83話 帝王は嘘つき
よろしくお願いします。
「帝王様!お願いします!!」
「なんで?.....なんでフィルスがこの子を庇うの?!僕は怒ってるんだ!!フィルスを傷つけたこの子に!!なんで斬られた君が!この子を庇うわけ?!」
〈なんで、か.....確かになんでだろ?僕は土下座してまでこの子を助けようとするのだろう?まぁ、悪い気はしないけどさ.....〉
フィルスは肩の傷を治してから帝王であるハーリスに頭を下げていた。青筋を浮かべる帝王はまさに鬼だがここで退いたら後ろで泣き崩れるこの子が重い罪を受けてしまう。それだけはならない気がするのだ。
「立派な動機があって、この子も苦しんでいたから.....ですかね?それに──この子は!必ず改心する!そう直感ですが思うからです」
ハーリスはフィルスから視線を逸らして少年を見つめた。
最早、そこに先程の殺人鬼の面影はなく、無邪気に笑って泣く子供の様相がそこにはあった。
ハーリスは「はぁ」と溜息を吐くとフィルスを犀利な眼で見下す。
「君がどうしようもないお人好しだっていうのは分かってたけど、まさかここまでとはね!この子は君を!.....傷つけたんだよ?」
「.....それ以上にこの子は苦しんで、痛んでいたと僕は思います!一他人の意見ですし、この子の全てを知っている訳ではありませんがそれでも!この子は許されるべきだと思うんです!」
フィルスの言葉にハーリスは暫く沈黙した。
それはフィルスの必死さや、何故そこまでして彼を庇うのか、という疑問を一人問答しているからだ。
暫く押し黙ったハーリスは再び少年に目を向けた。
「.....君、名前は?」
「.....《ダンクス》、です.....」
「はぁ......フィルスの頼みだし、傷つけられた本人が許すっていうんだからね。納得しないと.....いい?人を殺すなとも、傷つけるなとも言わない。だけど!それは最小限で済ませること!私利私欲だけではないことをちゃんと考えてからだよ!」
この御時世。人を殺すな、と言う方が無理な話かもしれない。だから法律とあやふやなのだ。だから、せめて私利私欲でないことを前提に動いてほしい、というハーリスからの言葉にダンクスは何度も首を大きく縦に振った。
「.....はい」
「ダンクス君。人は独りで生きていないんだよ.....君が歩いたその道には必ず、誰かの助けがあったんだ。その事を忘れないでよね」
「う゛うぅ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛.....!」
再び、溢れる涙を流し声にならない声を出して何度も頷くダンクスを優しく、ゆっくりと抱き寄せた。
それはまるで泣き止むのをそっと待つように.....
「ありがとうございました。少しは気持ちが晴れた気がしますッス!」
「うん、それは良かった」
「そうだね。じゃっ!僕達行くところがあるから!」
〈あぁ、行くんだね。すっかり忘れてたし、帰りたい.....〉
フィルスは今、兎に角、疲れている。自分の好きな場所へ行くと言われているが、それなら王城のベッドが良い。
眠気がマックスになる前に帰りたいものだが.....
〈ハーリスの事だから分かんないよねぇ.....〉
少し諦めにも近い感情でため息を吐くフィルス。だが、そんなことお構い無しにフィルスの手を引くハーリスは無邪気な笑みを浮かべており、それにつられてフィルスは苦笑してしまう。
「フィルスさん.....闇って深いんですよ。貴方が思っている以上に.....」
去り行くフィルスに向かって呟くようにそう言ってダンクスは姿を消した。
一方でフィルスは再び呆れた眼差しを帝王に送っていた。帝王もそれを感じ取っていたのだろう。フィルスと目を合わせようとしない。
「ここ.....何屋さんかな?」
「な、何って.....か、かか、書いてあるじゃん。き、喫茶店だよ.....」
「......僕、行きたいなんて言ったっけ?」
「い、言ってた──「言ってないよ!」──ひぃ!?」
〈まったく!結局、自分の行きたかった場所じゃんか!!なんでハーリスはいつもいつもこうなの!?自分が行きたいならそう言えば良かったじゃないか!〉
フィルスは喫茶店だったことに怒っているわけではない。ただ、嘘をついたことに怒っているのだ。結局、何処に行こうとフィルスは護衛なので付いて行かなければいけないわけで、拒否権も拒否る必要もないのだから。
「はぁ.....何はともあれ、先ずは中に入ろう。外で騒がれるのは他のお客さんにも、店員さんにも失礼だからね。」
「やったー!クレプー作ってないかな?」
「さぁ.....?どうだろうね」
こうしてフィルスとハーリスの慌ただしくも楽しい散歩と護衛は終わり、王城へと帰ったのであった。
ありがとうございました。
まったり回も案外書いてて面白いものですね・・・・・・次回はどんな急展開があるのか!お楽しみにっ!