君の幸せ
ドアを開けると騒がしい声が聞こえてくる。
「ねえーこれできないー!」
「えー。もう、お母さん忙しいの」
「これ分からないよー」
机の上を見るとたくさんのプリントがある。
夏休みの宿題とやらだろうか。
「あ、ごめんね輝生君。算数が分からないらしくって」
「大丈夫です」
「ねえー輝生兄ちゃん、これ教えてよー」
「もー輝生君も忙しいの。ごめんね、ほんとに。ほっといていいから」
「いえ、大丈夫です。それに僕は暇なので。で?どれが分からないって?」
「え?」
「やったー。えーっとねこれが分からない」
「あーこれはね......」
ただ聞かれたから教えただけだ。
ただそれだけ。
「だから答えはこれ」
「すごーい。ありがとう」
「別に」
後ろから猛烈な視線を感じるが無視をする。
至って普通のことだし。
「みんなー夜ご飯できたよー」
「はーい。食べるー」
元気で台所に駆けていく様子を見ながら思う。
僕も少し、お腹が空いた。
「十六歳という若さでこのステージに立たれているわけですが、緊張とかはしないんですか?」
「いやいやしますよ。もちろんステージに立つのは怖いですし、失敗したらどうしようって気持ちはあります。けれどやれることを全力でやるだけなんで」
「いやー流石ですね。それでは......」
テレビのインタビューが耳に入ってくる。
今テレビに映っているのは話題の歌のグループのメンバーの一人だ。その子は十六歳という若さでグループのオーディションに合格したという。僕でも聞いたことがあるためとても有名だ。
僕は小さい時に芸能人になろうと思ったり、テレビにでたいと思ったことはない。しかしながらどうしても意識が引っ張られてしまう。
その年齢に。
僕と同い年でテレビにでる才能、認められた能力。
そして何よりも、充実しているであろう毎日。
僕と同じ年月しか生きていないはずなのに、なぜかこの人の世界は輝いている。
もちろんこの人が想像もできないような努力をしてきたのは、言わずとも分かる。
それでも自分と比べてしまうと......。
どうしてもこの手のニュースには反応してしまう。
出るのはため息しかないが。
「人には人それぞれの幸せがある」
「え?」
後ろを振り向くと叔母がいた。
「世の中にはいろんな人がいる。人と関わりをもっていく内に、誰かの人生が羨ましいと感じることがあるかもしれない。それは仕方がないこと。相手は自分の持っていないものを持っているしね。けれどもそれは自分にも言えることなの。相手からしたら、自分は持っていないものを相手は持っている。何が言いたいかというとね。結局、幸せは自分が見つけるもんなんだよ。人によって幸せは違う。君の幸せは君が決めるの。なんちて。あははっ」
よく見ると右手に缶チューハイを握っている。奥のテーブルには飲まれたであろう缶がたくさん見つかる。
なんだ......。
少し動揺してしまった。
ただまあお酒のノリで安心した。
『君の幸せは君が決める』
いや、あれはお酒が入ってたから......。
......なんだか自分も酒に酔いたくなってしまった。
そんなこんなでその日を終えた。なんというか情報量が多い一日だった気がする。
行くのが久しぶりだったからだろうか。
......きっとそうだな。
前まではこんなことなかったし。
助手席で揺られながら虚にそんなことを考えた。




