できること
「え?」
言葉を失う。
この空間だけ時間が止まっていた。
「もー。黙りこくっちゃって。さっきまであんなに楽しそうに喋ってたのに」
この人たちは何者?彼女の中学校の同級生のようだが、それならばどうしてこんな表情に......。
「ほんとそう。何か喋ってよー。中学校ではあんなに可愛がってあげたのに。ひどいなー」
可愛がってあげた?
「ほんと、楽しかったのになー。またあんなことできたらいいのに」
「ひっ」
一人が顔を近づけたとともに彼女が僕の腕に飛び込む。
「あれ、もしかして彼氏さん?あははは、まさかあんたに彼氏ができるなんて。もう驚いちゃったよ。またしっかりと教えてあげないといけないかな?」
腕を握る力が強くなる。
「僕は彼氏じゃありません。そんなことよりあなたたちは誰ですか?」
「私たちは彼女の中学校の同級生だよ」
「それにしては様子がおかしくないですか?」
「なんでだろうね。一緒に楽しく遊んであげたのに」
「遊んであげた......?」
それはどういう......。
「そうだよー、一緒に彼女の面白い動画も撮ったし、物も隠してあげた。一生懸命探してたでしょ?」
「あはははは、懐かしー、やったねー。まさか教室に裸足で入って来るとは思わなかったけど」
「あはは、それなー」
「は?」
何言って......。
はっ。
隠す......。
黒いマーカーで塗りつぶされたノート......。
人が怖い......。
毎日が戦争......。
目を瞑る。
......そうか、だから君はそんな......。
......あんなことを僕に......。
「行こう」
彼女の手を引く。
「え?なんで行くの?『怯えている子』と話させてよ」
「そうだよー、なんで行くんだよ」
「彼氏じゃないんでしょ?じゃあいいじゃん」
「......まれ」
「は?」
「黙れ」
「は?何偉そうに」
「行こう」
手を握って速足でその場を去る。
後ろから何を言われようとただただ歩いた。
前だけを向いて歩いた。
僕はどんな表情をしていたのだろう。
自分でも分からなかった。
ただ、いち早くその場から彼女を離したかった。
比較的人が少なそうな場所を探す。
ここならなんとか......。
歩くスピードを緩める。
「大丈夫?」
呼吸を整えながら聞く。
けれども浅い息を続けるだけだ。
「ねえ!大丈夫?」
肩を揺さぶるが結果は同じだ。
目の焦点が合っていない。
それもそうだ。
大丈夫なはずがない。
それでも僕は......。
「大丈夫!大丈夫だから!」
彼女の顔が、今までにない至近距離を通過する。
甘い香りが鼻をつく。
両手で包んだ華を壊さないよう優しく身に寄せる。
僕ができることなんて、彼女をただ、静かに抱擁することだけだった。




