第八話 壮絶な過去 ③
影絵の様に真っ黒な彼は、芝居の台詞のように語りはじめた。
『ぼくは、国王から結果を求められて焦っていた。戦場で余剰魔力を集めて、攻撃魔法の威力の向上に結び付けるのが研究課題だ。最初のきっかけは、この世界の人が死んだら、魔力は何処へ行くのだろうという疑問からだった。もしも、人の死と同時に魔力が霧散するとしたならば、戦場は魔素で溢れかえるはずだ。魔力は、いや魔素は消滅しない。常に移動する事で力を発揮する。分解されて消失するのではなく、変化していくのが魔素という物質だ!』
黒い影は、熱意を込めて語りだす。
『そこで、ぼくはある仮説を立てた。魔力は魂と共に死者の世界へ行くのではないのだろうか? 検証する為に、ぼくは罪人を使って実験を繰り返した。しかし、魔力は何処から来るのか、何処へ行くのかは、解明されなかった。死者の魂の行き先もわからない。最初は、いろんな人たちが、素晴らしい研究だと言っていたのに、いつまでも成果があがらないとなると、次々と離れていった。実験を繰り返すぼくを、奇異な目で見て周囲は理解してくれない。馬鹿にしやがって …… 覚えていろ!ぼくは、天才なんだ!』
彼の、狂気を孕んだ叫びが響き、疲れはてた様子で影はうずくまりながら語り続ける。
『この世界の伝承に、死者の魂は、『死者の門』をくぐり、次の世に向かうといわれている。では、概念でしかない『死者の門』を、魔術で創りだして、門を閉ざせば、死者の魂ごと魔力を現世に留める事が出来るのではないだろうか?』
彼の言葉が、だんだん力強くなっていった。
『ぼくの仮説を実証するのに、相応しい『場』を探し求めた。そこで、見つけた! 『封印の扉』だ! 太古の竜族が、異次元からの侵略者を封印した『場』こそ、新たに『死者の門』を創りだすのに相応しい! こうして、ぼくの仮説は実証された!『死者の門』は完成した! 門を閉ざした事で周囲に膨大な死者の魔力が溢れた! ぼくは、現世に『死者の国』を創り出したのだ!』
狂喜する影は、すぐに項垂れてしまった。
『しかし、『死者の門』に溢れる魔力は、生者には扱えなかった。死者の魔力には、死者の魂が共にあり、魔素を所有しているからだ。…… 邪魔な死者の魂を隸属させ、魔力を捧げさせる存在『死者の王』が必要だ! ぼくは研究を続けて、遂に『死者の王』になった! これで、ぼくは万能の王だ! この世界に君臨してやる! ぼくから全てを奪った異世界に、復讐してやるんだ! あーはははははっ! あーはははは!』
影は、叫びながら、笑いながら、歪んで消えていった。
「これが、『初代死者の王』の残留思念よ …… 」
亜希子は、うんざりだと言わんばかりに手を振った。指先に、黒い何かがまとわりつくようにあったが、徐々に霧散していった。
「同学年だったけど、クラスが違ったから、私は彼を知らなかった。彼が何を奪われ、何に対して復讐したかったのか知らない。だだ彼は、とても優秀な魔術師だった。だから、『死者の門』を創り出して、死後の世界を歪めてしまったの。そして、『死者の王』となった彼は、世界を蹂躙したわ。生者の命を奪い、死者の魔力を奪い、膨大な魔力で国々を滅ぼした。『死者の王』は、世界を滅ぼそうとした。世界最強の竜族と『迷い人』達は協力して、彼を止めようとしたわ。話し合いは決裂して、凄まじい戦いの果て『死者の王』は、討ち取られた。ただ一人を相手に、勝利まで約十年かかったのよ」
香澄は、震えの止まらない亜希子の手を握り締めながら、ずっと黙って話を聴いていた。
「『死者の王』を討ち取っても、『死者の門』は残ったの。魔霧の森は現世に造られた死後の世界だった。死者の魔力は、魔素の霧となり漂い続ける。『死者の王』の命令に従い、魔力を解放して捧げた死者の魂は、森の木々に宿り眠り続ける。古代竜族が、悪魔族を封印した『封印の扉』を利用して『死者の門』が創られたせいで、『死者の門』は簡単に破壊出来ないのよ。破壊して、『封印の扉』までが壊れて『異界の悪魔族』が異空間から出てしまっても、再び封印するなんて不可能だった。歪みきった魔霧の森を、安定させる為に、竜族と『迷い人』達は、『魔術の杭』を魔霧の森に打ちこんだ。そこは、『聖域』と呼ばれているの。『聖域』は、必要なだけ増やして今は八ヶ所あるわ。こうして、魔霧の森は現在のかたちになったのよ。でもね、所詮は時間稼ぎでしかなかったの」
香澄は、亜希子の話を聴きながら、考えていた。何故『死者の王』が、自分にこんな話ををする必要があるのか? そして、自分にどう関わってくるのかを語られるのを待っていた。
「もうわかるだろうけど、魔霧となった魔力は、歴代の『死者の王』が使う事で循環して世界に還元されているの。だから、問題ない。だけど『死者の門』をくぐれない魂は、次の世に逝けなくなってから、世界は歪み続けている! その歪みが、そろそろ限界を迎えそうなの。あの魔霧の森の嵐は、その予兆のようなものだわ …… 」
亜希子は、香澄の両手を掴み懇願した。麗しい顔が、香澄の鼻先までぐっと近くなった。亜希子は、真剣な表情で言ったのだった。
「そこで、川端香澄さん。何とかして下さい!
」
「 ……………… は?」
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