海を見たくて
レストランを後にし、彼の後を着いて行った先には真っ青な景色が広がっていた。
先程から口数が妙に減った様子だが、気にせず話しかける。
「やっぱり海はいいですね。」
彼は遠くを見ながらこう言った。
「普段抱える悩みとか大したことのないように感じますよね。」
私は逆だった。
海を見ていると自分自身がちっぽけな存在に感じて、不甲斐なく思うことの方が多かったからだ。
でも、それでも海が好きだった。
ちっぽけであってもいいんだと自分を解放できる気がしたから。
「...そうですね。実際意外と海での自殺率って全体の5%くらいで、他と比べて低いらしいですよ。」
「さすが先生、博識ですね。」彼はそう言った。
いつか、自分が自殺するならどこがいいか探した結果得た知見だとは口が裂けても言えないな。
海辺に並んで座った。
今日初めて会ったにも関わらず、彼と過ごすこの時間は永遠続くかのように心地よく感じた。
「ところで、タクミさんは今日泊まっていかれるんですか?」
「そうですね....。明日は休みですし、せっかくなら泊まっていこうかなと。」
私の中の警笛がうるさくなって止まない。
「ナナさんはどうされます?勝手に誘っておいてですが。」
彼は笑って、少しバツが悪そうに私の方を見た。
相変わらず整っている顔だ。
「そうですね...。夜になってから決めようかなと思います。」
「相変わらずその瞬間で決めるんですね。」
まるで人を計画性が無いみたいに言ってくるなこの人、と思いつつも別に不快ではなかった。
「その時その時で感情は変わりますからね。」
私はそう言って目を瞑った。
あの時も、こうやって自分の感情を守っていたら今ほど心地よく生きることが出来たのだろうか。
今更無意味なタラレバを脳内でこぼした。




