第十九話 リーゼロッテへの相談
ド・ラマーク領から王都への飛行は順調であった。
予定どおり、午前10時には王都の飛行場に到着したのだ。
そして待機していた『自動車』に乗って王城へ。
近衛騎士団長ヴィクトル・スゴーが同乗しているのですべて顔パスである。
* * *
「アキラ、ハルトヴィヒ、ヴィクトルよ、探検のための偵察、成功したとのこと、よくやってくれた」
そして、当然ながら国王への報告が行われる(アンリ、シャルル、レイモンらは謁見していない)。
詳細は報告書と近衛騎士団長ヴィクトル・スゴーからの説明にて行われるため、アキラとハルトヴィヒはここで放免である(2人はやるべきことがある、という背景もある)。
「まずは家へ来てくれ」
「ああ、お邪魔させてもらうよ」
王宮から出たアキラとハルトヴィヒは、城の敷地内にあるハルトヴィヒの家へと向かった。
「ただいま、ロッテ」
「おかえりなさい。……まあ、アキラさん!」
「リーゼ、久しぶりだね」
「とにかく、中へどうぞ」
リーゼロッテはアキラを招き入れた。
通されたのはダイニング。ちょうどお昼の用意をしていたようだ。
「パパ、おかえりなさい! あ、アキラさま、ごぶさたしてます!」
2人の娘、ヘンリエッタがトコトコとやって来て挨拶をした。
「エッタちゃん、こんにちは。大きくなったね」
ヘンリエッタはもう9歳、アキラの息子タクミと同い年である。
「ていさつひこう、うまくいったんですか?」
「ああ、うまくいったよ。さっき王様に報告してきたところだ」
「わあ、おめでとうございます!」
「はは、ありがとう」
などという微笑ましいやり取りのあと、まずは昼食である。
「アキラさんが見えるとわかっていたら、もっとちゃんとしたものを作ったのに」
「いやいや、こういう家庭料理の方がいいよ」
この日のラグランジュ家の昼食の献立は、焼き立てのパン、フライドポテト、シュニッツェル(豚肉を薄くのばし、パン粉を付けて揚げる)、茹でたソーセージ、である。
飲み物はりんごジュース。
「いただきます」
「いただきます」
「いただきましゅ」
「いただきます。……この挨拶、アキラのところにいる間に習慣付いちゃったわ」
「はは、そうだね」
などと、気のおけない友人同士の会話が弾む。
また、
「アキラさま、タクミさんやエミーちゃんはおげんきですか?」
と、ヘンリエッタからの質問も。
「うん、元気だよ。毎日野山を走り回ってる」
「いいなあ……こちらにはちかくにのはらがないんです」
「そりゃ、王都だからなあ」
あるのは畑と果樹園である。
少し残っていた林も、クワ畑になってしまっていた。
ヘンリエッタは、王都よりも地方の方が性に合っていそうである……。
「許可が下りたら遊びにおいで」
「はい、そのときはぜひ」
飛行機が使えれば日帰りも可能である(操縦士の確保が必須だが)。
そのあたりは、うまい建前……『乗り心地と安全性の確認』とか『年少者が乗った場合の確認』などと理由付ければよさそうだ、とアキラは思っている。
* * *
そして本題である。
「今日はリーゼに相談したいことがあってやって来たんだ」
「あら、何かしら」
「偵察の時に持っていく飲料水についてなんだよ」
「ふうん……詳しく聞かせてちょうだい」
「もちろんだ」
アキラは事情を説明した……。
「なるほどね……日持ちして、しかも美味しいものがほしい、と」
「長時間の飛行ってストレスがすごいから、食事や飲み物で少しでも楽しめたらなと思うんだ」
「あなたもそうだったの、ハル?」
「そうだったよ……」
「そうなのね……うーん……まず、何日くらい保てばいいのかしら」
「最低でも3日、できれば5日かな」
「それくらいならなんとかなりそうね」
リーゼロッテは考え、まず1つの案を出す。
「まず、水は煮沸して瓶に詰めるといいわ。その瓶も煮沸消毒しておいたものならなおよし。そしてきっちりと栓をすれば、1週間は保つでしょう」
「ああ、瓶を煮沸するのを忘れていたな」
アキラも煮沸消毒は気が付いていたが、少々不十分だったようだと反省した。
「で、味をつける方法だけど……アキラさんは何か案はあるの?」
「一応は。……『お茶』を細かい粉末にするんだ。『抹茶』というんだけど」
「なるほどね」
『携通』にあった情報を元にしている。
実際、現代日本でも、粉状にしたお茶は販売されており、水やお湯に溶かして手軽に飲める飲み物の素である。
「それから、クワの実を砂糖に漬けて作ったクワの実シロップ」
「ああ、それを水で薄めるわけね。砂糖分が多くて水分が少ないから日持ちしそうね」
「そうなんだ」
現代日本では梅の実で作る『梅シロップ』が一般的である(クワの実は一般に流通していない)。
「まだあるのかしら?」
「アイデアはあるんだけど、実現していないんだ」
「それは?」
「果汁を濃縮するんだ。水分が減って、糖分が濃くなれば日持ちするはずだから」
「魔法『《デハイドレーション》』を使えばいいんじゃない?」
「そう、それなんだが、使える人がいないんだ……」
「ああ……そうなのね」
その昔、リーゼロッテは『蔦屋敷』で硫酸銅を作るため『希硫酸』に『《デハイドレーション》』を掛けることで脱水して『濃硫酸』を作ったことがあった。
「濃縮ジュースを水で薄めればそこそこ飲めるものになりそうね」
「濃縮器を作ってもらえたら助かるな」
「できるとは思うわ」
なんとか、アキラの要望はかなえられそうである……。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は2026年5月2日(土)10:00の予定です。
20260425 修正
(誤)詳細は報告書と近衛騎士団長ヴィクトル・スゴーからの説明にて行われるため、ゴローとハルトヴィヒはここで放免である
(正)詳細は報告書と近衛騎士団長ヴィクトル・スゴーからの説明にて行われるため、アキラとハルトヴィヒはここで放免である
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