生と死
「ふあーあ。思ったよりも長かったね」
「そうだね」
ゲートから出る。
「ちなみにこの後の予定は?」
「実はもうないんだよね。私、夜には帰らないといけないから夜ご飯はなしで」
「分かった」
「まあ最後に海にでも行こうか。砂浜すぐそこだし」
「うん」
砂浜へおりて行く。人は少ない。犬を散歩させてる人はちらほらいる。
「きれー」
夕日が反射している海は、眩い橙色に染まっている。
「海にくるの久しぶりだね。校外学習以来かな?」
「さっきもこのやりとりしたよね」
「ふふ。まあいーじゃん。何回でもやればいい」
靴と靴下を手で持って、波打ち際まで駆け寄る。
とても不本意だが、僕も彼女に続く。
「うわー冷たい」
「もうすっかり秋だね」
「嬉しいような嬉しくないような」
どちらともとれる。
「君が海に入るなんて珍しい。積極的じゃん」
「積極的ってなんか嫌だな。響きが」
「ふふ。まあ君も変わったってことだよ」
変わった?あの僕が?
「入学した頃はもう理屈ばっかりで自分の周りに線を引いてたけど、今となってはその線も消えかかってるよ。水性だったのかな?ふふふ」
「僕は認めてないんだけど」
「まあ自分じゃ分からないでしょ。逆に私だから分かるの。君のことはよく知ってるし」
悪戯っぽく笑って水をパシャパシャさせる。
「水かけていい?」
「だめ」
「えー」
「逆にそれでいいって言う人の方が少ないよ」
「ふふ、それでもどうしてか聞きたくなるんだよ」
「それは困ったもんだ」
「あははははは。あーあ。なんていうか、ほんとに......」
彼女は数歩足を進める。めくってあるジーパンが濡れてしまいそうだ。横顔しか見えない。
「良かった......」
「良かった......?何が?」
「全部......」
そう言いながらこちらを振り向く彼女には声が出なかった。
夕日に照らされて橙色に塗られた頬も。頭の上にポンッとのったその帽子も。そこから伸びる艶やかな髪も。
可愛いとか綺麗とかそういうのではなかった。
今までの僕だったら絶対に言葉に出来ていなかった。
でも今の僕は知っている。四月からずっと僕は君と時間を共にした。決して少なくはない時間を費やしてきた。
それがようやく僕の中に華を咲かせた。
そしてその華は僕に教えてくれた。
君は生きている。
「救急車とトラックの交通事故が......」
つけっぱなしだったニュースを消して玄関へ行く。
扉を開けると心地よい風が通り抜けていく。誰もいない家に声だけを残して家を出る。
昨日の夜に降っていた雨はすっかりあがり、空は快晴だ。水たまりに反射した光が目に届く。今日は月曜日だがいつもより体が軽い。どこからか湧き出てくる気持ちを抑えながら少し早歩きで学校へ向かう。なぜ早歩きなのかと言われても明確な理由はない。ただなんとなく。
桜の並木を颯爽と抜けて学校にたどり着いた。扉を開けて教室を見渡す。けれども彼女はいなかった。今日は早く着きすぎたかな。そう思いながら呑気に時計を眺めていた。しかしその日、彼女を目にすることはなかった。
次の日の朝、彼女が亡くなったことを先生に告げられた。
いよいよ次回、最終話となります。




