから薬草などの代金を受け取る際、麻袋を出す時に服に引っかかっていたのか朝拾ってきた羽が1枚テーブルに落ちた。

 

「「……!?」」

 

 え? なに? 何かした?

 

「その羽は……どうしたんだい?」

 何故か3人共が驚いており、その反応に私も驚く。

 取り敢えず羽を仕舞おうと羽を持つと落ち着いたのかカザルムさんが話しかけてきた。

 

 母に目を向ければ、紅茶と一緒に持ってきてくれた水の入った小さなカップをくれる。

 その中に人差し指を入れ、テーブルの上に文字を書いていく。

 

「も…り…で…ひ…ろ…。森で拾ってきたんだね? 成る程……あの森にはクツァールがいるんだね」

 カザルムさんの言葉に頷きつつ、聞きなれない言葉に首をかしげると説明してくれる。

 

「クツァールっていうのは、この羽の持ち主の名前だよ。全身が碧色の綺麗な鳥じゃなかったかい? なら間違いないね。この鳥は人間嫌いで有名でね、でもこの通り羽は凄い綺麗だから貴族様たちに凄い人気で。羽だけでも3万マルクくらいで売れたりするんだ」

 

 そのとんでもない説明に驚きつつ、さっきの3人の反応に納得する。

 3万マルクもあれば今の私の生活水準ならば、余程のことがない限り将来は安泰だからだ。

 

 困った……。鞄の中にまだあるし、家にはもっと沢山あるなんて、とてもじゃないけど言えない。髪飾りとかも作ってる場合じゃないし……まだ作る前で良かった。

 

「この羽も、売って貰えないかな?」

「おい! 父さん!」

 

 1人で驚いたり焦ったり安心したり、忙しくしているとカザルムさんから声がかかった。

 

「実は他のお客様に前から頼まれていてね……。お得意様で貴族様だから断ることも出来なくて……でも貴重な品だからなかなか手に入らないし。こんな言い訳ばかりで恥ずかしいんだが……」

「カミールさんだって綺麗で欲しかったから拾ったんだ! それを取るなんて!」

 

 何故か落ち込むカザルムさんと激怒するジル。

 正反対の2人に内心少し笑いつつ、話は分かったので羽を差し出す。

 

「え? いいのかい?」

「無理しなくていいんですよ!」

 何故か必死に止めるジルについ笑ってしまったが、問題ないと頷く。

 しかし、いきなりあんな大金を持ちたくない上に、落ちていた抜け毛なので100マルクくらいでいいと伝える。

 もちろん抜け毛とは伝えていない。

 

「「それはダメだ!」」

 ここにきて息の合う親子に笑いが止まらない。

 

 なかなか納得してくれなかったけれど、これまで良くしてくれたお礼と、これからも仲良くして欲しいということ。私から買ったことを誰にも言わない。なにより100マルクでないなら売らないという言葉に負けたのか、私も少し折れて250マルクで交渉成立となった。

 

 

 今日から3日間はやはり商会としては忙しいらしく、何度も感謝の言葉を繰り返しながら2人は帰っていった。

 

 

 

 

 

 

「今日は偶然だったが凄い物が手に入ったね」

「俺はあんまり嬉しくない」

「カミールが譲ってくれると言ったんだ、あまりぐちぐち言っても逆に嫌がられるよ。それにお前も商人なんだ、チャンスを逃すようなことをするんじゃない」

「だからって、あんなションボリした演技まですることないだろ! 本当、恐ろしいよ」

「商人だからね。なんだ、今日はやけに機嫌が悪いがカミールに惚れたかい?」

「んなっ!?」

「顔は整ってるが、特別美人なわけじゃない。でも笑うと可愛いだろう? あれにヤられる奴が多いんだよ」

「確かに可愛いかった、かも」

「それに、少し珍しい落ち着いた薄緑色の髪、黒がかった緑の瞳。それで北の森を行き来してるもんだから、森の精なんて呼ばれてたりするんだよ」

「森の精……」

「気になるなら早めにアタックすることだね」

「……。別に」

 

 

 

 

 馬車の中、少し悩む青年とそれを楽しそうに見つめる父親のちょっとした会話。

 青年の手には丁寧に包まれた碧色の羽が1枚握られていた。

 

 


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