実は
歩いて食べて、歩いて食べて。そんなことを繰り返していたらいつの間にか、食べ歩きスポットの端にたどり着いた。想像していたよりも、長い道のりではなかった。
「あれま。もう端っこじゃん」
「そうっぽいね。そんなに長くはなかったかな」
「そんなこともないけどな〜。だってもうほら」
時計を見せてくる。
「え?もうこんな時間?二時間ぐらい歩いてた?」
「そういうことになるね」
彼女からは驚いている様子が見受けられない。珍しいことに、驚いているのは僕だけのようだ。
「この後はどうするの?」
「そうだねー。じゃあまた電車乗って海の方戻ろうか」
「また?」
「うん。海の近くにお目当てのものがあるから」
「分かった」
僕たちは駅まで歩いて電車に乗る。時間が時間なため、電車内は少し混んでいたが座ることができた。二人とも何も持たずに歩いていたが、ほとんどの時間を立って過ごしていたため非常に疲れた。横をチラチラ見るにも、彼女は少し眠たそうにウトウトしていたような気がした。
そして僕たちはまた、海が近くに感じられる駅へやってきた。
「ここだね」
「明らかに目を引くものがあるんだけど」
「そうそれ、お目当ては」
「うーん」
「あれ、もしかして高いところは苦手かな?」
「い、いやそういうことじゃない」
「そう、じゃあ乗ろう」
意気揚揚と歩いていく。
苦手なわけじゃないけどなんとなく気が乗らない。その正体は恐怖心ではない。もっと別の何か......。
「ほら、いくよ」
「分かった分かった」
雑念を振り払って彼女を追った。
「それではごゆっくりお楽しみ下さい」
ドアを閉めながら、係員がそう言う。
この人から見たら僕たちはどう見えてるのだろう。......愚問か......。
「この観覧車大きいほうなんじゃない?」
「そうかもね。基準を知らないけど」
ゆっくりと上昇していく。先はまだまだ長そうだ。
「おいしょっと」
「なんで隣に移動してくるの。そっちの方が広いでしょ」
「広さで判断してるんじゃないよーだ」
「じゃあなんなの」
「君が景色じゃなくてこっちを見てくれたら教えてあげてもいいよ」
「じゃあ遠慮しとくよ」
「ちぇ」
顔を逸らして外を見続ける。
「ふふーん」
呑気な鼻歌が聞こえてくる。上機嫌なようだ。
「君は絶叫系苦手なの?」
「まあ乗れって言われたら乗るけど進んで乗りたくはない」
「要約したら怖いってこと?」
「それは違うね。そんなこと言う君はどうなの?」
「乗れるほうではある。遊園地とか行っても乗るかな。あ、そうだ。じゃあ次は遊園地だね。君のその余裕を失った表情を見たい。ふふ」
「僕が行く前提なのはやめてくれないかな」
「もう今更だね。なんて言おうと」
余計なこと言わなきゃ良かったか......。
「わー海が見える」
「そりゃ見えるでしょうね。高いんだから」
「もー!理屈ばっかり。もっとこうムードがでるようなこと言ってよ」
「どんなムードかは分からないけどそれも遠慮しとくよ」
気が乗らない理由はこれに近いのかもしれない。
「じゃあ手でも繋いどく?」
「僕がイェスって答えると思う?」
「思わない。でももしかしたらこれが最後のチャンスかもよ?」
「それはどういう......」
少し空気が重たくなる。
久しぶりに僕の目が、彼女の目線を捉えた。けれども彼女は何も言わない。神妙な面持ちの彼女は僕の心臓をうるさくさせる。
「それは......」
ガタッ。
「キャッ」
「うわっ」
「なんだ、頂上に着いただけかー。ほら、一番上だね」
彼女は窓の外へ顔を向ける。
「どうしたの?もしかして怖いの?」
こちらを振り向く。
「だから......」
「なーんだ」
また外へ顔を向ける。
僕は彼女にそれ以上、話しかけることは出来なかった。




