凛
その後、僕たちは二年生の展示へ向かった。
展示の内容はどれもありきたりなものばかりだった。謎解きやカジノ、その他いろいろ。
まわっている中でトラブルとかはなかったものの、他の生徒たちからの目線は痛かった。女子と二人きりでまわっているだけで格好の的なのにそれも彼女みたいな女子とだったらもう、隠す気もなく露骨に見てくる。それだけは本当に辛かった。一つ幸いと言っていいのか分からないが、僕はクラスのメンバーの顔を覚えていないため、もはや誰に見られていようと関係ない。
そこだけはまあ、不幸中の幸いか......。
「ごめん、待った?」
「いや、大丈夫」
「今トイレでね、凛ちゃんに会った」
「凛......?」
「私が一昨日喧嘩しちゃった子」
「あーあの子か。大丈夫だった?」
「うん。特に何もなく」
「それはよかった」
「まあシフトの時間も一緒だし、またすぐ会うことになるけどね」
「そうなんだ。......ん?どうした?」
少し微笑んでいる。
「いや、別に。ちょっと嬉しかった」
「何が?」
「ふふ。内緒。それよりさ、お腹空いてない?」
「空いてない」
「だよね。じゃあ模擬店行かない?」
「今の聞く意味あった?」
「うん。ほら行こっ」
「まあいいけど」
僕らは歩き出す。
模擬店は外の駐車場でやっているため、少し歩かねばならない。
「そういえばお昼ご飯持って来た?」
「......。なんで?」
「せっかくなら模擬店でお腹膨らませたいじゃん?だから私、お昼ご飯持って来てなくて」
「なるほどね......。......僕も......持って来てない」
「ほんと?じゃあ一緒にたくさん食べよ?」
「......。僕お金一銭も持って来てないよ?」
ついに外に出る。
目の前にはたくさんの店が見えた。
「え?ほんと?せっかくの文化祭なのに?」
「うん」
「えー勿体なあ」
「僕は無駄にお金を使うのが好きじゃないからね。君みたいな浪費家とは違うんだよ」
「私は浪費家じゃないもん。私だって普段はあんまりお金を使わないほうだよ。まあ今はお金なんか有り余って仕方がないからね。なんせ未来にはお金が必要ないし」
返す言葉もない。
「まあそんなことで私が奢ってあげるよ」
「いや、それは悪いよ」
「別にいいよ。もう今更他にお金の使い道なんかないし」
......それはずるい。
「じゃあ手始めにフランクフルトでも食べよっか。私が買って来るからここで待ってて」
「分かった......」
椅子に座りながら彼女の様子を見る。
リボンが遠ざかっていく。
楽しそうだ......。
ふと周りを見渡す。
どの店にもたくさん人が並んでいて、とても賑わっている。
どの子も笑顔だ。
何が人をああさせるのだろう。
文化祭の陽気だろうか、この雰囲気が人を幸せにさせるのだろうか。
「違うよ」
「え?」
「誰かと時間を共有できてるからだよ」
振り向くと両手にフランクフルトを持つ彼女がいた。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
「お金はまた後日返すよ」
「だからいいってー。そんなことより食べなよ」
「あ、うん」
時間を共有できているから?
それは一体どういう......。
「ゲホッゲホッ」
「あはははは」
「ちょっと、これ、ゲホッ」
目に沁みる。
「あはは、そんなに辛い?」
「ゲホッゲホッ。君は僕を殺したいのか?」
喉の奥がヒリヒリする。
「いやいやそんなことないって。君は辛いものが好きだって言ってたから、これが好みかなって」
「これはやりすぎだよ。何このソース」
僕はそこそこ辛さ耐性には自信があった。しかしながらこれはあまりにも辛すぎる。
「これはねー、なんかデスソースってやつらしい」
「やっぱ君は僕を殺そうとしてるでしょ」
「あはははは、だからしてないって」
「はあ、君のは何のソースにしたの?」
「私の?私のもデスソースだよ」
「え?これは流石にやばいよ?ほんとに。僕が言うのはなかなかだよ?」
「君は大袈裟だからね。私はこんなんじゃ死なないよ」
そういうことじゃ......。
「......」
「ほらね?だから言わんこっちゃない」
手で口を押さえたままフリーズしている。
言っちゃ悪いが少し面白い。
「ここでちょっと待っといて」
確かスマホに二百円ぐらいはあったはず。
目の前にあった自販機でオレンジジュースを買う。
「ほら、飲める?」
コクコク頷いているため開けた状態で渡す。
「ぷはー。生き返った」
「大丈夫?」
「いやはや、三途の川を渡りかけたよ。ありがと」
「感謝は電子マネー対応の自販機にするべきだね」
「それにしてもちょっとデスソース舐めてたね。ほんとに殺されかねないわ。病気以上に。唇がヒリヒリする」
「......もうこれ以上無理でしょ?」
オレンジジュースに口をつけたまま、無言で頷く。
「はあ、仕方ない。なんか甘いもんでも買ってきな」
「いいの?」
「いいよ」
「分かった」
彼女が行ったのを確認してから二本同時にかぶりつく。
体が拒否反応を起こしそうになるが気合いで飲み込む。
数回繰り返すうちに戦いは終わった。
もう口の周りも中も全てが痛い。
なんでこんなことになったのやら......。
「じゃーん。ワッフルを買ってきましたー!はい、君の」
「ありがとう」
「君は環境にも優しいんだね」
「もったいないからね」
「んー!甘―い!さっきの食べた後だとまじ天国だわ」
確かに甘いし、美味しかった。
しばらく二人でワッフルを貪る。
ひと段落ついたところで彼女が口を開いた。
「ふぅ、もうお腹いっぱいになった?」
「まあ、うん。君は?食べたかったら付き合うけど」
「......いや、もう私も大丈夫。じゃあ最後にジュースでも飲まない?クラスの売り上げへの貢献も兼ねて」
「いいよ。でもさっきオレンジジュース飲んだでしょ」
「あれは中和するためだったからね。また別のやつ飲みたい」
「そっか」
「あ、もちろんオレンジジュース美味しかったよ?改めてありがとう」
「それは良かった」
「じゃあ行こっか」
「了解」
僕たちは席を立って、自分たちのクラスの模擬店へ歩き出す。
すると何やら一つだけ、ずば抜けて長い列の店があった。
「なんかうちの模擬店だけめちゃめちゃ混んでない?」
彼女がすっとんきょうな声で言う。
「確かに......」
「まあ仕方ないね、並ぼうか」
「山崎さーん!」
「ん?」
「あれ?凛ちゃんじゃん。どうしたんだろ」
声がした方を見ると凛ちゃんであろう人がこちらを見ている。
その人はエプロンを着ていて、シフトに入っているようだ。しかし先ほど聞いた話だと、あの人は彼女と僕と同じ時間だったはずだ。それなのに、どうして今働いているのだろう。
そんなことを考えながら、彼女と凛ちゃんであろう人が話しているのを眺める。
しばらくすると、彼女は小走りで帰ってきた。
「どうしたの?」
「なんかね、想像以上の賑わいで人手が足りてないみたい。シフトに来てない人もいるみたいで。それで凛ちゃんが代わりに入ってるんだけど、それでもまわりきってなくて」
なんか嫌な予感はしていた。
「だから山崎さんも入ってくれない?だって」
なんて答えたの?なんて聞く必要もない。
「そっか」
「だからごめんね。せっかく一緒にまわるって言ってくれたのに」
「いや、ぼくは全然大丈夫だよ。けれど君は大丈夫なの?本当はやりたくないんじゃないの?」
「......いや......そんなこと......」
「......じゃあ僕もやるよ。どうせ暇だし。人手は多い方がいいんでしょ?どちらにせよ、シフトの時間すぐだし」
「ほんと?ありがとう。......じゃあ行こっか」
「了解」
最後だけ一瞬表情が曇った?
少しの不安を抱えながら、テントへ入った。




