12 - フィオナ・コートニー
少し照れつつも隣を歩く彼の腕に手をかけ、共に綺麗な花を見ながらゆっくりと歩く。
時折耳元で囁かれる言葉には、赤面しつつも微笑み返す。
「ここにある花も確かに美しいが、君の華やかさには敵わないな」
「まあ、そんな……
《パーシス、さっきからうるさい》
お茶の後、庭園での散歩を楽しむ仲睦まじい2人をテーブルの側に立ち見守っていると、途中から同じく私の隣に立つパーシスが何やら喋りだしてうるさいことこの上ない。
思わず反対隣に居るアルヴィン様と2人、冷ややかな目を向ける。
「あれ? 気に入らなかった? まあ確かにあの人は君とか言わないかー」
《何の話? さっきから一体何してるのよ》
「女の子はあーゆー場面見ながら、台詞を妄想して楽しむって聞いたから試してみたー」
なんだそれは。
誰に聞いたのか聞くと、情報源は城で働く侍女さんたちらしく、彼女たちの間ではそういった遊び?が流行っているようだ。一体いつの間にそんな話をしているのだろうか。
しかし……
《何が面白いのか私にはよく分からないわ》
「まあ、カミールは普通の女の子って感じじゃないからなー」
「おいっ、パーシス! 失礼だろう!」
《大丈夫です。それにパーシスのこういう所、私好きですから》
「えっ!?」
「ね? 普通じゃないでしょ?」
「……。 2人はその、お互いに想い合っている、のか?」
《「え(は)?」》
「いや、だから、恋仲なのかと……」
《! それは、その……。》
パーシスをチラリと見てから、照れたように視線をそらす。
「!」
「こらこら、紛らわしいことしない! 兄貴も勘違いしないで下さいよ。カミールとはそんなんじゃありませんから」
「え?」
《ふふっ、ごめんなさい。パーシスとはただの友人です》
「えっ!? でも、さっき……!?」
本当に可愛らしいお方だ。
反応が素直なので、つい揶揄いたくなってしまう。その為、謝りつつも緩む頬を抑えられないのは許して欲しい。
そういえば、今私の両隣には種類は違えどお顔立ちの整った殿方が2人。
この状況も、少し奥に控えている彼女たちにとっては妄想遊びのいいネタになるのだろうか。
それを話すとパーシスは嫌そうな顔をした。
自分がやったり聞いたりする分にはいいが、自分がやられる立場は嫌なのだとか。
そんな我儘な事を言うから、アルヴィン様から怒られていた。「やるからには、やられる覚悟を持て!」実に本気の説教だった。
ちなみに、パーシスはシャルの従者として護衛を任されるようになってから、シャルが学園に行っている間は城の騎士団に混ざって訓練をしていたらしい。——学園では侍女はいいが、護衛は生徒にならない限り共に行動出来ないようだ。
なんでも、そこの騎士団長を務めるのはアルヴィン様のお父上、ダグラス・マスグレイヴ侯爵様で、旦那様の学友であり今でも交流のある方らしく、パーシスとアルヴィン様共に稽古を付けて貰うことも少なくなく、アルヴィン様の剣技に惚れたパーシスは、彼を兄貴と勝手に呼んで慕っているらしい。
態度からはあまり良く分からないが、本人が言うならそうなのだろう。
それにしても、シャルに続いてアルヴィン様まで言うなんて……そんなに友人以上の関係に見えるのかしら。
男2人で軽く戯れ出したのを横目に、1人そんな事を考える。
「お前たちは何をしているんだ」
呆れたような声が聞こえ、意識を戻すと私たちの主人らが戻って来たようだった。
男たちは放って置いてシャルに話しかける。
《シャル、何だか嬉しそうね? お茶は飲む?》
「ふふっ、そう? お茶頂こうかしら」
______
今私の前には城に務める侍女が数人並んでいる。今日テーブルのセットなどをしてくれた人たちだ。
実は、今日のお茶は隣国より最近仕入れた物らしく、それをとても気に入ったシャルに少し分けてくれるとのこと。
ちなみにこの話をした際、「お前の嬉しそうな顔を見れるならいくらでもやるよ。まあ王城に住んでしまえば、やらずとも毎日見られるんだがな。 それは先の楽しみに取っておこう」などと言って、シャルと何故かアルヴィン様までお顔を赤くしていたことも記しておく。
そして城の侍女に持ってくるように話していたのだが、何故か私も一緒に着いていくことになった。いずれは私も務める場所、少し見学するといいとの事。
「……と言う訳で彼女、カミールさんと誰か保管室に行って頂戴。あ、彼女は声が出ないそうだから」
代表でメルヴィル様の話を聞きに来た彼女の言葉に全員が戸惑う。
喋れない人の相手など、確かに厄介だろう。しかも、王太子殿下の婚約者付きの侍女だ。
私が彼女たちなら距離の取り方に悩むところだ。
そして力については曖昧なことが多い為、あまり口外するつもりはない。
そんな中、1人の少女が前に出た。
「私でよろしければそのお役目、お受けします」
少女の案内で2人並んで保管室へと歩く。
さっき彼女と向かい合った時、目の上と肩の長さに切り揃えられた、水色の髪から覗く薄紫色の瞳には、少しの好奇心が見えた。少し吊り上がった猫目は気の強さを思わせる。
歳はシャルよりも少し下くらいだろうか。
「あのっ、私フィオナ・コートニーといいます。フィオナでいいです。 一応田舎の貧乏貴族でして、あ! 父は男爵です。兄妹が多くて、私は1番上なんですけど13歳になる頃こちらに働きに来ました。今ではもう5年目? になります」
「それなりに長いのですが、年が若いせいかまだ侍女見習いです。なので他のお姉さんたちには頭が上がりません。 あ! だからといって今回このお役目嫌々受けた訳ではありませんよ!」
よく喋る子だ。それにシャルより一つ上だったようだ。
「カミールさんには少し興味があったんです。今日初めて殿下やマスグレイヴ様と会うと伺ったのですが、もうお2人と打ち解けていたようでしたし、何より殿下、マスグレイヴ様、パーシスさん、こんな素敵な殿方たちを前に平然としていられる度胸! 一体どんな素敵な話をされていたのか想像するだけで……っ!」
成る程、彼女は妄想で遊ぶ部類の子らしい。
しかしそれよりも、
《パーシス?》
「はい! パーシスさんも人気あるんですよ〜! 甘いお顔立ちの、優しい彼が時折見せる妖しげな微笑み、主人を常に気遣う忠誠心! シャーリーン様が羨ましいと言う方多いんですよ〜! 私も勿論、その中の1人です!」
なんと……。
ただのへらへらが妖しげな微笑みとは。
怪しいの間違いじゃなかろうか。
それに、主人に常に文句言ってる人が忠誠心。
確かにシャルを大切に思ってるのは分かるが、少々美化され過ぎではないだろうか?
喋っている内に興奮してきたのか、少し息の上がったフィオナを見る。
「それにですね! あれ……。!? い、い、今! カミールさん喋りましたよね!?」
気付くのが遅い。
確かに思わず驚いて言葉にしてしまったが、今気付くとは。
《色々と制限はあるんだけどね、会話はできるの》
「えぇー! すごーい!」
驚いて立ち止まってしまったフィオナを促し、歩きながら軽く説明をする。
そう、公爵家にて毎日誰かと会話をしていた為、歩きながらでも可能になった。
勿論側にいる人にしか聞こえないという制限はあるのだが、十分だろう。ちなみに、数人集まっている中で1人にだけ聞こえるようにすることも可能だ。
最後に、あまり他の人には口外しないで欲しいとも伝える。
「なんでですか? 会話出来た方がやっぱり楽じゃないですか?」
《うーん、簡単に言うなら面倒だからかな》
毎回説明するとなるとやはり面倒だし、この力を不気味がって嫌がる人もいるだろう。
それに会話が出来ないというのは、時に便利な場合もある。そう考えるのは私くらいかもしれないが。
「成る程〜。でもその面倒な説明をしてまで私に教えてくれたなんて感激です! 私、絶対に誰にも言いません!」
瞳をキラキラさせながら、また立ち止まって両手を握りしめながら言うフィオナの頭を撫でる。
最初は事故のようなもので、仕方なく教えたに過ぎなかったが、この反応を見るにこの子は悪い子じゃない。むしろいい子だろうし、教えて良かったと思う。
何より溌剌とした笑顔で私に話し掛けてくる様は、孤児院の子供たちを思い出す。
可愛がりたくなるのも仕方ないだろう。
しかし、彼女はただの女の子ではなかった。




