文化祭効果
「ちょっと待ってよ」
早足で彼女の隣に並ぶ。けれどもそのスピードが緩まることはない。
急にどうして......。確かに凛さんと話はしたが、それ以上でもない。しかしながら、話しただけで彼女が怒るはずもない。じゃあどうしてこんな状況になってしまったのか。
「え?」
唐突に視界から彼女が消える。
恐る恐る後ろを振り向くと、険しい表情をした彼女がいた。
苦しげに何かを飲み込もうとする彼女を少しの間見つめる。
「劇を見に行きたい」
ようやく口を開いた彼女に驚きつつ、様子を伺いながら答える。
「三年生の?」
「うん」
「分かった」
「そう......。じゃあ許してあげる」
何を?
「あ、ありがとう」
とにかく顔色を伺いながら答える。
「......。どの劇見る......?」
「今から」
「今から?分かった......行こうか」
彼女が隣にいることを確認して歩き始める。
三年生の劇は今日の午後からずっと行われていて、時間によって見れる劇が違う。彼女が特にこだわりがなさそうなので問題ないが......。
劇の行われている体育館へ外から入る。
「私お手洗い行って来ていい?」
「あ、うん。もちろん」
「ありがと」
さっきもお手洗いに行っていたんじゃないのか?実は行ってなかったとか?......どっちでもでもいいか。
開演前の体育館には座席の約半分を占める生徒がいて、保護者もちらほら見受けられる。劇はそこそこ人気なのようだ。
「お待たせっ。ごめんちょっと遅くなった」
「え?あ、い、いや、全然大丈夫」
「そっかじゃあ行こっ」
え?
何このテンションの落差は。
もう本当に分からない。
段々と暗くなる体育館よりも、彼女の方が闇だった。
「今から始まる劇ってタイトルなんなの?」
「......。分からない。ミステリー系だとは思うけど」
「そっか。どんなのだろうなー」
何があったのかは不明だが、上機嫌なのに越したことはない。
すっかり暗闇に包まれた体育館には、カップルのような人たちもいくつか見受けられる。
まあこの雰囲気がいいんだろうな......。
「やっぱり私たちも付き合っているように見えるのかな」
「いや、ないね」
「えー?そう?ほら手を繋いじゃったりして」
微かに差し出された左手が見える。
「繋がないって」
「ちぇ、つまんないの」
「ほら、そんなことより始まるよ」
ようやく幕が上がる。
僕が彼女と手を繋ぐなんて......。
何言ってんだ。
隣をチラッと見る。
劇に集中できない原因がそこにあった。
「んー。劇面白かったね。流石三年生って感じ」
「そうだね」
劇の内容はミステリーじゃなくて恋愛系だった。
「いやー私はさ。やっぱりあそこで告白すべきだったと思うよ。あそこで行かなかったからあんな結末になっちゃったんだよ。そうだよねー?」
「......あそこで告白は結構難しいでしょ」
わずかな記憶を手繰り寄せながら答える。
「えー?そう?もうバシッと言っちゃいなよって感じでしょ」
「そんな簡単なものじゃないでしょ......」
「えーそうかなー」
「そんなことよりも次はどこに行くの?時間的にそろそろ最後だけど」
無理やり話題を変える。
「そうだね。どうしようか」
中庭から喧騒が聞こえてくる。ちょうどライブが始まったようだ。
「うわーすごーい!これ見よー」
嬉しそうな表情で窓を覗く。
この学校の中庭は文字通り、校舎の内側にある。
四角形な中庭は、どの校舎からでも窓を覗けばすぐにその様子が伺える。
窓からライブを覗き込む彼女を横目に見る。
楽しそうだ......。
向かいの校舎にも目をやると、いろんな窓から、中庭を覗き込む人たちが見えた。
どの人も、とても楽しそうにライブを見ている。
全員笑顔だ。
なんかすごい平和だな。
ふとそんなことを思ってしまった。
毎日戦争しているわけでもないのに、そんなことを考えてしまった。
これが文化祭効果?
僕も彼女に並んで、窓枠に腕をかける。
顔にあたる風が、心地よかった。




