朱色
道なりに進むこと数分。雰囲気の変わった道路が見えてくる。
「あ、あそこだ」
「思ったより近かったね」
「そうだね」
人が増え、たくさんのお店が顔を出す。いわゆる食べ歩きスポットだ。
「まずどこ行く?」
「まずはソフトクリームを食べに行こう。胃の中を中和せねば」
「同感」
並んで街中を歩いて行く。僕にとって普段見ることのないこの景色は、思いがけず僕を高揚させる。
「君もこういうところ滅多に来ないでしょ」
「まあ来るわけないよね」
「私も」
「クラスメイトとは遊びに来ないの?こういうところ」
「あー、たまに行くけどこんな遠いところまでは来ないかなぁ。せいぜいカフェとか」
「そうなんだ」
彼女のことだからクラスメイトと遊びまくっているのかと思ったが、そうでもないらしい。
......変に意識することもないか。
「あ、あそこのソフトクリーム食べよう」
「いいよ」
「何味がいい?」
「じゃあミックスで」
「分かった。じゃあ買ってくるからベンチとっといて」
「あそこ座っとくよ」
「りょーかい」
「ふう」
ベンチに腰をおろす。
今日は結構な距離を歩いている。
水族館でも歩き回って、ご飯も食べに行って、ここまで歩いて。今からも歩くだろう。
僕は体力的に問題ないが、彼女は大丈夫だろうか。病気のこともあるだろうし、無理はさせない方がいいだろう。けれども彼女は元気だ。病気のことなんか少しも感じさせないくらい明るい。「一」なんて数字も慣れてしまう。しかし慣れた方が怖い。いつかは現実と向き合わなければいけない時が必ず来る。その時に僕はどんな表情で、四角で囲まれた君を見るだろうか。
目線を上げるとたくさんの数字が目に入ってくる。その中に「一」なんて一つもない。彼女を除いて。それは当たり前だけど当たり前じゃない。
......。
目線を投げると、両手にソフトクリームを持った彼女が近づいていた。
「はい、これ君の」
「ありがとう。これお金」
「あー、ありがとう」
「君もミックスにしたんだね」
「うん。どうせなら両方の味を堪能したい」
「同感」
「あまーい」
隣から弾んだ声が聞こえる。
「あま......」
「やっぱ辛いの食べた後は甘いものだね。最高」
「それにも同感」
甘いお菓子とかは好きじゃないけど、辛いものを食べた後の甘いものは好きだ。両極端でも生きていけるが、混ざったらより良いものになる。
そう思った。
しばらく二人とも無言となり、ソフトクリームを貪る。
冷静になった時にはすでに何もなかった。
「あー美味しかった。気づいたらなくなってたよ」
「同じく」
「ふー。うまいこと中和できたことだし、次は何食べる?」
「んーどうしようか......ふふっ」
「ん?どうしたの?」
彼女の頬っぺたには白いものが付いていた。
「いや......別に」
笑いを噛み殺す。
「あー!」
気づいたようだ。手についたものを眺めている。
「もう、言ってよー」
手についたのを、ティッシュで拭きながら言う。
「いや、面白かったから、つい」
「もー!」
ほんのり紅くなったその頬を、僕は見逃さなかった。




