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第十六話 アキラの決断

 高度を落とす『ヴァイエ』2機。

 眼下には着陸予定地である砂の平原が見える。


「平らだからどこでもよさそうだな」

 が、対地高度が50メートルほどになった時、『ヴァイエ2』から発光信号が送られてきた。

 『4』(・・・・ー)、一時止まれの意味である。

「ハルト、降下一時停止」

「わかった」

 アキラは操縦士であるハルトヴィヒに伝えると共に、『肯定』を意味する緑の点滅信号を送った。

「おそらく、地上の安全性を確認しようというんだろう」

 アキラはそう解釈した。


 『ヴァイエ1』と『ヴァイエ2』の2機は空中に停止し、地上を観察する。

「今、何か走っていったな」

「見た。小さな動物だ」


 ネズミくらいの小さな動物が機影を見て逃げていくのを見た以外、動物はいなかった。

「水場なんだから、野生動物が集まってもおかしくはないんだが」

 水鳥も小鳥もいないというのは違和感がある。

「……ひょっとして、あの水、一見澄んでいるけど、毒性があるのかもしれないぞ」

 アキラは思いつきを口にした。

「調べる方法がないな……」

「騎士団長の固有魔法(スキル)で危険を察知できないものかな?」

「それは、着陸してみないとわからないな」


 そして『ヴァイエ2』がゆっくり降下し始めたのを見て、『ヴァイエ1』も降下を再開。

 数分後には、湖横の砂地に2機は着陸していたのである。


*   *   *


 今回も『ヴァイエ2』から近衛騎士団長ヴィクトル・スゴーが先に降り立った。

 そして周囲をぐるりと歩き回り、着陸から5分後、『ヴァイエ1』に向かって右手を上げ、左手で手招きをする。

 事前に取り決めておいた、『安全だから出てこい』の合図である。


「よし、それじゃあ出ようか」

 ここの標高はおよそ2500メートル、短時間なら一般人でも問題はない。

 アキラ、ハルトヴィヒ、レイモンらも用心しながら『ヴァイエ1』の扉を開け、外に出た。


「ああ、なんとなく空気が違うな」

「乾燥している感じがするね」

「水辺なのに……」

 それが違う土地へ来るということなのだろうと、3人は思った。


「それに寒い」

「だなあ」

 まだ午前中とはいえ、気温は摂氏5度くらいである。

 空の上は寒いので基本的に厚着をしているからいいようなものの、ド・ラマーク領よりも5度以上気温が低い。

「北へ来たことを感じるな」

「そういうことだな」

 周囲を見回すアキラ。

 ここから見て南には、昨日越えてきた高峰が見え、そこには氷河がかかっており、こちら側、つまり北へと流れているようだ。

 氷河の方向は完全に北へというわけではなく、北西に向いているので、アキラたちの目指す方向とは異なる。


「さてアキラ殿、この場所自体には危険はないと思われるのだが、あの湖は少々危険な匂いがする」

 アキラたちが周囲の確認を終えたところを見計らい、近衛騎士団長ヴィクトル・スゴーが口を開いた。

「あの水は飲めないようだ」

「きれいな水ですけどね」

「見た目だけだ。何か毒……に近い何かが溶け込んでいるのではないかな」

「調べてみたいですね……」

 持ち帰って、ハルトヴィヒの奥方……魔法薬師であるリーゼロッテに調べてもらいたい、とアキラは考えている。


「アキラ、手袋をして空き瓶に水を詰めたらどうだろう?」

「それがいいだろうな」

 水際の砂利や石を観察したところ、強酸とか強アルカリのようなものではなさそうである。

 というのも石灰岩と思われる岩石が溶けていないから強酸ではないことがわかる。

 そして、予備部品の1つであるアルミニウムの線材も溶けなかったので、水酸化ナトリウムのような強アルカリでもなさそうである。

 臭気はなく、透明度も高い。

「ガラス瓶に詰めて、しっかりと栓をしておかないとな」

「それを、緩衝材を詰めた箱にしまおう」

 食料を入れてきた箱が2つ空いているので、その1つを使うことにした。


*   *   *


「これでよし」

 手早く採取を済ませるアキラ。

 使った手袋も、念のため空き箱に入れておく。

 その間に近衛騎士団長ヴィクトル・スゴーは周囲の偵察を行い、水質の懸念はあるものの、ここも中間基地の候補地としてよさそうだと結論を出していた。


「さて、せっかく全員で顔を合わせたのだから、これからどうするか相談して決めたい」

 近衛騎士団長ヴィクトル・スゴーが言う。

「時刻はおおよそ9時になるところですね。予定どおりでしたら、ここから引き返すことになりますが」

 アキラがまず、常識的な意見を口にする。

「そうだな、安全のためにはそれが一番だな。だが……」

「……もう少しだけ先へ行ってみたい思いもある、そうですね、閣下?」

 これはハルトヴィヒである。

 この意見も彼らに共通した、正直な意見であった。

「うーん……」

 しばし悩んだ末に、アキラは結論を出した。

「戻りましょう」

「それでいいのだな?」

 この探検飛行を最も楽しみにしていたのがアキラだと知っているがゆえに、近衛騎士団長ヴィクトル・スゴーは意外そうな顔をした。


「はい。もう少し、もう少し……となるとキリがないですから。それに、全員の安全を守るのが最優先だと思います。リスクは最小限に抑えましょう」

「……」

「わかった。探検飛行のリーダーはアキラ殿だ。皆、それでいいな?」

「はい」

「異議はありません」

「戻りましょう」

「安全第一、ですね」

「よし、戻るぞ」

 戻ることに誰も反対はしなかったので、近衛騎士団長ヴィクトル・スゴーはここで引き返す、と宣言をした。


「帰りは地図の作成はせずともいいから、もっと速度を出せる。今日中に帰還するぞ」

「はい、閣下」

「よし、それでは直ぐに出発だ」


 予定時刻の午前9時を5分ほど過ぎたが、2機はド・ラマーク領へと向かうために離陸したのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2026年4月11日(土)10:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
>>アキラの決断 お、とうとうSilk Lordとして世界征服を始めるんですね!! >>眼下には着陸予定地である砂の平原が見える。 その砂の下には巨大なワームが潜んでいるのがお約束。 >>「お…
>>の決断 仁「てーとく?」 56「は?」 明「山本・・・・・」 >>何か走って 仁「濃ゆい顔の・・・」 56「手足の生えた蕪のような・・・」 明「いやいやいやいや」 >>空気が違う 仁「放ゲフン…
今回が最初で最後の偵察という訳ではないですからねー 迷うならば退く方が賢明ですよねえ
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