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Sea you  作者: 白羽 海菜
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201X年

大学受験なんてクソだ。

俗に言う自称進学校に通っていた私にとって、そこでの勉強は窮屈だった。


でも何よりも、今はカナタのことが気がかりで仕方がない。

今月で付き合って2年4ヶ月になるが、私は未だにカナタが弱音を吐いたところを見たことがない。

私と張り合うくらいに友達が多くクラスのムードメーカーの彼に少しばかりのシンパシーを感じた私が、彼を好きになるのに時間はかからなかった。

そんなカナタが、最近学校に来ていない。

連絡も週に2~3回程度だ。

今週末、1ヶ月ぶりのデートだが、何時に、どこで会うのかまだ何も決まっていない。


電話が鳴った。

カナタからの着信だった。

「もしもし、今時間ある?」

嫌な予感がした。

そんな予感とは裏腹に彼は明るくこう言った。

「今度のデートなんだけど、少し遠くに行かない?」

「いいね、行きたいところ考えておく。」

久しぶりのデートが遠出、正直私はとても楽しみだった。


5月。

心地良い風が頬を撫でる。

世間はゴールデンウィーク真っ只中だが、都会の喧騒と受験勉強から逃れた私たちのデートは実に平穏だった。

やけに人気の少ない海辺で、ラムネを片手にただぼんやりと目の前に広がる青を見ていた。

「そういえば今日、急に遠出がしたいなんて珍しいね。」

私が言うと、カナタは眩しそうに少し目を細めて

「前から海に行きたいって思ってたんだ。」

そう言った。

お互いの勉強の話、最近読み始めた漫画の話、愛犬の話。

そんな他愛もない話をする時間がとても大好きだった。

ふとカナタが呟いた。

「これからこんな時間を過ごせることなんてないからね。」

受験勉強に集中しなきゃいけない現実を突きつけられたようで、思わず口を噤んだ。


日が沈んできた。

「そろそろ電車に乗らなきゃね。」

憂鬱な日々に戻る事実が私の心を締め付けた。

そんな私を他所に彼は言葉を発した。

「俺は今日、このままおじいちゃんの家に泊まっていくよ。駅まで送るね。」

この付近におじいちゃんが住んでいたことも、今日泊まるつもりだったことも初耳だった。

何よりも、明日は大事な模試の日だ。

「え、明日全国模試だよ?今日泊まったら間に合わないんじゃない?」


日は落ちた。

先程まで青く輝いていた海が、今は打って変わって漆黒で、不安に呑まれそうだ。

少し置いて、彼がこう言った。

「俺ね、今日で終わろうと思っているんだ。」

思わず固まった。

私たちの関係を?受験勉強を?それとも

「ごめん、分からない。何を?」

本当は気付いてていた。

でも彼の口からそれを聞くのが怖かった。

「生きることを。」

最も危惧していた言葉を、彼はいとも簡単に吐いた。


「ダメだよカナタ。それだけは絶対に。嫌なことがあるなら私を頼って。楽しく生きる方法を考えようよ。」

必死だった。

そんな努力も虚しく、彼は淡々とこう言った。

「もう、無理なんだよ。決めてしまったからね。」


温厚で人望も厚くて優しい彼だが、昔から自分で決めたことだけは曲げない節があった。

そんなところも大好きだったが、今はそれどころじゃない。

「死んだら、何も無くなるんだよ。今がしんどくても、カナタには私もいるし優しい親も友達もいるじゃない。」

「....それが嫌なんだよ。周りの無責任な羨望の眼差しも、ナナの明るくてまっすぐな性格も。全部俺を惨めにさせる。正義感を振りかざしてくるのももうウンザリなんだ。」

彼の放つ言葉に熱はなかった。

私はもう何も言えなかった。

私は、どうしたらカナタを救えたんだろう。

私が異変に気づいた時に言葉をかけていたら?私が自分の不完全なところも見せていたら?

.....私にも死にたくなった過去があったことを、話していたら?


どれだけ沈黙が続いただろう。

時刻は17時52分。

先に口を開いたのは彼だった。

「駅に向かおう。」

本当にこれが最期だと、彼の言葉から悟った。

何か言い残していることは無いか、駅までの道のりでそれだけを考えていた。


この期に及んで、まだ彼を救おうとしていた。


たくさんの思い出話をした。

今夜最期を迎えるとは思えないくらい柔らかな表情で彼は私の話を聞いていた。

踏切の音が煩い。

「ねえ、どうして最期に私を選んでくれたの。」

「俺が1番愛していて、俺が人生で1番後悔している相手だからだよ。」


電車発車のアナウンスが鳴った。

「ほら、早く行って。間に合わないよ。」

彼は笑顔でそう言った。

「カナタ。私も貴方が1番愛して後悔している人だよ。またね。」

彼は何も言わなかった。

彼と私の涙は、無慈悲にも電車の音でかき消された。


3日後、カナタの自殺は地元の記事に取り上げられた。

岸壁から飛び降りた彼が回収された頃には端正な顔も跡形がなく、ただ無様な水死体として認識されていたそうだ。


学校も騒然としていた。

どうして、なんで、自殺なわけが無い、ありとあらゆる憶測が飛び交った。

私だけが、ただ静かにペンを動かしていた。

今は何も考えたくない。


18の夏。

自分の正義が簡単に他人を傷つける武器になりうること、無責任な羨望の眼差しが相手を失望させることを知った。


その一年後、私は教員になるべく地元の国立教育大に入学した。

若く青き子どもが自殺を選ぶ現場を無くすために。

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