第十六話 誓約の女神
………… 長いです。
魔方陣の外にいるはずの、アレクシリスと杜若の会話が、頭上から反響しながら降りそそぐように聞こえてくる。やがて、その響きが徐々に間延びしていき、音の間隔が長くなり、とうとう意味をなさない雑音になって消えていく。
魔方陣はもう消えてしまったが、辺りはぼんやりとした淡い光に包まれている。広さが把握できない空間は、夢の中にいる様な不思議な感覚を香澄に与えていた。
香澄は、そういえば藍白が、魔方陣に飛び込んで来ていたはずだと思い出した。一方、香澄の腰にしがみついた少年は、低い獣の様な唸り声を一点にむけて発している。
唐突に、藍白が横に現れて、香澄に駆け寄り黒い霧の少年を蹴り飛ばそうとした。すぐさま少年は、香澄の腰を抱いたまま、横に跳びそれを避ける。少年に、腹部を圧迫された香澄は、低い呻き声をあげた。
「この野郎! 香澄ちゃんから、離れろ!」
『どいつもこいつも、同じ台詞を!』
「あっ! 二人とも、やめて!」
少年は、香澄から手を離して藍白の脚を掴んで振り払った。藍白は投げ飛ばされたが、空中で回転して、すぐに体勢を立て直し、少年に更に蹴り技を繰り出していく。少年も、攻撃を避けながら黒い霧の鎌を出して、藍白を斬りつけようと横に薙ぎ払った。
アクション映画さながらの、二人は見事な動きだったが、素早過ぎて全ての動きを、香澄は目で追いきれない。
黒い霧の少年が、蘇芳から聞いたように『異界の悪魔族』で、遥か昔より竜族の討伐対象だというのも、藍白と互角に渡り合う姿を見て納得がいった。
それはともかく、香澄は藍白と黒い霧の少年のどちらも傷付いて欲しくない。止めなければと、二人に近づこうとした。
しかし、香澄はグイッと、背後から抱きよせられて、その場から引き離される。何者かの手で口を塞がれ、悲鳴を飲み込まされた恐怖と反対に、背中にフワフワした肉体の感触がする。おまけに、香澄の左右の腕に、ムニッとした柔らかく温かな体温を押し付けられて、ギョッとした。
「だ、誰? え、あ、きゃっ、何をするの?」
『うふふ』
『あら、まあ』
『ふふっ』
香澄は、クスクス微笑を浮かべ、薄いドレスを着た、三人の色っぽい美女に囲まれている。それぞれ香澄の頬にふれたり、指を絡ませてきたり、髪に触れたりしてくる。香澄は、彼女達の色香に、どぎまぎしながら抵抗しようとした。だが、彼女達は楽しげに、ますます身を寄せてくる。
いつの間にか、少年と藍白の姿が何処にも見えなくなっていた。周りも少し薄暗く、香澄達だけ、別の空間に移動したようだ。
「あんた達! いい加減にしなさい!」
怒鳴りつけたのは、香澄ではない。目の前に、スカート丈がひざ下の標準的なセーラー服を着た女子高生が仁王立ちで指図していた。黒髪のショートヘアに、緑がかかった薄い色素の瞳が印象的な、ちょっと痩せぎみな少女だ。
「ほらほら、ちゃんとお客様を、お席にご案内してちょうだい!」
香澄は、壁の三面が鏡張りになった、コの字型に仕切られた場所へ、美女達に囲まれながら連行された。香澄の抵抗空しく、ラグジュアリーな応接セットのソファーに座らされる。
天井から小さめのミラーボールが、控えめに光を反射させている。両サイドにお嬢さん達がぴったり座り、後ろのお嬢さんは、香澄の乱れてしまった髪を勝手に解いて、ブラッシングをはじめた。
香澄は、色とりどりの薄くて露出の多いドレス姿の、ムチムチな美しいお嬢さん方にすり寄られている。混乱した香澄は、キャバクラってこんな感じなのかな? と、やや間違った感想を抱いていた。
これで、水割りでも出てきたら、本当に高級キャバクラの様だが、社会通念的にママがセーラー服の女子高生なのはあり得ないと思った。
「ここは、キャバクラじゃないですよ。ちょっとだけ …… かなり、それっぽいけど違います」
「ごめんなさい! 心の声が漏れてましたかっ?!」
「いいえ、そういう空間なんです。外界と時間と空間を切り離し、『誓約の女神』が契約者の本心を暴き、嘘偽りなく話し合うのが目的の場なのです。それで、彼女達はギャバ嬢ではなく『誓約の精霊』です」
「精霊さん?」
香澄が彼女達に視線を向けると、両サイドのお嬢さんはにっこりと微笑み、鏡越しに背後で髪をいじるお嬢さんは、嬉しそうに髪をアレンジしている。
そんな、真ん中で呆けている美少女がいる。香澄は、それが自分だと遅れて気がついた。自分でも、まだ見慣れていない顔が、歪みのない鏡にはっきり映っている。
香澄は、今の自分が本来の自分とは別人の容姿なのだと、ついつい、鏡の中の美少女に見いってしまう。
「あ、名刺、名刺、ねえ、誰か名刺持って来てよ!」
黒いボーイ服の美女が、銀のトレイに一枚の名刺を乗せて現れて跪き、香澄に差し出した。キャバクラじゃないと言いながら、従業員も内装もどう見たって夜のお店だ。香澄は、怖々その名刺を受け取り読み上げた。
「カジェード大陸限定、契約仲介業、『在沢司法書士事務所』、『誓約の女神』、在沢、真幌、開業八百周年記念、特別契約月間中 …… ふざけないで下さい」
セーラー服の少女は、居住まいを正して真剣な顔をした。
「ふざけてないし、真面目にそうです。在沢真幌です。冗談抜きの永遠の十七歳。諸事情で、八百年前から『誓約の女神』やってます。どうぞ、よろしくお願いいたします」
「なっ! ええっ?」
「自己紹介が、済んだところで本題に入りましょう。ただ今、特別契約月間中ですので、川端さんには、詳しい説明とアドバイスをご提供致します」
異世界転移して、まだほんの数日 …… 。香澄は、自分のスルースキルがどんどんレベルアップしている気がしている。色々と尋ねたかったが、まずは相手の出方をみてから行動的しようと考えた。そうしなければ、状況を把握する事すらできない現実がつらい。
「はい。よろしくお願いいたします?」
「まあ、川端さんには納得いかない事だらけでしょうね。この場は、『異界の悪魔』の要請により開かれた、誓約専門の亜空間『在沢司法書士事務所』です。私達は、捧げられた魔力を報酬に、公平で厳正な誓約を仲介致します。川端香澄さん、貴女は『異界の悪魔』との『主従の誓約』を望みますか?」
彼女が、『誓約の女神』かどうか、香澄には確かめるすべはない。自分で判断するしかない。非常識な亜空間に、彼女に従う精霊達の様子から信じるしかないのだろう。ただ、あまりに香澄の知る常識と違い過ぎる。せめて、相手のペースで話が進むのは避けたかった。
香澄は、しばらく黙って考え込んでいた。まず、契約を交わすには、どれだけ面倒くさくても契約内容を精査しなければならない。それが、詐欺や犯罪から己を守る最低限の行動だと香澄は知っている。
「では、『誓約』について教えてください」
「この場での『誓約』とは、『誓約の精霊』が仲介し、公平と認められた場合に魔力を仲介料に契約する、魔法契約の事です」
「公平の基準は何ですか? 法律ですか?」
「『誓約の女神』である私の独断です」
「は?」
香澄は、『国の法律』とか、『世界の意思』とか、『理』という様なものがあるからと、言われるだろうと予想していただけに拍子抜けした。
「私が異世界転移した時代の国々の法は、支配者や権力者の言葉そのものでした。約束に効力は皆無、力が全て、弱い立場にある者は、蹂躙されるしかない世界でした。そんな世界を変えるため、ただの『迷い人』だった私は『誓約の女神』になりました。もちろん、思っただけで簡単に成れるものではありませんよ」
真幌は、真剣な表情を崩す事なく、流れるように話し続ける。
「私は、元の世界で成績も中くらいの普通の女子高生でした。法律や契約書の知識などありません。ただ、当たり前の約束事が、無惨に破り捨てられ、騙されたり、借金まみれや、税の代わりに奴隷にされたり、この世の生き地獄に落とされる人々が存在することを、絶対に許せませんでした」
つまり、八百年前のこの世界は、国も法律も未熟な封建的な酷い時代だったのだろう。そんな世界に、まだ学生の時分に転移してきたなんて、どれ程の苦難を乗り越えて今の彼女があるのだろうか?
「成り行きで、私は『誓約の女神』になりましたが、この思いは変わっていません。私は、契約の守護神にして、約束を破る者を断罪する裁定者です。私が、契約者双方の公平を計る天秤の役目を負います。契約者には、それを承知の上で契約していただいております」
真幌の説明は、簡潔であっさりしたものだった。それだけに、香澄は彼女の言葉は偽りなく重い真実だと感じた。彼女の見た目は平凡な女子高生だが、態度や明確な言葉を選びながら説明する誠実さに好感が持てた。
香澄は、知りたい事を続けざまに質問した。真幌は、答えられる限り一つ一つ丁寧に説明してくれた。香澄と『誓約の女神』の話しの合間に『誓約の精霊』達がお茶や軽食を用意してくれた。それくらい長い間、香澄達は話していたのだ。
「あのう、『在沢司法書士事務所』って、やっぱりキャバクラっぽいですよね」
「実は、契約者の関係が拗れて合意にいたらず、契約締結まで数日間かかる時もあるのです。いくら亜空間から出れば時間は経過していないといえ、不毛な時間に付き合うのは大変なんですよ。契約者もおっさん率が高いので、接待スタイルで進めると、早く上手くまとまる確率が高いのです。改善していくうちに、いつしか『在沢司法書士事務所』は、キャバクラ擬きになってしまいました。以前は、厳格な神殿風だったんですよ …… 。しかも、誓約の精霊達が、このキャバ嬢スタイルを気に入ってしまって、修正が効かなくなりました …… !」
がっくりと、真幌はうなだれた。香澄は、色々突っ込みたかったが、生真面目そうな『誓約の女神』に、それ以上何も言えなかった。
「では、川端香澄さん。契約にご納得いただけましたか?」
「 …… わかりました。あの少年と『主従の誓約』を交わします」
「承りました」
最後に満面の微笑みで締めくくった『誓約の女神』を見て、香澄は嫌な気持ちになった。いつだったか、営業マンが、自身に有利な内容で契約出来た時の顔と、重なって見えたからだ。
もし、この契約が竜族やアレクシリスさんに責められたとしても、『誓約の女神』の薦めがあった事を、大義名分にしてもいいだろうか?
「構いませんよ。川端さん、その考え方でいいのです。貴女は、この世界で自分を守りながら生きる方法を、貪欲に得ていくべきです」
「ああ~、そうでした。考え、筒抜けでしたね」
香澄は、力なく笑った。隣の誓約の精霊が、香澄の頭を撫でて慰めてくれた。
香澄は真幌から、藍白達がいる空間と『在沢司法書士事務所』のある空間は、時間の流れが違うので、ほとんど時間が経ってないと言われて安心した。
しかし、藍白達と再会した時、二人は一段とぼろぼろになっていた。香澄は、すぐに戻らなかった事を後悔した。黒い霧の少年は、速攻で定位置の香澄の腰にしがみついてきて、藍白を威嚇している。香澄は、そんな少年の頭を撫でてなだめた。
「香澄ちゃん。そいつから、離れて!」
「藍白、ごめんなさい。わたしはこの子と『主従の誓約』を交わそうと思っているの」
「香澄ちゃん?! 『誓約の女神』に無理やり契約する気にさせられてない?」
「大丈夫。よく、考えて決めたから」
「大丈夫じゃないよ! そいつは『異界の悪魔族』なんだよ?」
「藍白 …… そもそも『異界の悪魔族』って、何なの?」
「香澄ちゃんは、知らないんだよね。コイツらは、世界の敵だよ。太古の昔、地上は竜族の皇国が支配していたんだ。ある日、異世界からやってきた奴らは、たった一夜で、一つの大陸を国や人々ごと消滅させたんだ。それから。『異界の悪魔族』のせいで、世界は暗黒の時代が続いたんだ。千五百年くらい前に『異界の悪魔族』と竜族の皇国や多くの種族が総力戦を仕掛けて、やっと 亜空間に封印したんだ。長い間の戦いで、竜族は数を減らして文明も衰退してしまった。滅んだ種族も数えきれない。いまだに、小物の悪魔族が封印の隙間から逃げ出して、人間を唆して、国々に争いを起こしているんだ。そのせいで、竜族も人間も多くの国が消えて更に人も減った …… 」
藍白が、辛そうに顔を歪めて語った。
香澄は、かなり深刻な話に『誓約の女神』を思わず振り返って見た。真幌達は、藍白の言葉に反論することなく沈黙している。こちらの話し合いに干渉するつもりはないらしい。香澄は、ため息をついて少年にたずねた。
「君は、藍白の言うような『異界の悪魔族』なの?」
『私は『異界の悪魔族』とは、違います。私が生まれたのは、『異界の悪魔族』が封印された後です。姫様に命じられ、新たな主様を待って魔霧の森で眠っていました。私とアレらとは違う。アレらは、繋がり合うことで情報を共有します。しかし、私は違うモノになってしまいました。それに、アレらには別の主がいます。アレらと私は、相容れない存在です。だから、私はある意味『異界の悪魔』ではありません』
「う、つまり、君は、『異界の悪魔』じゃなくて、悪い事はしてないし、しないって事かな?」
『主様のご命令にしたがいます!』
「騙されないで、コイツらを信じちゃ駄目だ。香澄ちゃんは、こんな得たいの知れない物と『主従の誓約』なんて、どうしてする気になってるの?」
香澄は、ちょっと困った顔の笑顔を藍白に向けた。
「多分、罪滅ぼしかな? 以前に、同じような事を言われた人を …… 見殺しにした事があるから …… 。だから異世界にまで来て、また繰り返して後悔するより、いいかなって思ったの。心配かけて、ごめんなさい。藍白」
ーーーー 嫌だ!もう、俺は一人ぼっちなんだ。お前が、俺を見捨てたんだ!
香澄は、この一年間ずっと耳から離れない声を思い出して俯いた。
「分かった。立会人として、この誓約を見届けるから、香澄ちゃんに不利な条件なら無効にするからね」
「川端さん、話はついたかしら?」
「はい」
藍白は両腕に誓約の精霊が引っ付いている。今度は、藍白がモテてるなと香澄は思った。真相は、誓約の精霊達にやんわりと押さえつけられて、こちらに近寄れないらしい。
誓約の女神が香澄と少年に告げる。
「これより、誓約を行う。川端香澄を『主』、『黒い霧の少年』を『従』とする、『主従の誓約』です。誓約の要請者、汝の条件を述べよ」
少年の紅い瞳が、キラリと妖しく光った。
『香澄様を『主』とした、『主従の誓約』を交わし、主様から名を得て、主様と、何時如何なる時も、生涯共に在りたい!』
「え、無理! そんなストーカーは要らない! 結婚するわけじゃないんでしょう?」
『そんな …… 主様をお守りする為にお側においていただきたいだけなのです』
「ううっ …… 」
香澄は、『誓約の女神』との会話を思い出した。
「『黒い霧の少年』との主従の誓約。具体的にどんな内容になりますか?」
「『黒い霧の少年』の要請は、貴女を『主』に、『黒い霧の少年』を『従』とし、全てを貴女に委ねるものです。つまり、貴女は彼を支配して、生かすも殺すも自由な立場になります」
「何故、そんな不公平な契約を? わたしは何も返せませんよ? それって、わたしの地球的観念の悪魔との契約みたいに、わたしの願いを叶えたらわたしの魂を貰うみたいな事ですか?」
「いいえ、貴女に望まれる対価は、名を与えて支配する行為そのものです」
「それって、彼にとって不利な契約じゃないですか?」
「『黒い霧の少年』は、『異界の悪魔族』などと呼ばれていますが、実際は、異界の精霊の様なものです。長い間の孤独に歪み不安定ですが、『主』を得れば彼は勿論、世界にとっても利益になるでしょう。貴女も守護者を得ることが出来るのです。これは、ささやかなアドバイスです」
「なるのでしょうか?」
「精霊誓約は、魔力を仲介料に公平性と契約の正しい履行を『誓約の女神』が保障するシステムです。契約違反があった場合、『誓約の精霊』は違反者に罰則を与え、正していきます。つまり、『誓約の女神』も、責任を負います。契約者双方の条件や対価の調整についてもです 」
「そうですか …… 契約期間は、どれくらいになりますか?」
「一生涯ですね」
「そんな、生命保険じゃあるまいし、一生涯だなんて重すぎます」
「大丈夫です。あれは、貴方の望み通りに仕えるでしょう。姿を見せるなと命じれば、貴女が死ぬまででも、姿を現さないでしょう。そうやって、命じれば良いのです」
「 …… そんな、わたしがあの子を理不尽に利用していいわけないでしょう」
「『主従の誓約』とは、そういう物です」
「もし、わたしと契約出来なかった場合、あの少年はどうなりますか?」
「さあ、絶望して消えてしまうかもしれませんね。それに、少年はこの『在沢司法書士事務所』を召喚するために、自分の魔力をほとんど使いました。場が消えれば、竜族に簡単に討伐されてしまいますね」
「そんな …… 」
『もしや、この姿が、お気に召さないのですか? では、どんな姿ならばよろしいか?』
香澄は、唐突につらつらと考えはじめた。
どんな姿をしていれば大丈夫なのだろうか、 彼は、異界の精霊の様なものだと聞いても、ずっと少年と一緒の生活は無理だ。成長して大人になられたらもっと難しくなる。いつも一緒にいるなんて恋人じゃないんだから …… 一生は責任持てないかもしれない。どうしよう?
ああ、考えてたら、頭が痛くなってきた。そうだ、もっとチビっちゃくなったらいいかもしれない。小さな生き物の姿ならどうだろう? ああ、猫なら! 一度、猫を飼ってみたかったのよね。小さな猫なら大丈夫かな? モフモフの長毛種でフサフサしっほがいいな、元の世界に戻っても、問題なく一緒にいられそうだしね。
でも、今の少年の姿も可愛いし嫌いじゃない。それに、彼が成長したらどんな大人になるんだろう? うん、間違いなく美形だよね。
『 …… 名前は?』
ん? 名前、名前ね、少年は何だか色々と病んでるし、ずっと孤独で真っ暗闇だったんだよね。
『 …… はい。おっしゃる通りです』
あ、妹の子供が、男の子だったらって考えてた名前に、いいのがあるのを思い出した。昭和生まれのわたしには、ちょと呼ぶのには恥ずかしい感じの名前なんだけどね。
「皓 …… 月の白い輝きが、闇と病みを払いますように …… 輝かしい未来がありますように …… 皓輝」
『我が名は皓輝。貴女の忠実な僕、皓輝』
パチンと、香澄は急に目が覚めた感覚がした。
しまった、この空間は香澄の思考が駄々だ漏れなのに、うっかり口にまで出してしまった。でも、覚えのある妙な違和感がある。思考を操られたような、ゾワリとした嫌な感覚が脳裏に拡がっている。
誓約の女神が、ニヤリと悪そうな笑みを浮かべた。
香澄は、彼女に何かされたのかもしれないと、疑ったがもう遅かった。誓約の女神は高らかに宣言する。
「『誓約の女神』が認めよう。川端香澄を『主』に、名を与えた『皓輝』の、『主』として生涯管理支配する事を条件とする。名を得た、皓輝を『従』に、全てを『主』に捧げる事を条件とする。誓いに反した場合、『誓約の女神』によって断罪される。ここに、『主従の契誓約』の締結を『誓約』する!」
香澄と皓輝のまわりが強い光に満ちて、何が自分達に刻まれた感覚がした。おまけに、ごっそりと香澄の体内から力を奪われた気がして、そのまま座り込み手をついた。軽い立ち眩みだったのか、すぐに治まった。
ふと、前を見るとコロンとした毛玉のような子猫がいた。紅い瞳はそままに、体毛は艶々の真っ黒ながら柔らかな長毛、胸元と足先が白く、鼻先と足の肉球は黒い。残念、ピンクじゃなかった。
香澄は、すぐに理解した。この子猫は皓輝だ。あれ、茶髪の要素が消えた?
香澄が子猫を抱き上げると、くにゃんくにゃんのふにゃふにゃだった。子猫特有のちょっとまの抜けた顔も、『みぃ、みぃ』鳴く声も超絶的に愛らしく香澄は身悶えた。
「か、可愛い。とりあえず、モフろうかな …… 」
契約云々は、なんとなくなので、深く追及されませんように、お願いいたします……orz
お読みいただき、ありがとうございます。




