手と手
「よーし。いっぱいとっちゃお」
......。なんというか見ていてすごく不安だ。一個もとれずに切れたりしたら......。
「あ!」
期待を裏切らない見事なリアクション。
「おじさんもう一回!」
「はいよ」
「ありがとうございます」
「もう一回やるのはいいけれど、ヨーヨー釣りのコツとか知ってるの?」
「いいやなにも?」
まあ知ったたらこんなことにはならないか。
「まずね、できるだけ紐が水につかないようにする。水に濡れたら糸が切れやすくなるからね。だから金属の部分だけを水につけてとれそうなやつを狙う。これが基本だよ」
「ほーなるほどね。君がそんなことを知っていたなんて意外」
「別に。これぐらいみんな知ってるよ」
「ほんとー?まあやってみるけど」
僕も水面に浮いているヨーヨーと睨めっこをする。一つはとりたい。......正直二つもいらない。
「とりあえず今回の勝負はなしにしてあげるよ」
「いっぱいとってもだしね」
結果、僕たちは二人とも一つとなった。これは一つしかとれなかったのではなく、何個とってももらえるのは一つだったらしい。そのためお互い一つとって終了した。
「今日はお金どれぐらい持ってきてるの?流石に文化祭みたいにはなってなさそうだけど」
「流石の僕でも今日はお金を持ってくるよ。文化祭はもともと買うつもりなかったしね。お金は今日豪遊しても無くならないぐらいはあるよ。もとよりお金を使う機会なんてないし」
「そう。じゃあ遠慮なくいけるね」
「まあ許そう」
しばらく歩く。
「それじゃあ次はスーパーボールすくいやろっ」
「分かった」
「これも勝負だよ?」
「分かってるよ。言われなくても」
「念には念を。ね?」
「なんでそんな勝負にこだわるの」
「ふふっ、やっぱり本気で遊びたいじゃん?人生最後の夏祭りだし。本気で遊んで本気で楽しみたいからね。言葉の重みが違うでしょ」
口角を上げたままこちらを見てくる。
「なるほどねー」
祭囃子がうるさくなってきた。
僕たちはその後も人生最後の夏祭りを堪能?した。(僕はどうせ将来、夏祭りに行くことはないだろう)。スーパーボールすくいの他に、金魚すくい、輪投げをやった。スーパーボールすくいでは、僕が僅差で負け。(途中まで勝っていたのに調子に乗って大きいのを狙ったのが敗因だ)金魚すくいでは二人とも一匹もとることはできなかった。しかし、たとえとれたとしても二人とも世話をすることが出来なかったため、後悔はない。輪投げは同点で、四等として折ったら光る、祭り定番のやつをもらった。
「おーいいじゃん。夏祭りっぽい。ほら、君も手首につけてよ」
「はいはい」
強制的につけさせられる。
「そろそろなんか食べる?」
「そうだね。なんか食べて花火見に行こうか」
良さそうなものがないか歩いて探す。
「だいぶ人増えてきたね」
「確かに」
言われてみえばそうだ。さっきまでは比較的空いていたが、今となっては人でごった返している。なかなか歩きづらい。彼女を見失ってしまいそうだ。
......。こんな時漫画だったら「手を繋ごう」っていうのだろうか。いやいやそれは漫画の話。僕が彼女と手を繋ぐとか意味不明。
とりあえず彼女についていかないと。
そんなことを考えるけれどだんだんと彼女との距離が離れていく。
仕方がない。
「ちょっと待っ、あっ」
「えっ?」
つまずいた、という感覚と。柔らかい、という感触が同時に伝わってくる。
その手の先には唖然とした表情の彼女が見える。
「えっ、あっ、ごめん。つまずいちゃって」
「えっ?あっ、う、うん。大丈夫」
その手を離す。
彼女が端に寄ったため、僕も急いで端に寄る。
「あー、えーっと......その、ごめん......。ちょっとつまずいちゃって......」
目を泳がせながら言う。
「あははははっ。全然いいんだって。そんなの。なんて言うかほんとに真面目?だね」
「いや、驚かせちゃったかなって......」
「あははは、だからいいって。なんなら手を繋いどく?私は別にいいよ?ほんとは繋ぎたいんでしょ?」
「いやいやいや、大丈夫。繋ぎたいとかそういうのじゃないから」
居心地が悪い。
「ふふっ。なんかこんなやりとりするのも久しぶりだね。文化祭以来かな?」
「まあそうかもね」
文化祭......。なんだかもうとても遠い記憶に感じられる。
「......。どうした?」
「いや、なんでも?」
「ずっと見てたじゃん」
「そんなことないよー。ほら行こっ?はぐれないように手を繋いどく?」
無邪気な笑顔が目に映る。
「いいや、遠慮しとくよ」
なんだか拍子抜けした。
「そっ。じゃあ行こっか」
「うん」
自分はその時、どんな表情をしていたのだろうか。
分からないけれど、頬が緩むのだけは間違いなかった。




