真実と偽り
文化祭は急にやってくる。
あの日から約一ヶ月、中間テストに追われていた日々だがそれが終わった今、クラスは文化祭の陽気に包まれている。最も今日は文化祭の一日前だ。この学校では文化祭のための準備に一日を提供してくれるため、朝からずっと準備をしている。授業がないのはとても嬉しいがやはりこういう系の行事は好きではない。みんなが楽しそうにわちゃわちゃしている中で、僕は話す相手もおらずただ立ち尽くす事しかできない。
僕たち二年生は出し物を二つ行う。教室を使った展示と模擬店だ。当然ながらシフトに一回は入らないといけない。模擬店か展示かを選べと言われたが、僕は模擬店にした。展示ではなにやらキャバクラもどきをやるらしい。その中でお客さんと接待をしないといけないため、僕には到底無理だ。その結果、模擬店になった。彼女はというと......模擬店だ。別に他意はない。
「誰かこれ作ってくれん?」
「あー僕やるよ」
早急に仕事を確保できたのは嬉しい。何やら黒板に貼るための折り紙を折るらしい。こういう系の仕事は一人で黙々と作業できるためとても気が楽だ。
まあやりますか......。
得意とは言えないが、折り紙を折り始める。
「ふぅ」
こんなもんか......。
そろそろ同じ姿勢で腰が痛くなってきたために顔を上げる。前を見ると僕の努力を象徴するかのように、たくさんの折り紙の華が完成していた。
「お前だいぶ作ったな」
「まあね」
僕に話しかけてくるやつなんて田中と彼女しかいない。
「こんぐらいでいいかな」
「いいんじゃね」
「オッケー」
僕は立って伸びをする。固まりきった体を伸ばすのは心地よい。
「だから!どっちって、聞いてんの!」
刺々しい声が耳に刺さる。
「ごめん」
「ん?どうした?」
田中が目を向けている方へ僕も視線を送る。そこには顔をしかめる女子と彼女がいた。
「あなたっていっつもそうじゃん。前に遊びに行った時もみんなに合わせて自分から何もしようとしないし、どれがいい?って聞いても自分の意見を何も言わないし。ほんとに何がしたいの?」
「ごめん......」
「じゃあどっちか選んでよ」
「っつ......」
「はぁ、もういいよ。あなたには何も聞かない」
ツカツカとこちらへ向かってくる。気まずいため目を逸らす。「はぁ」とため息を漏らしながら作業をする女子を横目に彼女を観察する。
下を向いていて表情が見えない。
震えているのが分かる。
彼女は呆然と立ち尽くしたのちに早足で教室から出て行ってしまった。
観察していたもののどうすることもできない。仕方ない。見てないことにしよ......。
「おい、お前行けよ」
「え?」
「え?じゃなくて行けって」
「どこに?」
「そりゃ山崎さんのとこに決まってるだろ」
「なんで僕が?」
「いいから行けって」
「だからなんで僕が?」
「理由なんかないとにかく行け」
半強制的に教室から追い出されてしまった。廊下に立って考える。正直なところこのまま教室に入りたいが、これで帰ると田中に怒られそうだ。あんなに真面目な表情の田中を見たことがない。受け入れる他ないか。
どこに行ったのかな......。
僕はあてもなく校内を歩き始める。すると思いの外早く数字を見つけた。
そこはいわゆる中庭で、木々があり、ベンチもいくつかある。昼休みにはそこでお昼ご飯を食べる人も少なくはない。
彼女の方へ向かいながらなんて声をかけようか悩む。
大丈夫?いやこの後に続く会話がない。
気にすることはないよ。これは無責任だ。
あの子ヒステリックだね。思ってもいないことを言うのはよくない。
どうしようかと悩んでいるうちに彼女の後ろまで来てしまった。ベンチは背を向けているため彼女の様子は分からない。
考えはまとまらずに足だけが進んでいく。
く......。
「大丈......」
「ごめんっ」
「え?」
彼女は立ち上がる。
「クラスの雰囲気悪くしちゃったよね」
彼女は前を向いたままで表情が窺えない。
「そんなことより君は......」
「私は大丈夫っ」
笑顔でこちらを振り向く。
「っつ」
「ごめんね、ほんとに。せっかくの文化祭の準備なのにみんなの楽しい空気を台無しにして。みんなに謝らないと」
......。
違う。
これは君じゃない。
君はこんな......。
「大丈夫!」
「え?」
「大丈夫だから!」
「っ」
また後ろを向いてしまう。
張り詰めた沈黙が続く。
「......たい」
「え?」
「文化祭、一緒にまわりたい」
「え?」
どうしてこんな時に......。
でも......。
「分かった......いいよ。だから......」
「うん。ありがとっ。もう......大丈夫......」
夕日が。
振り向いたその顔を。
目元を反射する。
思わず息を呑む。
「先に戻っておいてくれない?私もすぐ行くから......」
「でも......いや、分かった」
僕は彼女に背を向ける。
心配だった。
けれど大丈夫。
あの表情は君だと確信出来たから。




