思い出の場所として一生忘れずに覚えておくわ
とてもいい男の人を見つけたものだわ。
心の底からそう思った。
誠実だし、女性への心配りもできるし、お仕事もできそうだしね。
何より私のことを小学生だからと軽く見ず、質問に誠実に答えてくれる。
ちょっと説明っぽく難しい言葉を使ったりしたりもしたけれど、それも私の質問にきちんと向き合ってくれたからだろう。
「選んだのが真くんで良かったわ」
「ん、選んだ、かい?声をかけたのは僕からだったと思うけど」
「ごめんなさいね真くん。騙すようなことは嫌だからきちんと伝えておくわ。あなたに声をかけてもらおうと思ってわざと目の前を通り過ぎたの。だからあれは騙し討ちみたいなもので、ほぼ私から声をかけたようなものなのよ」
「え、そうなのかい。いやでも実際に声をかけたのは僕からであって……あ、もしかして声をかけられるのはもう確信していたみたいな?」
「ええそうよ。実際そうだったでしょう。ごめんなさいね、どうしてもこのエラー品の容姿のせいでどうすれば男の人が声をかけてくれるのかとか分かってしまうものなのよ」
「エラー……かい?」
「そ、もうね、謙遜しても嫌味になるだけだからはっきり言っちゃうけどこれは神様が魅力値を間違えて打ち込んでしまったエラーなの。だからそういうことも分かってしまうのよ。経験からね。あ、いやらしい意味じゃないわよもちろん」
唇の前に人差し指を突き出してどこかで見た少しばかり色っぽい仕草をしてみる。
「そ、そんなの分かってるよ!」
……ふふ、本当に真くんは可愛い。
「真くん、モテたでしょう。いえ、モテるでしょう。私、真くんのお仕事のことは知らないけど経済的に恵まれているであろうことは想像つくし、何よりハンサムだわ。寄ってくる女だって多いでしょう」
「うーん、まあ……君の言葉を借りれば、謙遜しても嫌味になるだけだから……肯定しておくよ」
「今の女性関係も気にならないと言えば嘘になるけど、ちょっと私としては想像がしにくいのよね。社会人になってからの恋愛だと色んな要素が絡み合いそうだし。だから、学生時代の真くんのお話を聞いてみたいわ」
「学生時代、かい?そんな面白い話でもないと思うよ。別にプレイボーイってわけじゃないし、僕よりモテてた男なんて何人もいた。人並みにはモテたけど、経験豊かってわけでもないと思う。当たり前だけど学生時代からお金を持っていたわけではないからね」
「中学生の頃のお話を聞いてみたいわ。私、あと四年で中学生よ?遠い未来の話ではないわ。私だって女ですからね、カッコいい男性の学生の頃の恋愛話なんて気になるに決まってるわ。恋バナよ」
「うーんと……面白い話かどうかは分からないけど、じゃあ中1の頃の話からしていくかい?」
「お願いできる?私ね、さっきの真くんのお話を聞いて一応自分の中でどうやって男性関係を作っていくかなんとなく形は見えたのだけど、純粋に真くんの話を聞いてみたくなってしまったのよ」
「中1の……入学して間もない頃だったかな。髪がとても長い女の子がいたんだ。髪型もね、その長い髪の毛を前髪ごと縛って後ろで三つ編みにしている感じだった。幼稚園の頃から切ってないって言ってたかな」
「へえ、珍しいわね。前髪ごと縛ってってことはおでこが丸出しみたいな感じ?」
「そうそうそういう感じ。元々の素材が良かったんだろうね、そんな髪型でもとても魅力的だったよ。それで、中学になると部活動があるだろう?今だとクラブ活動っていうんだっけ。それで入ったのがバレー部でね、その長い髪をバッサリ!さ。先輩に『明日までに切ってこい』って言われたらしくてね」
「平成ね」
「リアルで平成だからね」
「ごめんなさい茶々を入れて。それで切ってきたの?」
「うん、ボブっていうのかな?一気に短くしてきたんだ。その落差が凄くてね。周りの男子も大騒ぎさ。丸出しだったおでこを綺麗に揃えた前髪で隠して、一気に垢抜けた感じになっていたよ」
「あー真くんいけないんだ、髪型変わったからって惚れちゃったんでしょ」
私は指をピストルに見立てたような格好でニコっと笑いながら指さすとまた真くんは胸を押さえてしまった。
……真くん、そのうち慣れるわよね?これ。
嫌よ私と話していたのが原因で心臓発作とか。
せっかくこんな可愛い子を見つけたのに。
「うん……まあ中学生男子なんてバカが服着て歩いているようなもんだからね、そんなことでもやられちゃうんだよ。それで、僕はまだ告白とかそういうのは遠い世界の話だと思っていたし、でも彼女と話したくてね、折を見て話しかけるようになった。バレー部だった彼女に合わせて知りもしないバレーの話題をしたりね。テレビで見たりバレー専門の雑誌があったからそれを見て勉強したりしてね」
「それもう惚れてるわよね?」
「うん……そうだったんだと思う」
「それでそれで?」
「こう見えて僕はヘタレでね、さっき話した花壇の子にも思いは伝えられないままだったし、結局成長してなかったんだろうね、最後まで好きですとは言えなかった。でも一緒に出かけたりはするようになったんだよ」
「やるじゃない真くん」
「髪型が変わったことを話題にしたりしてね、それを切った美容院ってどこにあるの?とかそんな無理矢理な理由をつけてね、街に一緒に出かけたりしたかな。当時、700円でピザ食べ放題、ジュース付きなんていうお店があってね、そこでずっと話したりしたものさ。中1の頃の青春の思い出ってやつだな」
「小学生の頃のパキッて割るアイスより少しは進化したのね」
ニッコリと微笑む。
そうすると真くんは心まで中学生に戻ったような笑顔で
「そうそう、そうだよね。アイスをチューチュー吸いながら話していたのも懐かしいけど、お店でピザを食べながら彼女と話していると、まるで自分が大人になったような気がしてね。実際は親から貰った小遣いをやりくりしてお店に行っているだけなんだけどね」
「そりゃ中学生が、例えば今いるこんなお店になんて来られるわけがないものね」
「ああ、そう考えると君とこうしているのはちょっと変な感じになってくるな。もし君が中学生になって彼氏とかできてもこんな店を基準にしたらダメだよ?」
「分かっているわよそんなこと。ここは真くんと一緒に来れた思い出の場所として一生忘れずに覚えておくわ。もし中学生の彼氏がこんな所に私を連れてきたら逆にドン引きよドン引き」
そう言いながら人差し指で真くんの指先をツンッと触れてみた。
真くんがビクっとなってからまた胸を押さえる。
……これ、どこまで真くんが耐えられるのか試してみようかしら?
冗談よ、冗談。




