華火
夜だしできるだけカフェインが少ないやつの方がいいな......。
心地よい音とともに出てきたお茶を手にしながらベンチまで戻る。
そこには先ほどより幾分顔色の良くなった彼女が座っている。
「はい、これ」
「あ、わざわざありがとう」
キャップの開く音を聞きながら思う。もう少し遅めに帰ってきた方が良かったかもしれない。まだ
彼女は気持ちの整理がついていないだろう。
後悔の年に抱かれながらもしばらく彼女を待つ。
「ふう、ありがとう。だいぶ落ち着いてきた」
「そう、それはよかった」
できるだけ彼女の表情は見ずに前を見る。
「ごめんね。せっかくの楽しい夏祭りなのに。嫌な思いさせちゃったよね......」
「いやいやそんなことないよ。それに君は何も悪くない。謝る必要なんてない。悪いのは......あいつらだ......」
「......。あそこまで言われたら流石に分かるよね......。ずっと隠しててごめん。どうしても言いづらくって......」
「それは謝ることじゃない。そんなの言いづらいに決まってる。隠してて当然だよ。君に落ち度はない」
「ほんと......?なんかもう本当にありがとう......。私はただありがとうって言い続けることしかできない」
「君にありがとうって言われる筋合いはない。特別なことはしてないし......」
「そっか......」
しばらく沈黙が続く。空気が重い。
これは僕から話しかけた方がいいやつなのか?でも彼女がそんな気分じゃなかったらあれだし......。いつもこういう時にどうすればいいのか分からない。
......いや、でも話しかけた方が......。ちょうど花火も始まる頃だろうし......。
「あのー、そろそろ......」
ドカーン。ドカーン。
「あ、花火始まったみたい。......輝生君なんて?」
「あ、いや、ちょうど花火見に行かないって言いかけて......」
なんてタイミングで......。
「あははっ。ジャストタイミングじゃん。そうだね。行こっか」
月の光に照らされたその顔が、僕の心を軽くさせた。
「うわーすごーい」
土手に二人腰を下ろして花火を見る。
「めっちゃ綺麗じゃない?」
「確かに綺麗だね」
「あれ、珍しいね。君が素直に受け入れるなんて」
「そんなことないって。普通だよ。君は僕を何だと思ってるんだ」
「ふふ、それは内緒」
「まったく......」
しばらく打ち上げられる花火を眺める。
赤、青、黄、緑。
それぞれの色が美しい華を創りあげている。
綺麗だ......。
柄にもなく、そんなこと思ってしまった。
「なんで花火ってこんなに綺麗なんだろうね。一瞬で消えていくのに」
遠い目をした彼女が言う。
「それは逆なんじゃない?」
「え?」
「消えるから綺麗なんだ。ずっと空にいるわけじゃない。一瞬空に華が咲くから美しい。消えることがあって初めて咲くことができるからね......」
「なるほど......。ふふ、そんなこと考えもしなかったよ。やるじゃん」
「逆にこんなこと考えてる人なんていないよ」
「それもそっか」
また二人で花火を眺める。
消えるから綺麗。
確かにそう言った。
けれども消えて欲しくなかった。
この時間が永遠に続けばいいのに。
華が咲き続ければいいのに。
そう、叶うはずもないそんな願いを、綺麗な華たちに祈りたかった。




