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11 - 化けるのは女だけじゃない

 

 

 今、私の前には、爽やかな笑みを浮かべながら少し困ったように謝る王子、そして怒ったように横を向き、謝罪を聞き流すお姫様が横にいる。

 

 

 あの後、何とか落ち着いたシャルに腕を引かれるまま一緒に馬車に乗り込み、後からマスグレイヴ様も乗ったところで公爵家を出発した。

 

 それからはずっと、あの通りだ。

 

 シャルは従者が迎えに来ると聞かされていたのに、本人が来た事に怒っているらしい。

 まあ、私の見た殿下のお顔をシャルも見ている筈なので、揶揄われたことに怒っているのかもしれない。

 

 しかし、今の殿下には先の面影が全くない。

 優しげなお顔で「早く逢いたかった」「待っていられなかった」等と甘い言葉と共に謝罪している。

 シャルも元々そこまで怒っていなかったのだろう、殿下の言葉に耳まで赤くさせて、もう陥落間近だ。

 

 そこで私はまた見てしまった。

 次は恥ずかしさから顔を背けているシャルを、殿下が爽やかではなくどことなく意地悪な笑みを浮かべて見ているのを。

 やはり最初の笑みも見間いではなかったようだ。

 

 取り敢えず、悪意がないのは雰囲気から分かるので放って置くことにして、このやり取りには慣れているのか、気にせず窓の外を見るマスグレイヴ様に倣い、私も景色を見ることにする。

 

 

 王城の近くはやはりほとんどが貴族様方の家や、彼ら御用達の高級店などが立ち並び私には無縁の場所だった。

 公爵家に来てからも仕事ばかりしていて、特に外に出る用事もなかったのでこの辺りの景色は初めて見る。

 

 たくさんの街路樹が並び、時期が時期なだけにとても青々としていて綺麗だ。

 たまに葉の隙間から見える白色の花が可愛らしい。

 

「あの木はマロニエと言って、城に向かう大きめの街道にはだいたい植わってる」

 外の緑に癒されていると、マスグレイヴ様が街路樹について教えてくれる。

「昔は上手く育たずに疎らだったと聞くけれど、今では緑がとても綺麗だ。 私は心が落ち着くから、色もだけど緑が好きなんだ」

 とても優しい顔で喋るので、本当に緑が好きなんだな、と思い見ていると、私の反応がないことに少し焦ったようにこちらを向いた。

「あれ? てっきり街路樹を見ていると思ったんだが、気のせいだったか? ……あっ! えっと、今の緑ってのは……」

 

 そこで初めて視線が合い、近くで見る綺麗な金色に少し見惚れていると、その目が見開いた。かと思うとすぐさま視線を逸らし、少し赤く染まった顔でしどろもどろしている。

 察するに、こちらを向いたことで彼には緑の髪や瞳が見え、私にではないにしろ、綺麗、好き等と言っていた自分に恥ずかしくなったのだろう。

 確かに時と場合によっては、口説いているように聞こえなくもない。

 私の髪も瞳も馬車に乗る前に見ていると思うのだが、忘れていたのだろうか。

 

《分かっています。私にではなく外の葉のことだということは》

「いや、でも決して君の髪や瞳が綺麗ではないと言っている訳ではなくてっ、寧ろ普通に綺麗だと思うし……あ、っ!」

 

 私に対して言った言葉に何故か言った本人が照れている。実に可愛い人だ。

 私に可愛げがないからだろうか、最近私の周りには可愛い人が多い気がする。

 思わず頬が緩んだところで、こちらを窺うように見た彼と再び視線が合い、次は耳まで赤く染まっていた。

 

 馬車の中に赤面する者が2名、それを微笑ましく見つめる者が2名——殿下は若干ニヤニヤしていた。そんな少し不思議な状況もなんのその、馬車は目的地へと向かう。

 

 

 

 

______

 

 

 王城に着くとパーシスの言った通り庭園に案内された。

 公爵家もなかなか広く綺麗だったけれど、さすが王城、その上を行く。

 

 そこはすでにセットが整っており、テーブルの上のケーキスタンドには、お昼も兼ねているので軽食と、フルーツにケーキが綺麗に盛り付けられている。

 お茶はまだ注がれてはいないが、殿下はマスグレイヴ様を残して他の従者や侍女は下がらせてしまう。といっても、見えるところに控えているのだが。

 

 続きは私がやればいいのかしら。

 もしかして、試されてる……?

 

 横目でパーシスを見るも、笑ってるだけで意味が分からない。

 なので考えるのは止めて私の仕事をすることにする。その為に来たのだから。

 その前に座っても尚、ずっと私の服を摘まんでいるシャルを見る。

《大丈夫、不安なら側にいるから。そんなことしなくても逃げないわ》

 笑いながらシャルにだけ聞こえるように言えば、少し照れ笑いしつつ手を離してくれた。

 

「随分シャルはそちらの侍女殿に気を許してるようだね」

「え? はい! カミールは私の友人ですの!」

「友人? ふぅん……」

 

 なんだか怖いです。

 見た目通りの優しげな王子様でないことは、よく分かりました。

 

 給仕が終わった所でシャルが改めて私を2人に紹介した。

「私付きの侍女になったカミールです。声が出ないですが、不思議な力で会話することは出来ますの」

 公爵様から軽く話が行っていたのか特に2人が驚くことはない。

 軽く挨拶した所で、次は彼の番だった。

 

「メルヴィル殿下の側役を務めるアルヴィン・マスグレイヴです。城のことで分からないことがあればいつでも聞いてくれ」

 アッシュグレイの髪に金色の瞳。背も高く、なんだか少し近寄り難い見た目だが、話してみれば優しげな笑顔の普通にいい人だ。

 

 彼の瞳は何度見ても綺麗で目を奪われる。

「侍女殿は随分アルヴィンを見つめているけれど、どうかしたのかい?」

 どうやら見過ぎたらしい。

 身分の高い方の目を見つめるのはよくないとエノーラさんに教わっていたのに……。

 

《申し訳ございません。ただ、私の友人とよく似ていたものでして》

「似ている? 俺に?」

《はい。彼女の毛は真黒ですが瞳は同じ綺麗な金色をしております》

「! 女性でこの目を?」

「それは凄いな。金色の瞳は珍しくて、私もアルヴィン以外に見たことはない」

「……。カミール、もしかしてそれはアイビーのことでなくて?」

《はい、そうです》

 

 溜息を吐いたシャルの説明を聞いたマスグレイヴ様は苦笑い、殿下は……ツボにはまっていた。

 

「ふっ、くくっ、魔獣と同じとか、くくっ」

 あんなに笑っているのに、下品じゃないのが多少癪に障る。

 

「はーっ、笑った。オルブライト公爵に聞いていた通り、確かに少し変わっているようだな。今日はそのアイビーは、連れて来ていないのか?」

 やっと笑いの治まったらしい殿下に聞かれるが、最初の言葉が引っかかる。

 

《アイビーは身体が大きく、連れ歩くのは少し難しいのです。しかし影なら居ります》

「あぁー、もっと楽にしてくれ。堅苦しいのは疲れるから嫌いなんだ。 それにしても凄いな、本当に影から出てきた」

 《しかし王太子殿下にそのような、

「それも止めてくれ、メルヴィルで構わない。俺もカミールと呼ばせて貰う。 同じことをパーシスにも言っている、気にすることはない。ところで、そのアイビーの影はいつも居るのか?」

 

 成る程、随分とフランクなお方らしい。

 メルヴィル様自身も先程と違い随分と言葉が崩れている。

 よく聞く優しい笑顔の王子様は仮面で、シャルを苛めてる時の笑顔が素なのだろうか。王族も大変そうだ。

《分かりました。ではメルヴィル様、アイビーですが影があるところではいつも居ますが、影が薄かったり隠れてしまう場所などでは私との繋がりは切れてしまいます》

「やはり影なりの弱点はあるのか。 それにしても良かったのか? 簡単に弱点など教えて」

《そうですね、お2人に日陰などに呼び出された場合は警戒することにします》

 

 私の言葉に今度はマスグレイヴ様まで笑い出した。

「ははっ、確かに変わった人だ」

 これは個性という名の褒め言葉として受け取ることにしました。

 

 その後はシャルと、空気になりつつあったパーシスも加わり私は給仕をしながらだが、5人で色々な話をした。

 

 アルヴィン様は性格はとても優しいのだが、普段の真面目な表情が怖く見られるらしく、見た目の所為でかなり損をしているようだ。

 喋れば普通に笑うし、可愛らしい一面もあるだけに勿体無い。

 そしてそれを以前耳にしたパーシスは常に笑顔でいることにしたらしい。

 意味が分からない。

 メルヴィル様に至っては、優しい王子様と舐めてかかってきた相手を打ち負かすのが好きだと、笑顔で言っていた。

 人間不信になりそうだ。

 

 

 婚約者同士のお茶会に何故か私たちが会話に加わっている不思議。

 シャルは楽しそうだし、私もこれから上手くやって行ける気がしたので勝手に良しとする。

 

 

 会話の流れでマスグレイヴ様ではなく、アルヴィン様と呼ぶことになったのだが、初めてそう呼ぶ時に少し緊張してしまったのは、私だけの秘密だ。

 

 

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