トランプ
もしかしたら僕は生涯で女の子の部屋に入るのは最初で最後かもしれない。我に返った今、自分の置かれている状況に動揺を隠せない。
まず目線のやり場に困る。ぬいぐるみがあったり服があったり。どこを見ていても犯罪のような気がしてしまう。
そして次は座る場所だ。彼女から適当に座っておいてとは言われたものの、どこに座れと言うんだ。ベッドに座るのはもってのほかだし、かといって床に座るのも居心地が悪い。
どうしたものか。
彼女は今、一階で着替えたりいろいろと用意してくれているようだ。冷静さを取り戻しながらあたりを見渡すと山積みにされている教科書やノートが散乱しているのが見える。彼女曰く、ちょうど中学生の時の教材やノート類を整理していた途中らしい。いくつか見ていると、中に一際汚いノートがあった。無意識に手を伸ばし、ノートの表紙を見てみると黒いマーカーで塗りつぶされており、表紙が見えない。変だなと思い中を見てみようと思ったが、階段を登ってくる足音が聞こえたため慌ててノートを元あった位置に戻して、床に座り、ぎこちない表情で彼女を出迎えた。
「ごめん遅くなって、麦茶でよかった?」
「あ、う、うん。ありがと」
思わず目を逸らしてしまった。
「ふふっ。そういえば私服を見るの久しぶりでしょ?ほら、どう?」
服をふりふりして見せてくる。頭を高速回転させて別の事を質問した。
「そういえばサイクリング楽しかった?校外学習の」
「あー私それ参加してないんだ、病気の関係で」
彼女は苦笑いで答える。
「あっ、ごめん。無神経だった」
「ふふ、全然大丈夫だよ」
少しの沈黙が流れる。
空気が美味しくない。僕はまたもや頭を高速回転させる。しかし彼女の方が頭の回転は早いようだ。
「君ってさー......」
真面目な表情になったため少し身構える。
「好きな人いるの?」
ゴフッ
飲んでいたお茶を吹き出しそうなる。
「えっ?大丈夫?」
誰のせいだよ。
「急に何?」
冷静を取り戻しながら言う。
「なんとなくいるのかなーって、気になったから」
帰りたくなってきた。
「逆にいるって言うと思う?」
「まあ君は間違いなく、いないって言うだろうね。でも私は分かるから、そういうの」
「はいはい。分かりましたよ、そういうの」
「やっぱりさ、目の前にこんな可愛い女子高校生がいたら好きにならない方が難しいんだよ」
自分で頷きながら言っている。そういうばこんな感じなのも久しぶりだ。空気がふわふわとしてきた。
「でもやっぱり君の口から聞きたいから賭けをしない?」
「賭け?どんなの?」
「うーんそうだなー」
彼女は棚を漁り出す。
「あっ、これはどう?」
嬉しそうな表情でトランプを見せてくる。
「これで勝負して勝った方が一つ命令をして、それを聞いてもらうの」
「嫌だ。君の命令はろくなことじゃなさそうだ」
「えー。お願い!そんなにやばいこと言わないから!あと君が勝つって可能性もあるでしょ?」
「まあ確かにそうかもだけど......」
「いいじゃん!私はもう生涯、トランプで遊ぶことが出来ないかもしれないんだよ?」
上目遣いで僕を見てくる。
......仕方がない
「分かった。じゃあ一回だけだよ?」
「うん、ありがと」
「何をするの?」
「そうだね、ルールも分かりやすいしババ抜きでどう?」
「まあいいよ」
彼女は嬉しそうにトランプを配り始める。
この際なんでも良かった。
この判断を後にとてつもなく後悔すると同時に。
「はい、私の勝ちー!」
揃ったトランプを床に投げて歓喜の声をあげる。
「まじか......」
原因は最初の方に彼女からババを引いたことにある。それ以降彼女にババが回る事は一度も無かった。
まるで彼女からの贈り物のように。
「うーん。どうしようかなー」
「頼むから変なのはやめてくれ」
「そうだねー......決めたっ」
にやりと微笑んでこちらを見る。
「私が終わりって言うまでこのゲームを続ける!」
「いやそれは最初に言ってた話と違うじゃん。一回だけって言ったよね」
「命令は絶対でしょ?ね?」
「うっ」
あざとい笑みだ。
「ふふふ。じゃあもう一度やろうか」
またもやトランプを配り始める。
勝つしかない。
出来るのは祈ることだけだった。




