第十八話 反省会と改善点
アキラたちが『偵察飛行』から無事帰還した、その夜。
「皆の無事を祝して」
「偵察の成功を祝って」
「北の地の確認を祝って」
「乾杯!」
「乾杯!!」
フィルマン・アレオン・ド・ルミエ前侯爵が『蔦屋敷』でささやかな慰労会を開いてくれた。
とはいえアキラをはじめ、皆疲れているだろうからということでごく簡単なものだ。
それでも、前侯爵の気遣いに皆感謝したのだった。
* * *
風呂に入り、祝いの酒を飲み、心尽くしの食事を楽しんだあとは休息である。
お腹がくちくなると疲れがどっと出たようで、午後8時には、全員ベッドで熟睡していたのである。
* * *
翌朝は曇り。
午前7時、目を覚ましたアキラは『蔦屋敷』の窓から外を見て、偵察飛行が晴天に恵まれてよかった、と改めて思った。
顔を洗って食堂へ行くと、近衛騎士団長ヴィクトル・スゴーはすでに席についていたが、ハルトヴィヒら操縦士たちはまだであった。
「もう少し寝かせておいてやろう」
とは近衛騎士団長ヴィクトル・スゴーの言葉。
「交代で、とはいえ2日間の操縦は心身ともに消耗したのだろう」
「そうですね」
アキラと近衛騎士団長ヴィクトル・スゴーは、行動をともにしてはいても操縦は担当しておらず、一晩ぐっすり寝たので疲れもほとんど取れていた。
が、実際に操縦していた4人は、やはりひどく疲れていたと見え、まだ起きてきていなかったのである。
* * *
操縦担当の4人が起きてきたのは午前8時半。
「……おはようございます……」
4人とも、ばつが悪そうな顔をしている。
「いや、かまわん。というより、十分休めたのかな?」
近衛騎士団長ヴィクトル・スゴーが4人を労わるように声を掛けた。
「はい、お陰様で、十分に休ませていただきました。閣下、ありがとうございました」
ハルトヴィヒが代表で礼を言う。
「礼には及ばぬよ。そなたたちの体調管理は重要だからのう」
ホストであるフィルマン・アレオン・ド・ルミエ前侯爵は笑ってそう言うが、言われた4人はさらに恐縮する。
それで、
「私たちはもう食事を済ませたから、席を外しましょう、閣下」
と、アキラが進言する。
「おお、そうだな」
「ですな、閣下」
前侯爵も近衛騎士団長もアキラの言葉を聞き、食堂を後にした。
このおかげで、ハルトヴィヒたち4人は落ち着いて少し遅い朝食を摂ることができたのであった。
* * *
さて、ハルトヴィヒたちも食事を終え、偵察飛行の反省会が行われる。
参加者は偵察飛行に行ってきた6人に加え、オブザーバーとしてフィルマン前侯爵、それに書記として家宰のセヴランが参加している。
「概ねうまくいったと思うのですが」
まずアキラが概略の感想を述べる。
「細かな点での反省項目や改善提案があると思います」
「同感だ」
近衛騎士団長ヴィクトル・スゴーが頷いた。
「私の見たところ、全体の行動に問題はなかった。今回の反省すべき点を改善すれば、次回は目的地まで飛べるであろう」
それには、全員異論はない。
今回の偵察飛行には、確かな手応えがあった。
「では、反省点、改善点を話し合いましょう」
アキラが進行役を務める。
「では、まず私から。……もう少し、2機間での意思疎通ができたら、と思う。……技術陣には、ぜひとも改善してほしい」
近衛騎士団長ヴィクトル・スゴーである。
「私としては、飲料水に一工夫ほしいかなと思いました」
これはアキラ。偵察飛行中にハルトヴィヒとも話し合った内容である。
「ただの水ではなく、味の付いた果実水のようなものが欲しいと思いました」
「ジュースではいけないのかね?」
フィルマン前侯爵が尋ねる。
「ええ、果汁そのままですと日持ちしないのですよ」
「うむ、確かにな」
「冷蔵庫を積むほどの余裕はありませんし」
それならもっと他に、持っていきたいものがある、とアキラは言った。
「なるほどのう」
「なおこれは、このあと王都でハルトヴィヒの奥方のリーゼに研究してもらおうと思っています」
「それはよい、ぜひ研究してもらいたい」
ヴィクトル・スゴーも大賛成であった。
「私としましては、もう少し速度が出たらな、と思います」
これは副操縦士を務めたレイモンの意見である。
「それは僕も思った。推進機をもう1組増やせないか検討してみよう」
速度が上がれば、1日の翔破距離が長くなるからだ。
ハルトヴィヒも同意した。
その他にも、もう少し下方の視界をよくしたい、という意見や、機内の気密が破れた際に備えて酸素マスクがあったらどうか、という意見も出た。
それらは書き留められ、機体や計画の改善に役立てられる。
* * *
昼食後、王都から来た一行は帰ることになる。
そこにアキラが加わる。
言わずと知れた、飲料水の改善について、リーゼロッテと相談するためだ。
予定としては王都で一泊し、明日の午後戻ってくることになる。
「いってらっしゃいませ、あなた。お気を付けて」
「ああ。あとを頼む」
「ちちうえ、いってらっしゃいませ」
「とーさま、いってらっしゃい」
タクミとエミーもアキラを見送っている。
「行ってくるよ」
そして一行を乗せた2機の『ヴァイエ』はド・ラマーク領を飛び立ったのである。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は2026年4月25日(土)10:00の予定です。
20260418 修正
(誤)それに書紀として家宰のセヴランが参加している。
(正)それに書記として家宰のセヴランが参加している。




