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チート

 彼女は人の考えていることが分かる。

そう結論づけざるを得なかった。

気づけば五戦五敗。

どうしてこうなった。

一回目の命令以外を除くとこうだ。

「好きな人はいますか?」

「いません。それ質問じゃん」

「質問も命令もほとんど同じでしょ。それより嘘をついたら駄目だよ」

「ついてません」



「あれれ、また勝っちゃった。そうだなー、じゃあ私をベッドまで運んで?」

「えっ?それはちょっと......」

「うーん。私そんなに重くないと思うんだけどな」

「分かった、分かったから」

仕方なく彼女をお姫様抱っこしてベッドまで運ぶ。洗剤の匂いが鼻をついた。

「あはは、ありがとう」

「もう勘弁してくれ」



「あはは、ここまでくるともはやチートだね」

「帰っていい?」

「だーめ。そうだねー......」

少しの間沈黙が続く。

「よし。じゃあ聞くけど君はなんで私の名前を呼んでくれないの?」

「......それは言いたくない」

「なんで?」

「それも言いたくない」

また少しの間沈黙が続く。

こちらを見ていた彼女だが、諦めたようにそっぽを向いた。

「分かった、じゃあこれはなしでいいよ」

彼女にしては珍しい妥協だが僕にとっては助かった。



そしてこれが五回目。

「ごめんね?なんか」

もう言葉も出ない。

「分かった。じゃあこれが最後でいいよ」

「えっ?ほんと?」

「うん、その代わりにちゃんと命令を聞いてね」

「分かった」

「じゃあー......」

もうこの際なんでもいいかもしれない。とにかく終わりたい。なんて思ったのは本音だろうか。

「よし、じゃあ一緒に勉強して?」

「勉強?勉強するの?今から?」

「そうだよー、勉強だよ」

「なんで?」

「なんでってそりゃあ勉強したいからだよ」

真面目な表情でこちらを見てくる。

「でも......」

そこまで言って止める。流石にその程度の良識は持っている。

「人間はね、結局勉強に行く着くの。将来に役立つとか関係ない。ただ欲しくなるの」

「はい?」

「まあまあ細かいことはいいから、やろ?」

「うーん、まあいいけど......」

なんで勉強したいのかいまいちよく分からない。勉強なんかしても面白くないじゃないか。そう思いながら彼女を見ると見るからにうっきうきで勉強の用意を始めている。もしかしたら彼女は余命一年じゃなくなった?じゃあ頭の上に見えるのは?

仕方がない、僕もやろう。

机の向こうで真面目な表情をしている彼女に続いた。



「ねぇーこの問題ってどうするの?」

しばらく経った頃に彼女が尋ねてきた。

「あーこれはね......」

そう言いながら彼女に勉強を教える。人に勉強を教えるのなんていつぶりだろうか。あの頃以来かもしれない。

「だから答えはこうなる」

「えーすっご。よくこんな難しいの分かったね」

満面の笑みでこちらを見てくる。

思わず目を逸らしてしまう。

「別に。このぐらい普通だよ」

「そっかー。ありがとっ」

彼女はまた視線を落とす。僕もまた視線を落とす。


カリカリとシャーペンの音が鳴り響く部屋。

耳をすませば彼女の息づかいさえ聞こえてきそうな距離。

思わず手が止まってしまう。

部屋に二人して真面目に勉強。

なんか学生っぽいな。

自ずと口元が緩む。


こんな所でなにしてんだろ。


そんなことを考えると胸の奥がわずかに温かくなった。

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