第十五話 調査2日目
ヴィクトル・スゴーの固有魔法どおり、その夜は何ごともなく明けた。
「騎士団長の固有魔法はさすがだな」
『危険』を察知することのできる固有魔法は貴重だ。
そのため、国家事業とも言えるこの予備調査飛行に、重鎮の一角を務める近衛騎士団長ヴィクトル・スゴーが参加しているわけである。
国も、この探検行に大きな期待を寄せているという証拠である。
「ハルト、体調はどうだい?」
「うん、ちゃんと寝られたから大丈夫だ」
分割したとはいえ十分な睡眠時間を確保できたため、操縦士たちのコンディションはまずまずである。
なにしろ王都でも、飛行場で、ではあるが『ヴァイエ』の中で寝る訓練も行ってきているのである。
そのため、ハルトヴィヒもレイモンも、またアンリもシャルルも、十分な休息を取ることができていた。
予定した時間どおりに朝食……乾パンと甘いホットミルク……を摂る。
そしてこれも予定どおり、午前6時、出発である。
まず『ヴァイエ1』が、1分遅れて『ヴァイエ2』が発進した。
2機は再び北を目指す。
空は晴れている。
東の地平線から昇ってくる太陽が北の山々を照らした。
「なんというか、荘厳な眺めだな……」
たなびく雲が茜色に染まり、太陽の光が山々を赤く染める。
冷たいはずの雪が薄紅色に染まるひととき。『モルゲンロート』である。
太陽が昇るにつれ、茜色は橙色となり、金色へと変化する。
雪山が元の白さを取り戻したのは午前7時頃。
そして一行の前には、もう立ちはだかる山々はなかった。
すべてが機体よりも低い位置にある。
今、『ヴァイエ1』と『ヴァイエ2』は、広々とした高原の上を飛んでいた。
眼下には険しさを減じた山々が連なっており、ところどころには湖や草原らしき場所も見える。
「あの山も雪を被ってはいるが、それは北へ来たからで、標高は3000メートルを切ったぞ」
「ついに北の山を越えたんだな!」
「そういうことになるな」
「おめでとう!」
「やったな!」
ハルトヴィヒは操縦桿を握っているので握手もハイタッチもできない。アキラは言葉だけで喜びを分かち合う。
とはいえ、まだ人の営みの痕跡は見えなかった……。
* * *
『ヴァイエ2』でも同様に喜び合っていた。
「これで今回の調査飛行は半ば成功だな」
近衛騎士団長ヴィクトル・スゴーもいかつい顔をほころばせていた。
「あとは、どこまで飛ぶか、だな」
計画としては、午前9時に引き返すことになっている。
帰路は地図の作成をする必要がないので、速度を3割増しにできるため、夕方までには帰還できるはずなのだ。
それ以上遅くなると夜になってしまうため、危険度が増す。
もっとも、ハルトヴィヒたちは夜間の飛行訓練も行ってはいるが、リスクは避けるに越したことはない。
今も、目視と手描きによる地図は作成中である。
目印にしやすいのは山もそうだが、湖や川も特徴的なものがあればそれを使える。
というよりも、山が低くなりつつあるため、目印としては湖の形を記録していくことになる。
「あの湖はデカいし、真ん丸だな。目印になるかもしれない」
「アキラ、右手前方に赤い岩肌の山があるぞ。あれも目印になるんじゃないか?」
「ああ、いい目印だな」
水の量によって形が変わってしまう湖よりも山のほうが目印としては有効だ。
ただ雪が降って赤い岩肌が隠れてしまうと意味がないが……。
「あの山はどうだ? それほど高くはないが、きれいな円錐形をしているぞ」
「ああ、本当だな……多分『成層火山』だ」
成層火山とは、度重なる噴火により、溶岩・火山灰・火山礫などが円錐状に積み重なったものである。
ほぼ円錐状で、日本では富士山・後方羊蹄山・鳥海山・浅間山などがそれである。
「あっちには煙を噴いている山がある。あれも目印になるだろう?」
こちらへ来ると活火山も幾つか見られるようだ。
おかげで目印にはこと欠かない。
時刻は午前8時を回ったところ。あと1時間弱で、どこまで行けるか……。
* * *
『ヴァイエ2』でも、眼下の景色の変化を地図に落とし込んでいる。
「あと1時間で見通しは立つであろうかな……」
近衛騎士団長ヴィクトル・スゴーは、この調査飛行の終わりを感じ取っていた。
ここまで来れば、今回入手できる情報はほぼ手に入ったといえる。
残るはもう1箇所、中間着陸できる場所が見つかるとさらによい。
そして、得た情報を持ち帰ること、これは必須である。
ゆえに危険は冒せない。
これまで以上に注意深く、地上を観察するヴィクトル・スゴーであった。
* * *
午前8時半。
「アキラ殿、あそこに見える平地はどうでしょう?」
副操縦士のレイモンがアキラを呼んだ。
「あそこか……よさそうだな。中間基地の候補になりそうだ」
小さな湖があり、その周りは広い砂の平原に見える。
おそらくここも、雪解け水の有無で水位を大きく変えるのだろうと思われた。
「『ヴァイエ2』でも見つけているだろうから、確認してみるか」
ということで、取り決めたコードを発信する。
『5』(・・・・・)『高度落とせ』である。
これだけで、あの場所を見てみようという意志は伝わるだろう。
そして反対なら赤色の点滅信号が返ってくるはずだ。
* * *
返ってきた信号は、『了解』を意味する緑の点滅信号だった。
「よしハルト、高度を落としていこう。よさそうな場所だったら着陸だ」
「了解」
まず『ヴァイエ1』が高度を落とし、『ヴァイエ2』がそれに続く。
2機は、眼下に広がる平原へと降下していった……。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は2026年4月4日(土)10:00の予定です。




